初恋シンドローム
「春野サクラ、いるーー??」
いつもは保健室から全く出ないカカシが、珍しく昼休みの教室を訪れた。
廊下に立つカカシは扉の隙間から教室内を窺っている。
彼に一番最初に駆け寄ったのは、呼び出された本人であるサクラだ。
「先生、どうしたの?」
「うん、あのさ、サクラって妹さんいる?」
「いますけど」
「その子って5、6歳でサクラと同じ髪と瞳の色で頭に赤いリボンをつけていたりする?」
「・・・・・・・・なんで知っているんですか」
いやに具体的な質問に、サクラの目が細められた。
親しい友人ならともかく、カカシに妹の話など一度もしたことがないはずだ。「あー、そんなに怪しまないでよ。ほらっ」
促され、そのときサクラは初めてカカシの足元を見た。
そこにいたのはサクラと全く同じ容姿の子供、妹のモモだ。
「モモ!!何で学校にいるの?」
「ほら、今日の午前中授業参観があったじゃない。サクラのママが学校に連れてきて、この子を校庭で遊ばせていたみたいだけど校舎に入ってきちゃったみたい。保健室の前で泣いていて、お姉ちゃんがこの学校に通っているっていうからサクラを思い出したんだ」
「ああーー、もう、ママったら」
サクラは頭を抱えたが、それならば母は今頃必死にモモを捜しているはずだ。
「モモちゃん、お姉ちゃんが見つかって良かったねー」
「うん」
カカシが笑いかけると、モモも応えるように微笑む。
サクラも校内では美少女で通っているが、モモも負けず劣らず愛らしい笑顔だ。
「可愛いーvちっちゃいサクラちゃんだ」
そばで事情を聞いていたナルトはたまらずモモに手を伸ばす。
「ナルト兄ちゃんだよーvvこっちおいでーーー」
メロメロな笑顔でモモを引き寄せようとするが、彼女は首を振ってカカシにぴたりとくっつく。
もともと、モモは人見知りをする性格だ。
初めて会った人間には、大抵ナルトに対するものと同じような反応をする。「あれ、でも、カカシ先生も初対面よね」
「そうだよ。ああ、はいはい」
モモに服を引っ張られたカカシは、彼女が要求していることに気づき、その体を抱えあげた。
カカシに抱っこをされるモモは満面の笑みだ。
何か、モモの気に入る要素がカカシにあったのかもしれない。
それまで黙って二人を見ていたサクラは、何故だか無性にむしゃくしゃした気持ちになる。
「ちょっと、モモ、カカシ先生から離れなさいよ!!ママと一緒に家に帰りなさい!」
「いや!!ここにいるの」
「先生には仕事があるのよ!もうすぐ昼休みは終わるんだからね」
「ああ、別にいいよー。ママが迎えに来るまで俺が保健室で面倒見ていても・・・」
「先生は黙っていて!!!」
サクラに鬼のような形相で言われたカカシは笑顔のまま固まった。
「モモってば、先生にべたべたするんじゃないわよ!!」
「やーー!!」
カカシの白衣を掴んで抵抗したものの、サクラの腕力に逆らえずモモは彼から引き剥がされる。
そのままギャーギャーと騒がしく喧嘩を始めた姉妹を誰も止められない。
教室の生徒達が唖然として見守る中、同じく傍観しているカカシの体をナルトが軽く突付く。「先生、止めないでいいの?」
「だってー、ちっこいサクラとおっきいサクラが、俺を挟んで争っているんだよー。もう、最高に幸せ〜〜vv」
「・・・そう」
ほほを染めて答えるカカシに、それ以上の進言を諦めるナルトだった。
あとがき??
カカシ先生を取り合う二人のサクラを書きたかっただけです。オリジナルキャラを出して申し訳ない。
サクラちゃんとモモちゃんは男の趣味が一緒だったようですよ。
きっとサスケに会ったら彼にもぽーっとなります。(笑)
また書きたいなぁ、サクラVSモモ。
ちなみに姉の校舎で迷子になったのは幼い時分の私です。
若葉マーク
入学間もない、桜の咲く季節だった。
廊下の窓から入り込んだ春風にスカートを捲られたサクラは慌てて裾を押さえる。
幸い、周囲に人影はない。
ホッと胸をなで下ろした瞬間、「うさぎちゃん」と一声かけられ、サクラは体をびくつかせて立ち止まった。
恐る恐る振り返ると、階段をのぼってくる白衣の男が視界に入る。
化学か、生物の教師だろうか。
新入生のサクラには、教師の顔はまだ判別することが出来ない。「はい」
にっこりと笑って手渡されたのは、突風に驚いて落としてしまったプリントだった。
礼を言って頭をさげたサクラは、ふと、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「・・・うさぎちゃんって、何ですか?」
「君のパンツに描かれていた可愛い絵」
徹底的に恥ずかしかった。
よぼよぼの年輩教師ならいざ知らず、相手はなかなか男前の若い教師だ。
こんなことならば子供っぽいパンツを選ぶのではなかったと思うが、そういう問題でもない。
親友のいのに彼の特徴を伝えて訊ねると、それはこの学園の保健医ということだった。
もう恥ずかしくて二度と会えないと思ったのだが、サクラが保健室を訪れる機会は三日もしないでやってくる。「こんにちは・・・・」
おずおずと声を出すサクラは、ノックの後にその扉を開いて周囲を見回した。
サクラに背中を向け、机に向かって何かを書いているのは、確かにあのときの白衣の男だ。
気配に気づいたのか、振り向いた彼は、サクラの顔を見るなり困惑した表情になる。
「うさぎちゃんだ。やっぱり、公平じゃなかった?」
「は、はい!?」
「しょーがない。俺も腹をくくるよ!」
「えっ」
話に全く脈略がなかったが、彼がベルトに手を掛けたのを見たサクラは仰天して叫び声をあげていた。「キャーー!!!な、何で脱ごうとしているんですか!!」
「だって、俺だけうさぎちゃんのパンツを見たら不公平だから、俺のも君に見せようかと」
「け、け、結構です!!別に、先生のパンツを見るために、ここに来たわけじゃないです!!!」
慌てふためくサクラを凝視すると、彼は「じゃあ、何?」と言って首を傾げる。
「指、切ったんです。調理実習の最中に。ば、絆創膏を頂きたいと思って・・・・・」
顔を赤くするサクラは、段々と声を小さくしていった。
目の前にいる保健医は、とてつもなく変な人のようだ。
でも、「なんだー」と笑う姿を見ると、心臓が痛いくらいに高鳴って訳が分からなかった。
「あのさー、君、俺と付き合わない?」
丁寧にサクラの指に薬を塗る保健医は、絆創膏を箱から出しながら言う。
まるで、今日の天気の話をするかのように、気軽な口調だ。
随分と時間が経過し、彼が不思議そうな顔をしてから、ようやくサクラは我に返る。
「つ、付き合うって!」
「君のパンツに一目惚れしたみたいで・・・・」
あんぐりと口を開けたサクラに、カカシは口元に手を当ててくすくすと笑った。「冗談。君にだよ。どう?」
「こ、交換日記から始めるんだったら、いいです」
「・・・・もしかして、男の子と付き合ってこと、ないの?」
「・・・」
サクラは返事をしなかったが、頬を染て目をそらした彼女を見て、保健医は察したらしい。
「了解しました」
あとがき??
ラブリーですv
いいなぁ、カカシ先生とサクラの交換日記、読んでみたい!とくに、先生!!
言えない一言
「ナルト、ちょっと消しゴム貸して」
「ああああーーーーー!!!!」
サクラが傍らの机から消しゴムを取ると、ナルトは急に悲鳴を上げた。
その声の音量に驚いたサクラは、目をぱちくりと瞬かせる。
「な、何よ。ちゃんと返すわよ」
「違うよーー。せっかくおまじないしていたのにーーー」
しくしくと泣くマネをしたナルトは、サクラが思わず放った消しゴムを見せて説明し出す。
外側のカバーを外すと、その消しゴムには『春野サクラ』と名前が書かれていた。「ナルトの消しゴムに、何で私の名前が書かれているのよ?」
「だから、おまじないだってば!新しい消しゴムに好きな人の名前を書いて、他の誰にも触られずに使い切れば両思いになれるんだって。ああーー、もうちょっとだったのに」
「ごめん・・・」
あまりに意気消沈しているものだから、サクラは自然と謝ってしまう。
だが、自分が何とも思っていないのだから、そのおまじないが達成されていたところで効果はないような気がした。
そもそもナルトは毎日サクラに「好き好き」言っているのだ。
こうしたおまじないは、「好き」という言葉を上手く相手に伝えられない乙女がやる願掛けではないだろうか。「また新しい消しゴム買わなきゃ!」
思案するサクラを気にせずナルトは一階の売店に行くために蛙の財布を鞄から取り出す。
そのまま駆け出そうとするナルトを、サクラは袖を引いて引き留めていた。
「ナルト、お金渡すから私のも買ってきて。前のを無くしちゃってみたいなの」
『はたけカカシ』と書いた真新しい消しゴムにカバーを付け、使い続けること数週間。
たかがおまじないと思いつつも、消しゴムが小さくなるごとにサクラはドキドキしてしまう。
誰にも見られないよう、注意しながらペンケースに入れていたのだ。
まさか、志半ばでその消しゴムを紛失するとは、とんだ誤算だった。
あの名前を誰かに見られること、そして消しゴムの持ち主がサクラだということは、何としても公にしたくない。
美術室でデッサンの授業をしたときはきちんとあったのだから、おそらく筆記具を持って移動したときに落としたのだろう。
「サクラ」
「キャーーーー!!!」
廊下に這い蹲って落とし物を捜していたサクラは、肩を叩かれて悲鳴を上げた。
振り向くと、目を見開いたカカシが立っている。
内緒の捜し物をしていたために過剰に反応してしまったが、廊下にいる生徒達の注目を集めてしまい、非常に恥ずかしい。
「あっ、ご、ごめんなさい。何ですか?」
「うん。これ、保健室に落ちていたんだ。サクラのでしょう?」
カカシの掌にのっている物を見るなり、サクラは再び絶叫しそうになる。
おまじないに使った、カカシの名前を書いた消しゴムだ。
美術室を出た後、彼の顔を見るために少しばかり保健室に寄ったことをすっかり忘れていた。「あの、み、み、見た?」
「何を」
けろりとした顔で聞き返すカカシに、サクラはホッと息を付いた。
告白をする勇気がないというのに、おまじないで気持ちがばれてしまうのは、絶対にさけたい。
「何でもないです。見つけて頂いて、有り難うございました!」
気恥ずかしさから顔を赤くしたサクラは、消しゴムを仕舞うと一目散に駆けていく。
見送るカカシは笑顔で手を振っていたが、彼女が見えなくなってもまだその場所に佇んでいた。
「気味が悪い」
ぼんやりと立ちつくすカカシに声を掛けたのは、通りかかった生物学教師のアスマだ。
思い切り眉をひそめているアスマに、カカシは頬が緩んだままの顔を向ける。
「何でニヤニヤしてやがるんだ・・・」
「エヘヘー。アスマ、生徒の間ではやってるおまじない知ってる?」
「まじない?」
「消しゴムに好きな人の名前を書いて、使い切ると想いが成就するの」
「・・・・くだらない」
すたすたと廊下を行き過ぎようとしたアスマを、カカシは強引に掴まえた。
「それでね、サクラのペンケースから消しゴムを抜き取って調べたら、誰の名前が書かれていたと思うー?」
「別に聞きたくない」
「そう、言わずに!サクラってば俺が消しゴムを見せたら慌てちゃって、凄く可愛かったんだから」
あとがき??
カカシ先生、おぬしもワルよのぅ・・・・。
このおまじない、中学のときはやってたように思う。
「おまじない」とは「お呪い」と書くのですが、成就するには代償が必要になるそうです。呪いですから。
あまり大きな願いごとをすると、代わりに大事なものを失うそうです。ちょっと怖いですね。
アスマ先生が生物学の教師なのは、高校時代の先生がアスマ先生と似ていたからですね。髭が。
偽友人
朝、サクラが登校するといのが靴箱の前で何通かの手紙を持って立っていた。
こうした状況で、それはラブレターと決まっている。
「いのってば、いつも凄いわね。私なんて手紙が入っていたことないわよ」
「そう?」
「羨ましい」
屋内用の履物に足を通すと、サクラはため息をつきながら教室へと向かう。周りの友人は皆、休日になると仲の良い男子達と遊んでいるようだが、サクラには全くお呼びがかからない。
よほど自分に魅力がないのだと思い、少々落ち込みながら歩くサクラの後ろ姿を、いのは静かに見つめていた。
手元にある手紙の宛先は「山中いの」ではなく「春野サクラ」となっている。
いのは毎日サクラが来る前に処分しているのだが、懲りずに手紙をよこすのだから油断も隙もなかった。
「春野さん、いるー?」
昼休み、誰かがサクラを訪ねてきたらしく、戸口に立つクラスメートがきゃろきょろと首を動かしている。
廊下に立つ上級生は、いのにも見覚えのある顔だった。
サクラと同じ委員会で活動しているらしく、近頃頻繁に彼女にまとわりついている男子生徒だ。
「サクラだったら、図書室に行きましたよ」
彼にそっと近寄ったいのは後ろから声をかけた。
「そう、有り難う」
笑顔で礼を言い、立ち去る上級生に対していのは心の中で舌を出す。
サクラは中庭の花壇で花に水をやっているのだから、図書室に向かった彼とはすれ違いだ。疑うことを知らず、騙されやすい性格のサクラをいのは昔から守ってきた。
もちろん、これからも彼女に近寄る悪い虫には容赦しないつもりだ。
悪い男に引っかかり、泣くサクラなど見たくない。
素直で優しく、可愛いサクラはいのの傍らで笑っていればそれでいいのだ。
「いのちゃんー、サクラ、知らない?」
握り拳を作り、決意を新たにしたいのに馴れ馴れしく声をかける男が現れる。
振り向いたいのは、必死に笑顔を取り繕いながら返事をした。
「サクラだったら、図書室に行きましたよ」
「了解。有り難うねーv」
へらへらと笑っていのの頭に手を置いたのは、目下のところいのの最大の敵だ。
保健医のはたけカカシ。
ことあるごとにサクラを保健室へと連れ込み、彼女の方も何故かカカシに懐いている。
許せるはずがない。「いのちゃん、今日も可愛いね〜。サクラの次に」
「・・・有り難うございます」
頬を引きつらせながらも何とか笑顔を保ったいのに、カカシは満面の笑みで頷いてみせた。
園芸部に所属するサクラは、花の世話をするのが大好きだ。
教室にいない場合、図書室か花壇を捜せば大抵はサクラの姿を見つけることが出来る。
そして、いのが「図書室」と言ったから、カカシは花壇に向かって歩いていた。
理由は不明だが、彼女がサクラと自分の関係を良く思っていないらしいのは、その作り笑顔を見れば分かる。
サクラの友達は自分の友達ということで、カカシはいののことがわりと気に入っているために少々寂しく思っていた。「あっ、いたいた。サクラ〜〜vv」
花壇の前に座り込むピンクの髪の女学生を見つけたカカシは、弾む声で彼女の名前を呼ぶ。
振り返ったサクラも、視界に彼の姿を入れるとすぐに顔を綻ばせた。
「カカシ先生」
「久しぶり〜v」
「朝、ちゃんと保健室に挨拶に行ったでしょう」
「何時間も前のことじゃないか。本当は一分一秒だって離れていたくないのにさ」
すねたような口調で言うと、カカシは近づいてきたサクラを思い切り抱きしめる。
続いてその甘い唇も味わったのだが、彼女はすぐに身をよじってカカシから離れてしまった。
「誰が見ているか、分からないでしょう」
「じゃあ、保健室で続きしようよ。午後の授業はさぼってさ」
「・・・・」
サクラが思わず押し黙ったのは、次の授業のことを考えたせいではない。
教室にとどまらずとも十分補える頭脳を持っているのだ。
彼女が学業以上に気にしているのは親友のいののことだった。「いのが変に思っているのよ。先生のところに寄るから、最近一緒に帰っていないし・・・だから今日は・・・・」
「俺に抱えられて運ばれるのと、大人しく歩いて移動するのと、どっちがいーい?」
やんわりと笑顔で訊ねられる。
どうやらカカシはサクラの言葉が全く耳に入っていないようだ。
彼が言い出したら聞かない性格なのは、短い付き合いだがサクラもよく分かっていた。
「行こう」
「・・・うん」
今度はしっかりと頷いたサクラに、カカシは満足そうに笑う。
サクラがもう一度拒めば、間違いなく体を強引に担がれていたはずだ。
退屈な数学の授業。
教師の口からもれる数式を聞きながら、いのは空席になっている机を見つめる。
昼休みに、花に水をやりに行ったままサクラは戻ってこない。
カカシとの仲を認めたくはないが、保健室まで所在を確かめに行く勇気もなかった。
あとがき??
あれ、いの→サクラ?
友達の延長なので、恋愛というわけではないのですよ。
こんなにエロい雰囲気になるとは思わなかったなぁ。
先生の恋って、どうしてこうも盲目的なんだろう。
大きな屋根の相合傘
日直の仕事を終えたサクラは、一日の総括として、その日あったことを綺麗な字で日誌に書き綴っていた。
もっとも、真面目に書いているのはサクラのみで、他の生徒はかなりいい加減な記述をしている。
一行二行書いてあればいい方で、ほとんど落書き帳だ。
よく分からないキャラクーのイラストや、相合傘でカップルの名前が書かれたりしている。
教師の方も受け取って判をするだけでまともに目を通していないのだろう。「山田くんと鈴木さん、仲がいいものねぇ」
傘の柄の両側にある名前を見つめ、サクラは日誌の空欄部分に似たものを書いてみる。
ハートマークを付けた傘の下には、サクラの名前と・・・・。
「・・・・誰にしよう」
適当な名前が思いつかず、サクラは消しゴムで消して机の上に突っ伏した。
暇つぶしに日誌を広げたというのに、保健室の主はなかなか帰ってこない。
「もう、帰っちゃおうかなぁ」
その日はすれ違いばかりで顔を見られず、なんとなく寂しい気持ちだった。
日が暮れる前に職員室に日誌を提出しに行かなければ。
ぼんやりと考えているうちに、サクラは睡魔に襲われたらしい。
はたと気づくと、窓の外は真っ暗になっている。
「ギャッ、嘘!!」
勢いよく立ち上がると、肩にかかっていた上着が下に落ちた。
見ると、それはカカシが愛用しているものだ。
サクラが居眠りをしている間に帰ってきたらしいが、周りに気配はない。「・・・・起こしてくれればよかったのに」
しょんぼりとした気持ちで俯くと、机の上に広げたままのノートが目に入った。
消したはずの相合傘が、再びそこに書かれている。
相違点は、簡単な線画の傘が少し大きめなことと、サクラだけでなくカカシの名前が入っていることだろうか。
ついでに『もう少し待っていてくれれば、送っていくよー』とある。「やだ、これ、提出しないといけないのに」
サクラは心底困った表情でカカシからのメッセージを見つめた。
確認した後に消すべきだというのは分かるが、相合傘の手前部分でどうにも躊躇してしまう。
「・・・・困った」
あとがき??
居眠りサクラちゃんに、チューくらいしていたと思われます。
「おはよう」
カーテンを開けられ、近くにあるTVを大音量で付けられては、嫌でも覚醒するというものだ。
もぞもぞと動いて布団から顔を出したカカシは、恩師の顔を認めるなり、へらへらと笑う。
「おはようございますー・・・」
「おはよう。でも、もう昼だよ」
にっこりと笑う恩師は、平静な声音で答える。
どうやら機嫌が悪いらしい。
長いつきあいからそれを察したカカシは、眠たい目をこすりながらようやく半身を起こした。
何しろ、穏やかな見かけだというのに、怒らせると彼以上に怖い人間はこの世にいないのだ。「で、何で先生がここにいるんですかー?鍵はかけたはずだけれど」
「管理人さんに頼んで開けてもらったんだよ」
「ははあ・・・・」
カカシの住むマンションの管理人は、50代の主婦だ。
金色の髪と、青い瞳を持つ麗人に頼まれ、すぐにぽーっとなって鍵を渡したのだろう。
何しろ、彼の恩師は女性にすこぶるもてる。
ホストになれば瞬く間に店のNO.1になれること請け合いだ。
「カカシ、毎日毎日のんべんだらりと生活して、それでいいと思ってる?元担任として、嘆かわしいよ」
「いーじゃないですか。研究所で大発見して、一生遊んで暮らせるお金は手に入ったんだから。だらだら過ごしていても」
「そんなことをしていたら、あっという間におじーさんだよ!もっと有意義に生きなさい」
「はあーー」
顔を背けたカカシが欠伸をしていることに気づき、恩師はさらに目を険しくした。
「これが、君の新しい任務!!俺が理事をしている学園の保健医の仕事だからね」なにやら書類の入った封筒を投げつけられ、カカシは仰天する。
好きなときに寝て、好きなときに食べて、好きなように生きようと思っていたのに、とんだ邪魔が入った。
だが、彼には散々世話になっており、どうにも断りにくい。
医者としてオールマイティーの能力を持つカカシならば校医など簡単に務まるが、今更真っ当に働く気もしなかった。
恩師に睨まれ、仕方なく資料に目を通していたカカシは、挟まっていた写真に目をとめると後方を振り返る。
「・・・これは?」
「ああ、俺の息子のナルト。学園に通っているから参考に入れておいたんだ。後ろに写っているのが校舎だけど、なかなか立派な作りだろう」
「そっちじゃないです。先生の息子さんの隣りに写っている、この可愛い女学生ですよ」
「春野サクラちゃん。ナルトと同じクラスの女の子・・・・・・だけど・・・」
そこまで言ってから、妙に嫌な予感がした。
全くやる気の無かったカカシが、いつの間にか、にやけながら写真を見つめている。
「先生ーー、俺、やっぱり保健医やりますーvいやー、楽しみ、楽しみvv」
「・・・・そう」もしや、自分は学園に狼を放ってしまったのではないだろうか。
やる気を出した生徒を見て安堵するはずが、全く逆の心境になっている。
写真を胸に押し抱く元生徒を見つめ、非常に不安を覚えてしまう恩師だった。
あとがき??
狼、目覚める!(笑)
これが、二人の出会うきっかけのようです。
何気なく四代目を登場させてみたり。趣味です。
空回りロマンス
「こんにちはーー」
言葉と同時に、保健室の扉が開かれた。
休み時間のたびにサクラはこの部屋を訪れる。
最初は頭痛や腹痛といった言い訳を口にしていたが、今ではそれはやめたらしい。
「用件は?」
「冷たいなー。さっきまで本当に具合が悪かったんですよ。でも、先生の顔を見たら治っちゃいました」
「・・・・そう」
ならば帰ればいいと思うカカシだが、サクラは休み時間が終わるときちんと教室に戻る。
授業をサボるわけではないから、強く言うことが出来なかった。「立ってないで、好きな場所に座ったら?」
「はい」
扉の前で立ち尽くすサクラに促すと、彼女は嬉しそうに近づいてくる。
そして、カカシの膝の上にすとんと腰を下ろした。
「・・・・・・サクラ」
「座ったらって、言ったじゃない」
「いや、ほら、その辺にパイプ椅子もあるし」
「好きな場所だもの」
「・・・・」
成績はいいらしいが、変な子だとカカシはいつも思う。
サクラの体重は軽く足への負担はそれほどでもないのだが、問題はそうしたことではない。
密着した部分から伝わる彼女の柔らかな体の感触や髪の香りが妙に意識されてしまう。
ここにいるのは子供だと言い聞かせながら、そのまま抱き寄せたくなる衝動を何とかこらえた。
「・・・カカシ先生」
「えっ、な、何」
暫しの沈黙のあと、唐突に声を出したサクラにカカシはびくりと体を震わせて答える。
自分の邪な気持ちを知られてしまった気がして、妙に上ずった声になってしまった。
「紅先生が恋人って、本当ですか?」
「紅?あいつはほら、お前達の担任のイルカ先生と出来ているんだよ。こっちが見ていて恥ずかしくなるくらいラブラブな感じ。俺には恋人なんて何年もいないよ」
「そうですか」
サクラの声音がとたんに明るくなったが、カカシにはその言動は相変わらず意味不明だ。「じゃあ、私そろそろ帰ります」
勢いよく立ち上がると、サクラは彼に顔を近づけてにっこりと笑いかける。
「うん、じゃあ・・・・」
そのまま立ち上がろうとしたカカシは、最後まで言葉を続けられなかった。
カカシの頬に手を添えたサクラが、突然唇にキスをしてきたからだ。
目を丸くして自分を見つめるカカシに、サクラは腹を抱えて笑い出す。
「先生ってば、目玉が落ちちゃうわよ。おかしいーーー」
「・・・・大人をからかうんじゃないよ」
「ごめんなさい」
ふてくされたように言うと、サクラは素直に謝ってくるからそれ以上怒れない。
そして、今度こそサクラは保健室の扉に向かって駆け出した。
「またね」
サクラはいつでも「さようなら」ではなく「またね」と言って去っていく。
椅子の向きを変えたカカシは、机に頬杖をついて壁の時計を見つめた。
あと、1時間と半分。
つぎに、サクラがやってくるまでの時間だ。
ドキドキするような、切ないような、不思議な心持でただ時がすぎるのを待っている。
チャイムが鳴り始め、廊下を駆けていく複数の生徒達の足音を聞きながら、カカシは自然とため息をついていた。
あとがき??
先生、自覚なし。(笑)ニブチンです。
一方通行の心理学
ある日、保健室に行くとカカシの姿がなかった。
休み時間にたびたび覗いたが、戻ってきた様子はない。
次の日も同じことが続き、サクラがナルトに詰め寄ったのはカカシがいなくなって三日目の朝だった。「えーと、俺の父ちゃんの話によると、カカシ先生が昔いた研究所で何かトラブルがあって、エキスパートのカカシ先生が急遽呼び出されたみたい」
わざわざ父親に連絡を取ってもらい、こうした返事が返ってくる。
ナルトの父は若くして学校や病院をいくつも経営しているやり手の人物だ。
一緒にいるとつい忘れてしまうが、これでもナルトは財閥の御曹司という煌びやかな肩書きを持っているのだった。「そんな・・・・何も聞いてないわ」
「急なことだったらしいよ。えーと・・・・」
深刻な顔で俯くサクラを見て、ナルトは困ったように頬をかく。
そして、彼女の肩にそっと手を置いた。
「すぐ戻ってくるって」
自分を励ますように微笑むナルトに、サクラは少しだけ頬を緩ませる。
だが、ナルトの言葉に反し、それから一ヶ月が経ってもカカシが帰ってくるという知らせは来なかった。
元々、海外を休み無く飛び回る優秀な人材だったらしい。
出世欲がなく、生来怠け者だった彼は大金が手に入った際にあっさり仕事を辞めたようだが、そうでなければ校医などやるはずのない人間なのだ。
彼の才能を惜しむ学者は数多くいると聞く。
カカシのことを知れば知るほど、サクラは彼がこの場所には戻ってこないような気がしてならなかった。「サクラ、今日、みんなで靴のバーゲンに行くんだけれど、あんたも行かない?」
「・・・私は、いいや。ごめんね」
放課後、いのの誘いを断ったサクラは力のない笑顔で応えた。
元気のない自分を心配して、いのが何かと世話を焼いているのはサクラも分かっている。
だが、カカシがいなくなってからというもの、何事にも関心が持てなくなってしまった。
空気のように、そばにあることが当たり前で、突然消えてしまうなど考えたこともない。
おそらく、サクラが今のように意気消沈しているとは、カカシは夢にも思っていないだろう。
いのと別れたサクラは、ゆっくりとした足取りで中庭へと向かった。
気を紛らわせるため、花壇の手入れをしているうちに、随分と花がいろいろ増えている。
カカシが手伝って植えた花は、今が盛りと咲き誇っていたが、それを見たサクラは無性に寂しい気持ちになった。
あれほど咲く日を心待ちにしていた彼は、ここにいない。
苦労して植え替えた花を見て、カカシがどのような顔をするか楽しみにしていたのだが、これでは無駄咲きだ。「早くしないと、枯れちゃうよ・・・」
しゃがみ込んだサクラは、ぽつりと呟く。
代理の校医が働いているために、保健室にも随分と行っていない。
色とりどりの花を眺めながら、いつの間に、これほど彼のことが心を占めていたのかと思う。
しかし、何の連絡もないということは、全くサクラの一方通行な片思いに違いなかった。
「わあーーー、凄いじゃないのーー!サクラってば、庭師を目指した方がいーんじゃないー?」
瞳を潤ませたサクラの耳に、唐突に、浮かれた歓声が響く。
随分と間延びした、全く緊張感のない声だ。
願望が見せた幻かもしれない。
消えてしまうことが恐ろしくて、サクラは慎重に後方を振り返った。「ただいまーー。サクラってば、少し見ないうちにまた可愛くなったね」
「・・・・カカシ先生」
背後に立つカカシと微笑みを目にした瞬間、サクラは今度こそ泣き出してしまう。
抱きついてきたサクラに驚いたカカシだったが、彼女の涙に気づくと、少し困った表情でその頭を撫でる。
もともと細い体だというのに、また少しやせたようだった。「ごめんねー、何も言わないで行っちゃって。急な話だったし、研究所はシベリアの奥地にあるから、雪に囲まれて電話すらない場所だったのよ。集中したおかげで一年かかる仕事を一ヶ月で終わらせることが出来たけどさ。これ、お土産のピロシキ」
足下に置かれた鞄に目を向けると、カカシは明るい笑顔でサクラの顔を覗き込む。
「やっぱり、俺は研究なんかより、サクラと保健室でイチャイチャしている方がいいや」
あとがき??
研究とイチャイチャは、比べる方がおかしいような・・・・。
ナルトのおじーさんはドイツ人で、ナルトはアフォルター財閥の跡取り息子です。
そして、ナルトのドイツ名はアロイス・・・・・。彼は双子かもしれません。
応援すべきなんだろう
「あっ、落ちたよー」
いのの鞄の隙間から落下した物に気づくと、サクラはすぐにかがみ込んだ。
そして定期入れに手を伸ばした瞬間に、サクラの動きが止まる。
内側に入れられた写真がちらりと見えたのだが、そこにはサクラの良く知る人物が写っていた。
驚きに目を丸くするサクラから定期入れをひったくり、いのは上目遣いにサクラを見据える。
「・・・・見た?」
「見た」
サクラの返答を聞くが早いかいのの顔はみるみるうちに赤くなった。
「内緒だからね」
そうして今、サクラの目の前には写真の人物が満面の笑みを浮かべて立っている。
「サクラ、いらっしゃいーv」
保健室に来るサクラを待ちかまえていたカカシは、彼女の体を嬉しそうに抱き寄せた。
女学生が好きだから、という理由で校医をしているカカシだが、中でもサクラは彼のお気に入りだ。
始終追いかけ回されるのが鬱陶しく、サクラは自発的に保健室を訪れるようになってしまった。
もちろん彼のことを憎からず思っていたが、いのに気持ちを知ったからにはこのままにしておけない。「先生、私、もうここに来るのやめる」
「えっ??じゃあ、俺が会いに・・・」
「そうじゃないのよ。先生とのお付き合いはこれっきりにしたいの」
カカシの顔を見上げたサクラは、真面目な表情で告げた。サクラといのは、幼稚園に入園した頃からの親友だ。
カカシのことで揉めて、仲がこじれるという事態は何としても避けたかった。
サクラにとっていのは何にも代え難い友人。
彼女がいなければ、今のサクラは存在しなかったといっても良かった。
そのいのがカカシを好きというなら、応援する以外に道はない。
「先生のことは嫌いになったわけじゃないから、だから・・・・」
話を続けようとしたサクラは、カカシの眼からこぼれたものを見るなりギョッとして口をつぐむ。
大の大人が、しくしくと悲しげに泣いていた。
「サクラ、悪いところは直すから、捨てないで!」
「す、捨てるとか、そういうんじゃなくて・・・・第一、そんなに親密な間柄じゃないし・・・」
「何でもするから!お願い」
涙ながらに懇願されたサクラは、何だかカカシが可哀相に思えてきた。
はたから見ると非常に情けない姿だが、妙に放っておけない気持ちになる。「あー、先生、嘘よ、嘘。今、言ったことは冗談だから」
「本当!?」
「・・・・・うーん」
唸り声のような答えだったが、カカシは涙を浮かべた笑顔でサクラにひしと抱きつく。
全く、子供だ。
手がかかると分かっていながら彼を選んでしまう心情が、サクラは自分でもよく分からなかった。
「えっ、アスマ先生!??いのが好きなのって、アスマ先生だったの!」
「こ、声が大きいわよ」
ざわつく休み時間の教室で、いのは慌ててサクラの口元を押さえた。
周りを確認したが、幸い誰も彼女達の会話を気に止めなかったらしくいのは安心してサクラに向き直る。
「今度、一緒に焼き肉食べに行く約束したのよーvチョウジやシカマルも一緒だけれど」
「・・・・・」
「何よ変な顔して。写真、見たんでしょう」
「うん。もう一度見せて」定期入れにあった写真は隠し撮りをしたもののようだが、確かにアスマが中心で写っていた。
傍らにカカシはいるが、ピントが外れてややぼやけている。
サクラが真っ先に彼を視界に入れたのは、それだけカカシを気に掛けている証拠だろうか。「生っ白い色ぼけ保健医がちょっと邪魔だけど、これが一番良く写っている写真なのよー」
「へぇ・・・・」
「そういえば、サクラは好きな人、いないの?」
突然話を振られたサクラは、困惑気味に写真を見つめる。
そして、眉を寄せたまま白衣の保健医を指差してみせた。
「・・・・生っ白い色ぼけ保健医」
あとがき??
カカシ先生とサクラが、すっかりのび太としずかちゃんに・・・・。
ドンマイ
プールサイドに集まる女子達は、ひそひそと囁きあっている。
野外プールの周囲を囲む金網にへばりつく男が一人、彼女達に焦点を合わせてカメラのシャッターを押しているからだ。
彼の正体は学園の保健医だが、はっきりいって変質者以外の何者でもない。
「アンコ先生ー、警察に付きだしてくださいーー」
「あー、大丈夫、大丈夫。あいつが撮ってるの、一人の女学生だけだから」
体育教師のアンコの視線は、『春野』と書かれたスクール水着を着る女子へと向かっている。
「・・・それは、よけいに問題じゃないですか?」保健医カカシがサクラを追いかけ回しているのは、わりと知られていることだ。
「なんだー」と安心する女子が大部分な中で、サクラだけは納得がいかない。
「追い返してくださいよ!!大事な生徒に何かあったらどうするんですか!」
「分かったよ」
面倒くさそうにパラソルの下の椅子から立ち上がると、アンコはてくてくとカカシの元まで歩いていった。
なにやら話し込むこと3分間。
戻ってきたアンコは、満面の笑みでとんでもないことを言い出した。
「今日の水泳の授業、特別にあそこにいるカカシが受け持つことになったから」
「ええええーーーーーーー!!!!!」
嘘か本当かは定かではないが、カカシは泳いでドーバー海峡を渡ったことがあるという。
泳ぎに関しては、校内で右に出る者がいないそうだ。
カカシにあんみつ30杯おごることを約束させたアンコは、女子達を置き去りにしてすでに校舎へと戻ってしまった。「・・・先生、物凄く変態っぽいんですけど」
「そうー??」
うつむき加減で呟いたサクラに、カカシは思い切り首を傾げて応えた。
きちんと水着に着替えてプールサイトに来たのはいいが、カカシはその上に白衣を着ている。
トレードマークだから脱げないというのは、本人の弁だ。
水着の女子に囲まれてにやつくカカシを、サクラは厳しい眼差しで見据えている。「先生、ドーバー海峡って、嘘なんでしょう」
「本当、本当」
「じゃあ、その立派な泳ぎとやらを、披露してみせてよね!」
「いーけどー・・・・・、ただ泳ぐのはつまらないから勝負しようよ、サクラ」
朗らかに笑うカカシはサクラの頭に置きながら続ける。
「サクラが勝ったら、何でも言うこと聞いてあげるよ」
「本当!!?」
カカシの提案に、サクラは思わず瞳を輝かせた。
何しろ、学園内のどこにいても付きまとうカカシには相当迷惑しているのだ。
そして、幼稚園の頃からスイミングスクールに通うサクラは泳ぎに絶対の自信がある。
勝てばもちろん、二度と自分の視界に入る距離に近寄らないよう強く言うつもりだった。「いーわよ!勝負しましょう」
「じゃあ、俺が勝ったら、サクラ、何でも言うこときいてねv」
「・・・・・・えっ」
思いも寄らない言葉にサクラが固まると、カカシはにっこりと笑いかける。
「そうじゃないと、フェアじゃないでしょう。ねえ、いのちゃん」
「そーねー」
「ちょ、ちょっと、いの、何カカシ先生に加勢してるのよ!!分かったわ、何でも言うこと聞くわよ」
頭に血が上ったサクラは金切り声でカカシの意見を承諾する。
どのみち、勝てば問題ないのだ。
幅32キロメートルもあるドーバー海峡を横断するなど、目の前にいるチャランポランな保健医に出来るはずがなかった。
サクラの運命をかけた勝負は、25メートルプールを半分もいかないうちに決まる。
飛び込み台に立った瞬間からカカシの眼差しは変化していた。
生白い印象と違い、白衣の下の体が意外と引き締まっていたことにまず生徒達は驚いたのだが、それ以上に感心したのが綺麗なフォームの泳ぎぶりだ。
水と一体化したような驚異のスピードは後々生徒の間で「奇蹟を見た!」と語り草になったほどだった。「えへへー、サクラ、ドンマイーー」
「・・・・・」
ゴール地点で打ち拉がれているサクラは、乱れた呼吸を整えながら傍らのレーンを見やる。
果てしなく絶望しているが、約束は約束だ。
「・・・な、何が望みよ」
意を決して訊ねると、カカシは微笑みを浮かべたまま告げる。
「俺と結婚して」
「あ・・・・沈んだ」
一部始終を傍観していた女子は、腰砕けになったサクラを眺めながら小さく呟いていた。
あとがき??
ドンマーーイ。
しかし、カカシ先生の水着って、ピンクのビキニパンツしか想像できない・・・。(SIMの影響)
実際は、女学生の目にも優しい、いろいろ隠れている水着のようです。
理屈で動くなよ腰抜け
机に突っ伏してうつらうつらとしていたせいで、誰かが保健室に入ってきたことも気づかなかった。
何かが髪に触れる気配がして、頬に柔らかなものが当たってからカカシはようやく覚醒する。
カカシが飛び起きるのと、サクラが後方に身を離したのはほぼ同時だ。
「さ、サクラ、お前・・・」
「お姫様のチューで、王子様は目覚めるものでしょう」
頬に手を当てて驚いているカカシを見て、サクラはくすくすと笑う。
「まだ、無理か」予鈴を耳にしたサクラは、唖然としたカカシを残して早々に姿を消した。
からかわれているのだ。
そう思うのに、早くなった鼓動はなかなか静まらない。
「生徒に悪戯した30歳保健医が、逮捕だってよーー」
たまたま足を向けた職員室でそんな話題が耳に入り、カカシはぎくりとして振り返った。
椅子に足を組んで座り、新聞を読むのはカカシと知己の間柄であるアスマだ。
そして、反応して立ち止まったカカシに、にやりと笑ってみせる。
「お前も気を付けろ」
「・・・・うるさいよ」
半眼で睨み付け、カカシは戸口へと向かう。
誰かに言われずとも十分分かっていることだった。サクラは生徒で、カカシは学園に勤務する保健医。
どれほど好きだろうと相手はまだ子供で、世間的に認められるはずがない。
好き。
自分で連想したその言葉に、カカシは再び体を緊張させた。
「理屈で動くなよ、腰抜け!」
突然、頭ごなしに怒鳴られる。
自分が言われたのだと思ったその言葉は、近くを通りかかった男子生徒がクラスメートに怒りをぶつけたものだ。
喧嘩の最中らしく、なにやら喧々囂々と言い合いをして彼らはそのまま姿を消す。
廊下に一人立ちつくしながら、心の中のもやもやが、すっきりと流れ出たような感覚だった。
「サクラが好きだ」
世間よりもサクラの方が大切に思えたから、保健室にやってきた告白をしてみると、至極当たり前のような顔をされた。
「そうよ。先生ってば、気づいてるってことにずーっと気づいてくれないんだから」
口調はどこか不満げだったが、サクラは嬉しそうに笑っている。
そして、頬にしたキスを今度は唇にくれた。
「私の先生は、本当にねぼすけね」
あとがき??
王子様のお姫様のチューで目覚めました。
実は「理屈で動くなよ腰抜け」のタイトルを見て、サスケだなぁと思って、この20のお題を借りようと思ったのですよ。
裏腹言動
「剣道、新体操、シンクロナイズドスイミング・・・・・何、これ」
「体育の選択科目よ。変なのばっかり」
保健室のベッドに腰掛けるサクラは、足をぶらぶらとさせながら不服そうに言う。
普通は、テニスやソフトボールなどだ。
いずれはどれかを選ばなければならないが、いのと共に熟考している最中だった。
「えーと、俺としてはレオタードがいいかなぁ・・・いや、でも、水着も捨てがたい・・・・・」
「先生、人が真面目に考えているのに!」
カカシから体育の授業についてのプリントを奪い取ると、サクラは頬を膨らませた。「ああ、ごめん、ごめん。剣道だったら、俺が教えてあげられるよ」
「えっ」
「俺、インターハイで優勝したことあるから」
「・・・・・」
にこやかに語るカカシを見上げるサクラは、明らかに信じていないという目をしていた。
何しろ、カカシの嘘には何度騙されたか分からない。
「先生・・・この前は陸上でオリンピック代表候補になったとか言わなかった?」
「そうそう、懐かしいー。でも、選考会の前に芸能界からスカウトが来たから、そっちを優先させて・・・・」
「もういいわよ!」適当なことばかり言っているカカシだが、たまに真実も混じっているのだから、判断に困る。
以前、12歳で飛び級をして大学を卒業したという話を聞いたが、それは真実だったのだ。
そのような天才が何故、サクラの通う学校の校医などをしているのかは、永遠の謎だった。
「剣道やっていたのは、本当だって。ほら、寝技を教えてあげる!」
「剣道に寝技なんてないです」
カカシに抱きつかれたサクラは、顔をしかめつつ指摘する。
「大丈夫、寝技は得意なんだ」
まるでサクラの話を聞いていないカカシは、言うが早いか彼女の体を押し倒した。
こうした寝技ならばほぼ毎日実地で教えを受けているのだから困ったものだ。「・・・先生、たまには寝技以外のことを教えてください」
サクラが呆れた声で言った瞬間、唐突に保健室の扉が開かれた。
いつもは、サクラが来ると同時に鍵が閉められているのだが、うっかり忘れたようだ。
入ってきたナルトは、ベッドで絡む二人を見るなり、当然のように驚きの声をあげる。
「な、何やってるのーー、二人とも!!!」
「えーと・・・」
たいして慌てていないカカシの額を叩いてどかすと、サクラは考えながら声を出す。
「・・・・剣道の寝技の練習」
「そっかー、サクラちゃんは剣道を選んだのかー」
教室に戻るため、サクラと肩を並べて歩くナルトは彼女の大嘘を何の疑いもなく信じていた。
保健室にやってきたのは額の擦り傷の治療のためだったが、カカシは適当に絆創膏を貼っただけで薬も塗っていない。
「カカシ先生がインターハイで優勝してたなんて、すげーー。俺も寝技を習おうかなぁ」
「・・・・・」
素直に驚いているナルトを横目に、心底彼がお馬鹿で良かったと思う。
ちなみに、男子の場合も女子と同じ選択科目だ。
「ナルトも、先生みたいに寝技が得意になればいいわねー」
「うん!」
あとがき??
ナルチョは可愛いです。
イメージ的には、mitusさんの描かれた『彼氏彼女の事情』イラストですよ。(笑)
寝技の現場に足を踏み入れた可哀相なナルトくん。
無くてはならない
瞳の色すらあやふやになる、牛乳瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡。
今時そのようなものをかけている人間がいるとは思わなかった。
しかも、目の前にいるのは年頃の女の子なのだ。「あの、先生・・・・」
「ああ、ごめん、ごめん」
知らずに彼女の顔を凝視していたカカシは、声をかけられてはっとする。
体育の授業で突き指をしたと言って保健室に入ってきた女学生は、春野サクラという名前らしい。
カカシはその名前を職員室で聞いたことがある。
学年主席の頭脳を持ち、素行も良いらしく、ある教師が褒めちぎっていたのだ。
だが、この眼鏡があっては、男子学生はさぞ近寄りにくいことだろう。
「暫く冷やさないと駄目だね。氷を用意するから」
「はい」
「じゃあ、まずその眼鏡、取ってくれるかな」
「・・・・えっ?」
頷こうとしたサクラは、思いがけない言葉に目を瞬かせた。
「眼鏡、ですか?突き指なんですけど」
「そう、取って」
「・・・・・」
断定的に言われたサクラは、怪訝な表情をしつつも言われたとおりに眼鏡を外す。
素顔はどのような顔なのかという単純な好奇心だったのだが、良い意味で、カカシの予想は裏切られた。
翡翠色の瞳を不安げに揺らすサクラは、間違いなく美少女の部類に入る顔立ちをしている。
無粋な眼鏡が無くなっただけで、淡いピンクの髪もたまらなくキュートに見えてくるから不思議だ。「私、眼鏡がないと、全然見えないんです」
「本当ー、全然??」
「はい。明かりとか、何かが動いているのは少し分かりますけど」
試しにサクラの目の前で手をかざしたカカシだったが、サクラは瞬き一つしない。
カカシが顔を近づけても、よける素振りは全くなかった。「んっ・・・・」
ふいに唇に触れた柔らかなものに驚いて、サクラは椅子から立ち上がる。
慌てて眼鏡をかけなおすと、満面の笑みを浮かべるカカシが目に入った。
「せ、先生、今の」
「サクラちゃん、指、ひどいみたいだから明日もまたここに来てくれる?」
「えっ」
「十分冷やしたら添木をするから。ただの突き指だと思って油断すると、指が曲がっちゃったりするからね。大事にしないと」
「・・・はい」
口に当たったものの正体を訪ねようとしたサクラだったが、気勢をそがれてそのまま黙り込んでしまった。
顔を背けた直後、カカシが意地の悪い笑みを浮かべのも、もちろん見ていない。
それからは特に不審なこともなく、サクラはアイシングした指に包帯を巻いて保健室をあとにした。
「サクラちゃん」
扉に手をかけた瞬間、名前を呼ばれてサクラは振り返る。
「これから、コンタクトレンズにする予定とか、ある?」
「ないですけど」
「それは良かった。これからも、学校では眼鏡は必須ね」
「はあ・・・」
にこにこと笑うカカシは、不思議そうに首をかしげるサクラに手を振った。
「また、明日」
あとがき??
カカシ先生、サクラにロックオン!です。(笑)
見えないのをいいことに、チューまでしてます。
眼鏡を外すと実は可愛い、というベタなネタをやりたかっただけでした。
眼鏡っ娘のサクラと保険医カカシ、なかなか楽しいですね。
他の男子に目を付けられると困るので、眼鏡は「無くてはならないもの」のようですよ。
偶然はヒツゼン
「私と付き合ってください!」
サクラがバス停に立っていると、後ろから思いを告げる女性の声が聞こえてきた。
もちろん、それはサクラではなく、彼女の後ろでバスを待つ青年に対してだ。
振り返って見上げると、相手は白銀の髪に左右違う色の瞳の、なかなかの男前だった。
そして彼は何故か自分に告白をした若い女性ではなく、サクラの方を凝視している。
にっこりと笑う彼の笑顔に目を奪われた瞬間、サクラは腕を掴まれて引き寄せられていた。「ごめん、俺、彼女いるんだ。この子だよ」
「ええっ!」
驚きの声を上げたのは、目を丸くした女性ではなく、サクラだ。
彼とは間違いなく初対面で、もちろん恋人ではない。
頭が混乱したサクラは彼から離れようとするが、肩に置かれた手はびくともしなかった。
「ああ、あ、あの・・・・」
「じゃあ、バスが来たから。ごめんね」
動揺のあまりどもるサクラを引っ張ると、彼は呆然とする女性を残して到着したバスに乗り込む。
全てがあっという間の朝の出来事だった。
後で知ったことだが、彼の名前は「はたけカカシ」、サクラの通う学園の保健医だ。
彼は滅多に保健室から出ず、全校集会にも姿を現さないために、サクラはその存在を長い間知らずにいた。
だが、カカシの方は毎朝同じバスに乗っていたために、サクラのことを知っていたらしい。「実はずっと可愛い子だと思って見てたんだー。でも、サクラってば全然気づいてくれないから」
「・・・・知らないわよ、そんなの」
顔を背けるサクラは、素っ気なく答える。
あれ以来、サクラは何かと彼に付きまとわれていた。
バスに乗る時間を変えてみても、必ずカカシはそこで待っているのだ。
今も、二人仲良く並んでバスの椅子に座っていた。
告白を断る出しに使われただけだと思っていたが、カカシは目が合った瞬間に運命を感じたのだという。「このバスに乗っていなかったらサクラを知らなかったし、やっぱり出会うべき二人だったんだよv」
「・・・・偶然でしょう」
「必然ですよ」
あとがき??
たまにモテカカシ。
私の友達、電車でナンパした男の子と結婚して幸せになっておりますよ。良かった、良かった。
新参者
サクラが保健室の扉を開けると、そこには珍しく先客がいた。
本来、怪我や病気の生徒がその場所に来るのは普通のことなのだが、保健医のカカシが変わり者なため、大抵彼は一人だ。
おかげでサクラは毎日好きなだけカカシとお喋りすることが出来た。
だが、今日はサクラの指定席である椅子に別の少女が座っている。
近頃サクラの隣りのクラスに転入してきた、美人と評判の女学生だ。「ああ、サクラ、いらっしゃい」
カカシはいつも通り朗らかな笑顔でサクラを歓迎したが、向かい側に座る転入生は上目遣いにサクラを見つめ、くすりと笑う。
本人にその気はなくとも、サクラにはそれが自分を小馬鹿にした笑いに見えた。
足をすくませたサクラはその場から一歩も動けず、顔を強ばらせる。
「サクラ、どうしたの?」
「・・・・用事を思い出したから、帰ります」
怪訝そうに問いかけるカカシから目をそらすと、サクラは急いで扉を閉めて廊下を駆けだした。
彼女の笑いが、どこまでも追いかけてくるように感じられる。
息が苦しくて、涙がこぼれそうだった。
「隣りのクラスの美少女、保健室に通ってるみたいよー。カカシ先生、取られちゃってもいいの?」
「うるさいわね」
昼休みの教室で机に突っ伏すサクラは、ふて寝をしながら答える。
いのは心配しているようだが、あの転入生を間近で見てしまってはサクラも戦意喪失だ。
何しろ彼女は雪国育ちらしく透けるような白い肌で、艶やかな黒髪と蠱惑的な青い瞳を持っている。
豊かなバストはサクラとは比べものにならず、Eカップ、いや、Fはあるという話だ。
彼女のようなスーパー美少女は学園に二人といるはずがない。「何で、あんな女の子が存在するのかしら」
「大丈夫よ、サクラ!カカシ先生、ロリコンだって噂だし、それならサクラの方が理想の体型だわ」
「・・・・・・・・・全然嬉しくない」
いのの励ましを聞いたサクラはよけいに元気が無くなる。
サクラが保健室に行かずに三日過ぎたが、彼の顔が見られない寂しさのためか、その倍以上の時が経過したように感じられた。
「先生に会いたいよぅ・・・・」
「無理しないで会いに行けばいいのに」
「あの子がいたら、嫌だもの」
同じような押し問答が続いてため息をついたいのは、肩を叩かれて振り返る。
話題の人である保健医が、いのに笑顔で手を振っていた。
サクラを見ると、机に顔をくっつけているために、まだ彼がいることに気づいていない。
「・・・何よ、いの」
頭を撫でられたサクラはいのがやっていると思ったらしいが、顔をずらした瞬間に額にキスをされ、絶叫した。
いるはずのない人物が、サクラの目の前で微笑んでいる。「か、か、カカシ先生!」
「久しぶりー。サクラが会いに来てくれないから、こっちから来ちゃった」
「きっ、来ちゃったって・・・・」
周りを見回すと、教室にいる生徒達が皆、興味深げにサクラ達を眺めていた。
滅多に外に出ないカカシが教室に現れるなど今までなかったことだ。
困惑するサクラの気持ちなど知らず、立ち上がったいのに代わり向かい側の椅子に座るカカシは、彼女の顔をすぐ間近で覗き込む。「あのさ、サクラに彼氏でも出来から保健室に来なくなっちゃったのかなぁと思って、様子を見に来たんだけど・・・」
「そっ、そんなの、いないです!!」
「良かったーー」
間髪入れずに答えたサクラに、カカシは嬉しそうに微笑んだ。
久しぶりに生で彼の笑顔を見たサクラは、真っ赤な顔で俯いている。
「あ、あの、何だか先生、忙しそうだったし・・・・他の生徒さんがいるのに私が喋っていたら迷惑かと思って」
「そっか。じゃあ今度からサクラが来る時間は他の子は閉め出すから、また会いに来てねv」
傍らで話を聞くいのは、保健医としてその台詞はどうなのかと心の中で突っ込みを入れる。
しかし、いかにもチャランポランで女学生好きに見えるカカシが、巨乳美少女になびかずサクラを連れ戻しに来るとは、少々意外だ。
やはりロリ向きの体型が好みなのかと、親友が失礼なことを考えていることにサクラは全く気づいていなかった。
あとがき??
先生の中では、微乳>巨乳らしい。(^_^;)や、やっぱり・・・。
厳密に言うと、サクラ>他の人達、なんですが。
意外と素直
「カカシー、お前、よくあれを許したなぁ」
保健室に入ってきたアスマは、開口一番に言った。
開け放した窓から入ってきたブラスバンドの音に耳を傾けていたカカシは、怪訝な表情で振り返る。
学園祭当日ということもあり、外からいろいろな音が聞こえてきていた。
「何だよ、許すって」
「サクラだよ、サクラ。お前、サクラのクラスの出し物、何だか知ってるのか」
「中華料理店だろ。サクラは裏方で、焼きそばだかチャーハンだか作るって言っていたけど」
「・・・・・・・それ、大嘘だぞ」
「えっ」
メイド喫茶、『木ノ葉の隠れ家』。
それがサクラのクラスの正確な出し物だ。
数日前までは実際に中華料理店の予定だったのだが、普通すぎてつまらないという簡単な理由から変更になってしまった。
サクラがそれをカカシに言い出せなかったのは、どういう事態になるかおおよそ予測出来たからだ。「お帰りなさいませ、ご主人様」
にっこり愛想笑いをするサクラは、やってきた客をテーブルまで案内する。
フリルのついたエプロンドレスはサクラに良く似合っており、何気に『木ノ葉の隠れ家』のご指名NO.1となっていた。
とはいえ、お触りパブではないのだから、客の席に暫く座って簡単に話し相手をするだけだ。
サクラのクラスの女子はいのやヒナタを含め、なかなか粒ぞろいなため店は随分と繁盛している。
「おか・・・・ギャーーー!!!」
来客の気配に気づき、振り向いたサクラはその瞬間、思わず悲鳴を上げていた。
目を血走らせたカカシが、荒い息で戸口に立っている。
おそらく、アスマから真相を聞くなり、全速力でここまでやってきたのだろう。
サクラの姿を頭から足先まで見ると、カカシは再び彼女と視線を合わせた。「サクラ・・・・」
「せ、せ、先生、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかーーー!!」
近くにあった盆をカカシは勢いで床に投げつける。
「こんなに可愛いサクラをただ見せなんて、何てもったいないことをするんだ、馬鹿馬鹿!!!サクラは俺の前だけで可愛くしていればいいの!」
「訳分からないわよ!!ほら、他のお客さんが見てるでしょう」
「許さない、許さないぞー、客と店外デートだなんてーー!!サクラは俺のなんだから」
サクラを抱きしめてわめくカカシは、すでに何を言っても聞いていない。
騒ぎを聞きつけ、奥から出てきたのは店長を務めるいのだ。
実家が客商売をしているために、客のあしらいには一番慣れている。「カカシ先生、営業妨害はやめてください。訴えますよ」
「いのちゃん、ひどい!俺とサクラの仲を裂く気!?」
「今のサクラはお店の所有物です」
「もし、よからぬ輩がサクラに目を付けたらどう責任とってくれるんだよー」
あなた以上によからぬ輩はいない、という言葉をいのはかろうじて呑み込む。
ため息をつくサクラはカカシから強引に体を引き離し、その耳元でこそこそと何かを呟いた。
いのには、何を言ったのかは聞こえない。
だが、たちまち笑み崩れたカカシの顔を見れば、どういった類の言葉だったかは察することが出来る。
態度を一変させたカカシは、サクラに手を振ると、笑顔で店をあとにした。
店内は元通りの喧噪に包まれ、ようやく『木ノ葉の隠れ家』営業再開だ。「やけに素直に引き下がったわよね」
「まあねー」
曲がった髪留めを直すサクラは、淡々とした口調で話し続ける。
「あと1時間で私のノルマが終わるから、その後、この格好でたっぷりサービスしてあげるって言ったの」
「・・・・・・なるほど」
あとがき??
サービスって、サービスって、何ーーーー!!?
いいなぁ、メイドサクラ・・・・。
きっと、あーんなことや、そーんなことを(以下、自主規制)。
心音メトロノーム
「・・・・何、これ」
保健室にかかっている『面会謝絶』の札を見たサクラは、かまわず扉を開いて中に侵入する。
確かに、『面会謝絶』だった。
具合の悪い生徒が横になるべきベッドでは、保健医のカカシが高いびきをかいている。
昨日、教師仲間と飲み会をすると言っていた彼の言葉を思い出したサクラだが、おそらくその影響だ。
しかし、これではわざわざ休日にカカシを訪ねて学校に来た意味がない。「先生、起きてよーー」
「んーー・・・・」
体をゆすってみても、あやふやな返事が返ってくるだけだ。
「もーー!!」
怒ったサクラは勢いよくベッドに腰を下ろしたが、あまり反応はない。
カカシはいやに気持ちがよさそうに眠っていた。
周りを見回してみると、TVやラジオのない保健室で、娯楽性のあるものは「イチャイチャパラダイス」くらいだ。
18禁本を読む気は全くせず、暇つぶしにもならない。
本棚には他にも難しい医療の本があるが、ドイツ語やフランス語、その他サクラの読めない言語で書かれており、開く気もしなかった。
カカシの頭にはそれらが全て頭に入っているそうだから、驚きだ。「あと、どれぐらいで起きるのかしら・・・・」
頬を叩いても目覚めないかカカシを確認すると、サクラは悪戯心からその掛け布団の中にもぐり込んでみる。
べったり体をくっつけてみたが、まだ起きない。
この状態で覚醒すれば、どれだけ慌てるかが見ものだ。
カカシの胸に耳を寄せてみると、一定のリズムを刻む心音が心地よく響いてくる。
音楽室にあるメトロノームよりも正確そうだった。
「えーと・・・・・」
数分後、サクラの願いどおりにカカシは目を開いたのだが、彼女の方が寝入ってしまっている。
夜遅くに保健室に戻り、転がるようにベッドに横になったはずが隣にサクラがいる訳が全く分からなかった。
恐る恐る掛け布団をはぐと、一応、お互い服はきちんと着ている。
何か、間違いがあったわけではなさそうだ。「・・・・まあ、いいか」
まだ頭がぼんやりとしているカカシは、すやすやと寝息を立てるサクラを抱えなおすと、二度寝をすることに決めた。
抱き枕としてこれほど最適な人物は他にはいない。
柔らかくて暖かく、何とも良い香りがする。
おかげで、目が覚めたサクラに寝すぎだと怒られるはめになるのだが、それはもう暫く後の話だった。
あとがき??
まだ恋人未満の二人のようですね。
ほのぼの。
ちなみにうちのカカシ先生は、お酒弱いです。クライヴ先生が元なので。
僕に投げつける世界
「サスケくん、これ、調理実習で作ったのv」
うふふっと一番可愛い笑顔を取り繕うサクラは、綺麗にラッピングしたクッキーを差し出した。
体育の授業のあと、校庭の脇にある水飲み場で顔を洗うサスケを強襲したため、他のライバル達の姿はまだない。
羨ましそうに見ているナルトが邪魔ではあるが、視界に入れないことにした。
「・・・・甘いものは苦手だ」
突き放すように言われたが、そのようなことはサクラもリサーチ済みだ。
「ジンジャーとシナモンを利かせて、甘さを押さえたのよ、これならサスケくんも大丈夫!!サスケくんの、ために、一生懸命心を込めて作ったの!!!」
詰め寄るサクラの勢いに呑まれ、サスケは押しつけられたクッキーを思わず受け取ってしまう。
その瞬間、サクラは満面の笑みを浮かべて彼から体を離した。「サクラちゃん、俺にはー??」
「ないわよ!一人分の割り当て、少ないんだから」
つんけんした態度で指をくわえるナルトを睨むと、サクラはもう一度朗らかな笑みをサスケに向ける。
「絶対に食べてねvナルトなんかに渡したら・・・、承知しないからね」
「あ、ああ」
先の行動を見越して忠告すると、サスケは素直に首を縦に動かした。
何故だか知らないがサクラの笑顔には妙な威圧感があり、頷かないわけにはいかない雰囲気だったのだ。
「青春してるねぇ・・・・」
保健室の窓を開けて階下の様子を眺めていたカカシは、苦笑しつつ呟いた。
風の流れの影響か、彼らの会話は残らず耳に届いている。
カカシの想い人であるサクラはまだ学園のアイドルを諦めていないらしい。
どうも面白くない気持ちだが、サスケの方があまりサクラに興味を持っていないことが救いだろうか。
もし、彼が少しでもサクラに気のある素振りをすれば、闇討ちして消えてもらうつもりだ。
自分のものであるサクラに手を出す奴は、誰であろうと容赦しない。目を細めつつ校舎に入っていくサスケを見ていたカカシは、ドアをノックする音に、振り返る。
先ほどまでサスケと話し込んでいたサクラが、戸口で立っていた。
休み時間も残り僅か、慌ててここまで駆けてきたのだろう。
「先生、これあげる」
歩み寄るサクラから渡されたのは、少し前に目撃したばかりの、リボンでラッピングされたクッキー。
だが、あれはサスケが持って行ったのだから、別の物だ。
「ちょっとしか作ってないんじゃないの?」
「えっ」
「サスケにあげてたじゃないの」
カカシが窓の外を指差すと、サクラは彼が上から自分たちを見ていたことを察したらしい。
「ああ、あれはジンジャークッキーでこっちはチョコチップクッキー。これはカカシ先生のために、心を込めて作ったのよ」にっこりと微笑むサクラを見下ろし、カカシは口を引き結んだ。
振り回されている自覚はある。
サスケにアタックしつつ自分にもいい顔をするサクラは何とも憎い娘だと思うが、それでもやっぱり、サクラは可愛くて愛おしいのだった。
あとがき??
原点に戻ってみました。小悪魔サクラちゃん。
これにて終劇!
少しでも楽しんで頂けたなら、最高に幸せですv