遺言ですよ 2


木ノ葉病院から出てきたサクラちゃん。
偶然出くわした俺達は、近くの茶店に入って近況を話し合った。
「どこか体の調子でも悪いの?」
一見して、怪我をしている様子はない。
そして、サクラちゃんはにっこり笑って俺の問いに答える。
「お医者さんに3ヶ月って言われたの」

口元に運んだ茶をこぼした俺は、彼女の顔を穴が開くほど凝視した。
「・・・妊娠3ヶ月?」
「違うわよ、馬鹿ね」
サクラちゃんは明るく笑い飛ばす。
何となくほっとした俺に、サクラちゃんはさらに衝撃的なことを告げた。
「余命、3ヶ月よ。一応手術はするけど、気休めみたいなもの。誰にも言わないでね」

 

 

 

それから数日の俺は明らかに変だったと思う。
ぼんやりと考え込むことが多くなり、任務は失敗続き。
だって、サクラちゃんがもうすぐいなくなってしまうのだ。
しかも、両親の他に知っているのは俺だけなのだという。

「何で、俺にだけ」
「万が一の時の保険。私が死んだあと、カカシ先生が気づかないようだったら彼の家の置物を割って欲しいの」
「・・・何それ」
「何でもよ。遺言なんだから、ちゃんと覚えておいてね」
どこまでも明るい口調の彼女に、全ては嘘なのではないかと錯覚する。
本当に、嘘ならば良かった。
痛み止めをいくつも服用して外出するサクラちゃんを見ていなければ、全く信じなかっただろうに。

 

死を宣告されてからも、サクラちゃんはいつも通りに生活している。
だから、誰も気づかない。
こうして外に呼び出され、のんびり茶を飲んでいるサクラちゃんの姿を見ているだけでこっちが泣きそうだ。

「どうして笑っていられるの」
「幸せだったから」
俺の疑問に彼女は即答した。
「私の周りはいい人達ばかりで、優しい両親のもとで何の苦労もなく成長して、本当に恵まれた人生だったと思う。みんなとお別れすることは寂しいけど、悲しくはないの。ただ、カカシ先生のことは心残りかな」
顔を上げたサクラちゃんは少し寂しげに微笑する。
「カカシ先生は大人で仕事面でも上忍の先生で、毎日いろいろなことを教えてくれた。でも、私はまだまだ未熟で子供だから、何にもあげられない。恩返し出来ないまま逝くのは、申し訳ない気がして・・・」

「そんなことないよ」
俺は思わず声を荒げて反論していた。
だって、知っている。
カカシ先生のサクラちゃんへ向ける眼差しがどれだけ暖かいか。
一番近くで見ていたから、分かっている。
「幸せは一人では絶対に感じられない。サクラちゃんがカカシ先生と一緒にいて幸せだと思ったのなら、先生も同じ気持ちだったからだ。何も出来なかったなんて、言わないでくれよ」
「・・・ナルト」
「俺もサスケも、カカシ先生も、みんな胸の奥の方に傷を持っていた。平気な顔をしていても、時々、無性に苦しくなって、心が押しつぶされそうになる。俺達はお互いの傷の深さを知っているけれど、それだけじゃ一緒に落ちることしか出来ない。孤独がどういうものか全く知らないサクラちゃんにしか、俺達を引き上げられなかったんだ」

日溜まりのような明るい笑顔と、臆することなく差し伸べられた手。
彼女のためなら、何でも出来そうな気がした。
サスケもカカシ先生も、口には出さなかったけれど、守りたいものは一緒だった。
それでも、助けられていたのは自分達の方だったのかもしれない。

「形に残らなくても、サクラちゃんは俺達にいろんなものをくれたよ」

 

 

戸惑いながら俺の話を聞いていたサクラちゃんは、最後に一つ涙をこぼした。
たぶん、それがサクラちゃんの本当の表情。
無理して笑っていることはないと思ったけれど、自分の笑顔をみんなに覚えていて欲しいと思うのは分かるから、黙っていた。

「・・・ナルトって、いい人ね。今は無理だけど、きっと来世ではナルトを選ぶわ」
「それも遺言?」
「うん」
真顔で頷いた彼女に、俺は思わず破顔する。
「嘘つき」
俺がどんなに好きでも、先生に会えたらまたそっちに行っちゃうくせに。

 

 

 

結局、それがサクラちゃんとの最後の会話になった。

サクラちゃんが死んで数ヶ月、カカシ先生はどかーんと落ち込んで、ある日突然復活した。
「100年後、サクラに怒られないようにしっかり生きる」とのこと。
いつかまた会えると知っているのと、裏切られたと思い続けるのとでは、やっぱり生きる張り合いが違う。

カカシ先生が来るのを、天上で待っているサクラちゃん。
彼女が見守っていてくれることは、俺にも不思議と感じられる。
来世で本当に彼女が自分を選んでくれるか分からないけど、心身共に磨き上げようと誓う毎日だった。


あとがき??
ごめんなさい。続きはナルサクになってしまいました。
遠くにいってしまっても、何となく守ってくれているっていうのは伝わってくると思います。


駄文に戻る