花嫁のパパ


「・・・大袈裟じゃないかなぁ」
「それくらいで丁度良いのよ!くれぐれも油断しないでね」
「うーん」
小桜が用意した防護服をナルトは彼女に押し返す。
「やっぱり、こんな物は着なくていいよ。カカシ先生は小桜ちゃんのパパだけど、俺の先生でもあるんだから。滅多なことはないよ」
「・・・・」
甘い考えだと思いつつ、小桜は渋々ナルトに従う。
彼が一度決めたことを覆さない性格なのはよく分かっている。
また、彼の決断は概ね正しいことなのだ。
緊張が高まっていく中で、カカシが帰宅する時間は刻一刻と近づいていた。

 

 

 

「あれ、何、改まって。どうしたの?」
家に入るなりサクラに和室に連れてこられたカカシは、居住まいを正して正座しているナルトと小桜を見て首を傾げる。
「いいから、先生。ここに座って」
「うん」
座布団の用意された場所に座り込んだカカシに、ナルトは間髪入れずに頭を下げて言った。
「カカシ先生、小桜ちゃんを俺のお嫁さんに下さい!」
「・・・・・・えっ」
言葉はちゃんと聞こえたのだが、内容が理解できない。
背筋を伸ばして座ったまま固まっているカカシに、サクラが後ろから耳打ちをする。

「先生、ナルトがうちの小桜と結婚したいそうよ。どうする?」
「・・・・・結婚」
“結婚”の二文字がカカシの頭の中でぐるぐると回る。
結婚ということは、小桜がナルトのところに行ってしまうということだ。
そして、二人は夫婦として生活を始めることを意味している。
ぼんやりとその情景を想像し、カカシの思考回路がようやく正常に動き始めた。

 

「な、な、何を馬鹿なことを言っているんだ!許さないぞ、そんなの!!小桜はどこにもやらないからな!!」
カカシは両手で机を強く叩き、大声を張り上げた。
「パパ!」
「小桜は15歳だぞ!まだ子供だ」
「結婚しておかしい年じゃないわ。それに、ママがパパと結婚したのだって、15の時じゃないの」
「それとこれとは事情が違う!」
「何が違うのよ!」
激しく言い合うカカシと小桜に、ナルトとサクラはまるで口を挟めない。
激昂したカカシは今にも頭の血管が切れるのではないかと思うほど興奮している。

「ナルト、どうしても小桜を連れて行くなら、お前を斬る!」
なるべく穏便に話を進めようと心がけたのだが、やはり小桜が恐れていた通りの状況となってしまった。
クナイを手にして立ち上がったカカシに、サクラは素早く後ろから抱きつく。
「先生、駄目よ!ナルトを殺したら小桜が未亡人になっちゃうわ!!」
「まだ結婚していない!」
「じゃあ、シングルマザーになっちゃう!!」
とっさにサクラの口から出たその言葉に、カカシの体が再び凝固する。

「・・・・何だって?」
「あー、えーと・・・」
「妊娠三ヶ月。昨日病院に行って来たの。パパ、来年はおじーちゃんになるのよ」
口籠もるサクラに代わって、小桜がブイサインをしながら答える。
傍らのナルトが困ったように頭をかいているのを見たカカシは、そのまま視界が傾いたのを感じた。

 

 

 

 

昏倒したカカシは病院に運ばれ、療養は一週間目に突入している。
近頃仕事が忙しく、体が疲れ切っていたときに小桜の衝撃の告白。
心身共に参ったらしい。
だが、特別に悪いところはなく、休養を取れば回復するとの医師の診断だった。

 

「パパってば、すっかりお年寄りねー。今まで忙しすぎたんじゃないの?」
「・・・・」
林檎を兎の形に剥いた小桜はサイドテーブルに皿を置く。
あれ以来、カカシは小桜と一言も口をきいていなかった。
それでも、小桜は毎日見舞いに来る。
花瓶の水を換えるため、サクラは病室の外に出ていた。

「今日は午後から仕事が入っているんだ。もう行かないといけないけど・・・」
「小桜」
コートを手に持って立ち去ろうとした小桜を、小さな声が呼び止める。
久しぶりに聞いた父の声に、小桜は自然と笑顔になった。

「何?」
「あいつは、むつかしいぞ」
カカシは、小桜の瞳を真剣な眼差しで見つめる。
小桜が今まで見たことのない、ナルトの担任としての上忍の顔だった。

 

「ナルトは、子供の頃からいろんなものを抱えている。これからもきっと、困難な道を選んであいつは歩いていく。道を逸れた方が楽だと分かっていても、絶対にそっちには行かないんだ。馬鹿みたいに真っ直ぐな奴だよ」
「・・・うん」
「最後まで、支えてやれるのか?」
「頑張るよ!私、パパとママの娘だもの。そんなに弱くないわ」
泣き出しそうに瞳を潤ませる小桜に、カカシは笑いかける。

「幸せになれよ」
「うん。パパ、有難う」
身を乗り出した小桜は、ベッドにいるカカシに抱きついた。
まだ小さな頃から、小桜がずっとナルトのことを好きだったのはカカシも知っている。
小桜には、ナルトの存在が必要なのだろう。
娘を思う親として、心配は尽きないが、折れないわけにいかなかった。

 

 

 

「あら、小桜、帰っちゃったの?」
「・・・ん」
扉を開けて入ってきたサクラに、カカシはぼんやりと天井を見つめたまま答える。
「ちゃんとお話、出来た?」
「うん」
カカシが頷くと、サクラはにっこりと笑った。
「ナルトは良い子だし、私は嬉しいわよ」
「知ってるよ、そんなの。でも、一度はこうして反対するのが父親の義務だろう」
すねたような口調で話すカカシに、サクラはくすくすと笑い声を漏らす。
傍らの椅子に座ったサクラを見やると、カカシは静かに声を出した。

「でもなー、ナルトはずっとサクラのことが好きだから、大丈夫かな」
「何よそれ、下忍だったときの話でしょう。その後、ナルトはいろんな人とお付き合いしていたじゃないの」
「・・・・」
カカシの発言を笑い飛ばしたサクラは、小桜が剥いていった林檎を一つ頬張る。
サクラは全く分かっていなかった。
サクラの存在が心にあるからこそ、誰と付き合っても長続きしない。
小さな小桜が昔から気付いているのに、当の本人が無頓着なのは変な気がした。
だが、だからこそナルトははたけの家に気兼ねなく出入りできていたのだろう。

 

「娘なんてもつもんじゃないよ。結局、出ていっちゃうんだし」
「先生ってば、何だか一気に老け込んじゃった感じよ」
「いいよ。どうせ来年はおじーちゃんだし。くそじじーって言われるようになってやる」
ごろりと寝返りを打ったカカシの背中を、サクラはぽんと叩く。
「もっと若々しくしてくれないと困るわよ。カカシ先生は来年、おじいちゃんだけじゃなくて、パパにもなるんだから」
にこにこと笑うサクラの言葉に、カカシは暫し考え込んだ。

「・・・何の話?」
「先生の三人目の子供がここにいるのよ。小桜と同じ時期に出産かしらね」
腹に手をそえながら言うと、カカシは瞬時に起きあがってサクラに向き直る。
「嘘!」
「身に覚えないのー、先生?」
指折り数えだしたカカシを横目に、サクラは笑いながら訊ねた。
「先生、次は男の子がいい?女の子がいい?」
「サクラ似の可愛い女の子!」


あとがき??
こりないカカシ先生でした。これにて本当の完結!
大団円につき、おあとがよろしいようで・・・。
最終回(小桜12歳の話)の前に、最終回の3年後の話を書いてしまいました。
カカシファミリーはこのサイトがあるかぎり半永久的に続く話なので、書きたいときに書かないとネタを忘れるのです。
これはどうしても書きたい話だった。
いつか最終回を書いたときにこの作品を思い出して、最終回話の次にこれを読み返してくださると嬉しいです。

フォローしておくと、ナルトはちゃんと小桜ちゃんのことが好きです。
しかし、彼にとっての女の子の一番は永遠にサクラなのです。(男の場合はイルカ先生)
小桜のことは、サクラと同じくらい好きになれても、それ以上はあり得ない。
夫婦なのに片思いをしているイメージは、『カルバニア物語 7』のタニアのママをイメージしました。
ちなみにタニアのパパは、ナルトのイメージにとても近いです。好きvあんな王様(火影)になるのね、ナルト。


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