愛人 1


「それで、カカシ先生は最近帰りが遅いんだ」
「うん。火影様に頼まれた大事な任務って、何なのかしらね。内容については絶対教えてくれないのよ」
「まぁ、原則として、任務内容は他にもらさないことになってるからね」
「それは分かってるけど、何時に帰るかくらいは教えてくれないと・・・・」
小桜はぶつぶつと小言を繰り返した。
ナルトと二人、夕暮れの商店街を歩きながら、小桜は醤油の入った買い物袋を重そうに抱えている。

「持とうか?」
「大丈夫よ、これくらい。子ども扱いしないでよね」
何度か片手を差し出したナルトだったが、小桜は頑として受け入れない。
片意地の張ったところは母親似だろうか、と考えていた矢先、ナルトは視界の隅に入った知人の姿を目で追った。

「・・・カカシ先生、確か里の外に出る仕事だから遅いって言ってたんだよね」
「うん」
「じゃあ、あれは何だろう」
ナルトの指差す方角を見るなり、小桜は驚きに目を見張った。
「パパ!」
「あの花屋から出てきたみたいだけど」

小桜は注意深く観察したが、向かい側の通りを歩いているのは確かにカカシで、手には大きな花束を持っていた。
任務で遠方に行くと言っていたカカシが、何故、商店街の人混みの中を歩いているのか。
小桜には皆目見当が付かない。

 

「ナルト、目を離さないでよ!」
「え、う、うん」
小桜に命じられたとおりナルトはカカシを追いかけ、小桜はカカシの出てきた花屋へと向かう。
折良く箒を片手に店から出てきた店員に、小桜は急いで駆け寄った。

「あの、すみません」
「はい?」
「今さっき出ていった男の人、よく来るんですか」
小桜が目でカカシの後ろ姿を示すと、店員は小さく頷いた。
「ああ、あのお客さんでしたら毎日いらっしゃいますよ。プレゼント用に花束を買っていかれます」
「・・・・・パパ、花なんて買って帰ってきたことないわよ」

にこやかな店員の返答に、小桜は愕然と呟く。
顔面蒼白になった小桜を店員は気遣うように見ていたが、彼女にはそのことに気づく余裕はなかった。

 

 

 

 

カカシが足取りも軽く向かった先は、繁華街のすぐ近くにある、新築高級マンション。
各界の著名人が多く住んでいることで有名な建物だ。
ナルト達があとを付けていることを知らず、カカシは気軽にそのインターホンを押した。

 

「遅かったわね」
中から出てきた若い女性は、弾けんばかりの笑顔でカカシに飛び付いた。
「うん。ちょっと前の仕事が長引いちゃって。はい、これ」
「綺麗。いつも有難う」
カカシの差し出した花束を、彼女は嬉しそうに受け取る。
いとおしげに花を見つめていた彼女だが、その表情は徐々に曇っていった。

「・・・いつまでこんな状況が続くのかしら」
「大丈夫。もうすぐ邪魔者はいなくなるよ。そうしたら、ずっと一緒に暮らせる」
「そう、そうよね」
「まぁ、暫くはこれで凌いでよ」
沈んだ顔の女性に、カカシは懐から出した封筒を手渡す。
厚みのある封筒を大事そうに押し抱いた女性は、やがて戸口を大きく開いてカカシを手招きした。
「早く入って」

 

カカシがその家に入るまでの一部始終を、ナルトと小桜は廊下の片隅で見守っていた。
体を震わせた小桜が絶叫したのは、玄関の扉が閉じられた直後だ。

「暫くって、何!!!?邪魔者って、ママや私達のこと!!?あの封筒は何なのよーーーー!!!!」
「こ、小桜ちゃん、落ち着いて!」
まだまだ叫びたりない小桜の口元を、ナルトが慌てて塞ぐ。
ナルトとて同じように大声を出したい気持ちだったが、思いとどまったのは小桜がいたのと、場所が高級マンションだったおかげだ。
普段の愛妻家ぶりを知っているだけに、ナルトも小桜も、今見た光景を到底信じることが出来なかった。

 

 

 

 

「お帰りなさい。随分とゆっくりしてたのね」
重い足取りで帰宅したナルトと小桜を、サクラは玄関で出迎えた。
「二人とも、有難う。今日の夕飯は煮物がメインだから醤油がないと駄目だったのよ」
買い物袋を受け取ったサクラは、二人ににっこりと笑いかける。
幸せそうな笑みが、気落ちした二人の胸に突き刺さるようだった。
何も知らない母が哀れに思えて、小桜の瞳からは自然と涙があふれ出てくる。

「駄目!私、絶対秘密になんて出来ないわーー!!!」
突然泣き崩れた小桜に、サクラは目を丸くした。
隣りにいるナルトを見ると、何を動揺しているのか額から脂汗を流している。

 

「何かあったの?」
「お、俺、知らない、知らないってばよ!!任務なんて嘘っぱちでカカシ先生は毎日浮気相手のところに花を持って通っているとか、彼女の名前はメグミちゃんで胸はEカップくらいありそうだったとか、カカシ先生が邪魔なサクラちゃん達を追い出してメグミちゃんと住もうとしているとか、メグミちゃんに渡していた分厚い封筒の中身は月々のお手当に違いないとか、あの高そうなマンションもカカシ先生が用意したものに決まってるだとか、全然、全然知らないってば!!」

息を切って話すと、ナルトは鞄から出した写真をサクラに押しつける。
「ちなみにこれ、ポラロイドカメラで隠し撮りした二人の写真。急いでいたからちょっとぼやけてるけど」

数枚の写真には、見つめ合うカカシとメグミ、そして二人が彼女の家に入っていくところが連続して写っている。
フラッシュ無しでここまで写るのは、カメラの性能が良いせいだ。
現在ナルトは浮気調査の任務を請け負っており、カメラはその際に使用したものだった。
浮気現場に反応して思わずカメラを向けてしまったのは、任務遂行時の名残だ。

 

「サクラちゃん、カカシ先生がセクシー美女と浮気したからって、離婚なんて早まったこと考えちゃ駄目だ!浮気なんて、男なら誰でもするんだよ!カカシ先生のことだから一度や二度のことじゃない気がするし、今こうしている間にも二人は彼女の部屋でいちゃついてるかもしれないけど、取り敢えず落ち着いて!!」
驚きのあまり頭が真っ白になったサクラに、ナルトは声高に言う。
ナルトの言動全てが火に油を注ぐ結果となったが、本人に全く悪気がない分、かなり質が悪かった。


あとがき??
タイトルは『ラマン(愛人)』と読んで下さい。(笑)
ナルトは場を落ち着かせたいのか、混乱させたいのか・・・・・。計算ずくとしか思えない。
そんなナルトが大好きだ!
小桜ちゃんは9歳くらい。弟の快くんは今回出番無し。(家にはいます)
このシリーズ、私の気分次第で発表順にかかわらず時間が前後しているから、年表作った方がいいのかなぁ。
ちなみに、めぐみちゃんは私の従姉の名前。(無断使用)
ナルトはとっさに彼女の家の表札を見て名前を知ったようです。さすが忍者。

ここまで書いて満足したから、もう続き書かなくていいや、という気持ちが・・・・・。
2は書いても当分先だと思います。これから続きを考えるので。
カカシ先生の浮気って、やっぱりカカサクファンは許せないものなのか。本気じゃなくても、駄目なのか。
個人的には、隠し子とか平気で連れて帰ってきそうなイメージなんだけれど。あれ。


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