はたけ家の長女と次女
「はい、あんよは上手、あんよは上手」
よちよち歩きの小桜をカカシは手拍子をして応援している。
だが覚束ない足取りで歩く小桜はすぐに転倒して泣き出してしまった。
「あー、よしよし」
甲高い泣き声をあげる小桜を抱えると、カカシは彼女を高くもち上げる。
「ほら、高い高い」瞳に涙を滲ませたまま笑顔を見せた小桜に、カカシは顔を綻ばせた。
目に入れても痛くない。
それこそ、今のカカシのためにある言葉だ。
「何?」
ソファーに座りながら自分を凝視しているサクラに気づくと、カカシは振り返る。
「・・・何だか、イメージが違うと思って」
「えー?」
肘掛に頬杖をつくサクラは思わずため息を漏らす。
暗部にこの人ありと言われたコピー忍者。
その名前を聞けば、他国の忍者は震え上がったという。
今の彼を見た人間は、誰も信じないようなことだ。「もっとさ、先生にはこう、上忍らしくきりっとしていて欲しいのよ」
「いいじゃん、自分の娘が可愛いのは当然なんだしー」
返事をする間も、カカシは小桜の小さな掌をいじっている。
そして、小桜と目が合うなり「いないいない、ばあ」をして彼女を喜ばせた。
眼前の光景に、サクラのため息はより深いものへと変わる。サクラとて旦那が家族を大切にするのは良いことだと思う。
だが、カカシの場合は度を越しているのだ。
部屋の隅へと視線を移したサクラは、山のように詰まれた玩具を眺める。
カカシが毎日小桜のために購入して帰ってくることで、それらはどんどんたまっていってしまった。
「先生ー、ドラマがもう始まっちゃうよー」
「んー・・・・」
TVを見ながら言うサクラだったが、カカシは小桜に夢中で生返事をするだけだ。
以前は毎週楽しみにしていた番組も、愛娘には勝てないらしい。
ふてくされた表情のサクラは、小桜と積み木遊びをするカカシの後ろに座り込み、彼と背中を合わせる。
「カカシ先生―」
「ん?」
「せんせーのこと大好きな娘はここにもいるんですけど」
動きを止めたカカシは、肩越しにサクラを見やる。
そして、面白そうに笑った。「あれー、小桜に嫉妬してるの?サクラの方がだいぶお姉さんなのに」
「別に。ただ、先生が私の顔を見てくれることって、あまりなくなったなぁと思って」
「見てるよ」
小桜を抱えたカカシは、彼女をサクラと向かい合わせに座らせる。
「ほら、同じ顔」
よく似た顔立ちの二人を見比べ、カカシは満面の笑みを浮かべた。
カカシにとって小桜を可愛がることとサクラを可愛がるのは一緒のことだ。「俺が知っているのって、12歳からのサクラだろ」
「うん・・・」
「小桜は俺が知らない頃のサクラを教えてくれる。だからいとおしいんだ」
言いながら、サクラの頬を撫でたカカシはその唇にそっと口付ける。
「サクラを一番に愛しているよ」
同じように小桜の額にもキスをすると、二人そろって嬉しそうに笑った。
大きいサクラと小さいサクラ。
カカシにとっては、どちらも掛け替えのない宝物だ。
TVのチャンネルはドラマから、子供向けの番組のDVD画像へと変わっていた。
小桜を腕に抱くサクラはカカシにもたれかかり、彼は後ろから二人を抱える。
はたけ家では頻繁に見られる、幸せな情景だった。
あとがき??
妻にも娘にもメロメロなカカシ先生です。
サクラは18歳くらいなので、年相応に甘えさせてみたり。たまには。
何気に、以前拍手のおまけSSで書いた話の続きだったりする。
サスケと違って、カカシ先生やナルトはサクラに「愛してる」だの「好き」だのあっさり言ってくれるから、楽だなぁ・・・。