先生の子供


ナルトが奇妙な視線を感じたのは、任務のない休日、木ノ葉丸に付き合ってキャッチボールをしていたときだった。
いつもの、里の大人達の敵意がむき出しの眼差しとは微妙に違う。
どちらかというと、遠くから自分を生暖かく見つめる目だろうか。
ボールを投げ返すことをやめ、ナルトがその方角を振り返ると、丁度彼女が電信柱の後ろに隠れるところだった。
柱の陰から見える特徴は彼がよく知る人物のもので、ナルトはホッとした様子で口元を緩ませる。

「サクラちゃん、何やってるのー?」
ナルトが大きな声で呼びかけると、彼女はびくつきながら顔を出した。
桃色の髪にヘアバンドのようにつけた額当て、頬が引きつっているようだがサクラに間違いない。
手には小さなデジカメを持っており、何を撮っていたのだろうかとナルトは首を傾げる。
「いいカメラだね」
「ああ、うん。桜が綺麗に咲いているし、ちょっとこのあたりを周って景色を撮ろうかと思って」
「へー。サクラちゃんにそんな趣味があったなんて、知らなかったよ」
ナルトが柔らかな笑みを浮かべると、サクラの顔は瞬時に真っ赤になった。
「・・・・・あの、ナルトも写りたいんだったら、撮って上げてもいいわよ」
「えっ、本当?」

ナルトはてっきり、傍らにいた木ノ葉丸と自分の二人を並ばせて撮るのかと思った。
だが、彼らに近づいたサクラは木ノ葉丸の前で立ち止まり、カメラを差し出す。
「このボタンを押せば自動的にピントが合うから!お願いね」
「あっ、う、うん」
強い口調で言われた木ノ葉丸は戸惑いながらもカメラを受け取り、ナルトの隣りに立ったサクラへとレンズを向ける。
ほぼ毎日顔を合わせているというのに何故一緒に写真を撮るのかは不明だったが、上機嫌のナルトはそんなことはどうでもよくなった。
大好きなサクラが、自分にぴったりとくっついてピースサインをしているのだから、嬉しくないはずがない。
「撮れたぞ、これ」
「うん、有難うv」
デジカメの画像を確かめたサクラは満面の笑みで木ノ葉丸に礼を言う。
それからナルトと木ノ葉丸の写真も数枚撮り、サクラは二人に手を振ってその場から立ち去った。
笑顔でサクラに手を振り返すナルトを見上げ、木ノ葉丸は怪訝そうに眉を寄せる。
「・・・ねーちゃん、何だか様子が変じゃなかった?」
「そうか?いつもの可愛いサクラちゃんだったと思うけど」

 

 

ナルトと木ノ葉丸がサクラについての話をしていた頃、本人はスキップをしながら木ノ葉の大通りを進んでいた。
可愛いナルト、それも自分と同じ
12歳の頃の画像をばっちりカメラに収めることが出来たのだ。
任務の成果以上に喜ばしい結果だった。
隠密行動と綱手に厳しく言われていたのも忘れ、彼女は有頂天になっている。
どのみち彼女の姿は昔の母親と瓜二つで、道で誰と会っても「サクラ」と声をかけられていた。
本物のサクラは昨日の夜から風邪で寝込んでいるという情報もあり、好きに行動しても誰にも咎められることはない。

「そろそろ残りの薬草を手に入れて、未来にかえ・・・・」
懐中時計を懐から出し、時刻を確認した彼女は向かいの通りからやってくる男を見るなりハッとして足を止めた。
イチャイチャパラダイスを読みながら、猫背気味に歩く男はまだ彼女に気づいていない。
慌てて脇道にそれた彼女だったが、目は愛読書に向きながらも、彼はしっかりと周りを確認できる特技があるようだ。
「サクラ、何で逃げるのー?」
「ひゃっ!」
いつの間に回りこんだのか、自分の目の前に立ちふさがったカカシに彼女は思わず声をあげる。
「・・・・・・・・・・あれーー??サクラ・・・・じゃない。誰、君?」
「さ、さ、サクラよ」
「変化の術・・・ってわけでもないなぁ。匂いは同じだし」
弁解する声が聞こえているのかいないのか、カカシは彼女に顔を近づけてじろじろと凝視した。

「サクラに姉や妹はいないし、親戚関係でもこんなに似ている子はいなかったはず。おかしい」
「・・・・・・」
サクラの身の回りの全てのことは調査済みのカカシの発言に驚きながらも、彼女は逃げ出すためのチャンスを窺う。
だが、どんなにとぼけた言動をしても相手は上忍、隙だらけに見えて、彼女は全く動くことが出来なかった。
自分を見据えるカカシの無言の圧力に負けた彼女は、小さくため息をつく。
「私、サクラの娘です・・・・」
「えー??」
「未来の世界から来たんです。この懐中時計を使って」

 

 

時空間移動の忍術は誰でも使えるわけではない。
彼女とて、忍具である懐中時計の力を借りてようやく
20年前後の過去と未来を行き来できる程度だ。
それも、失敗することの方が多い。
今回彼女が綱手から直々に請け負った任務は、数年前に失われてしまった薬草を過去の世界から持ってくること。
本来、過去や未来の世界に干渉することは禁じられているが、さる大名家の子息を助けるためにはその薬草の力がどうしても必要だった。
なるべく過去の人間との会話を避けるよう言われていたというのに、彼女はカカシに洗いざらい喋ってしまう。
そうでないとカカシが納得してくれなかったのもあるが、彼が親切に任務に協力してくれるというのだから、その方が得に思えからだ。

 

 

「はいー、これで全部だよ。薬の保管庫に忍び込むのは大変だったよ」
「あ、有難うございます」
必要な薬草を全て集めてくれたカカシに、彼女は心から感謝して頭を下げた。
数種類の薬草は商家の倉に納まっている物もあり、なかなか入手が困難でどうやって拝借するか頭を悩ませていたところだ。
それが、一時間ほど公園のベンチに座っていただけで、カカシが全部そろえて持ってくるとは正直思わなかった。
「どういたしましてー」
にこにこと笑って自分の頭を撫でるカカシに、彼女は少しだけ口元を緩める。
「あの、何でこんなに優しくしてくれるんですか?」
「えっ?」
「未来から来たなんて言ったって、普通は信じてくれないものでしょう・・・・」

彼女のいる世界とは違い、過去ではまだ時空間忍術についての研究が進んでおらず、忍具である懐中時計も開発されていない。
自分の話をまるで疑わずきちんと聞いてくれたことは嬉しかったが、戸惑いの方が大きい。
「だって、自分の娘のために動くのは親として当然でしょう」
胸を張って答えたカカシを、彼女は目を丸くして見つめる。
「私、父親の名前、言いましたか!?」
「ううん」
「じゃあ・・・」
「だって、サクラが将来子供を産むなら、俺以外の父親なんて絶対ありえないもの。これから先、サクラの子供の父親は全部俺なの」
余裕の表情で、自信たっぷりに宣言された彼女は呆れてしまって二の句が継げなかった。
なんとなく未だに父親とラブラブな母親の姿が思い出され、そうした未来はこんなに昔から決まっていたのかと感慨深くなる。
彼女はあえてコメントをしなかったが、それを答えととったのか、カカシはにっこりと笑った。

 

「サクラは、元気に暮らしているの?」
元の世界に戻るため、懐中時計をいじる彼女に傍らのカカシがさりげなく声をかける。
本来ならば、未来の情報を伝えることはご法度だ。
だが、見上げたカカシの顔がいやに心配そうだったから、彼女はあまり考えることなく言葉を返していた。
「元気ですよ。まあ、ごたごたがないわけじゃないけれど、皆それなりに幸せに、楽しくやってます」
「そう」
安心して微笑んだカカシに、彼女は明るい笑顔と共に言う。
「じゃあ、またね、パパ」


あとがき??
小桜ちゃんだったようです。
相変わらず、ナルトラブな様子。(笑)
カカシ先生のモデルはたぶんライアン(カルバニア物語)ですね。
ああ、ユキくんが過去の世界に行った話も書いていたんでした。早く完結させないと。


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