ぽっかぽか 1


「小桜、あなた最近パパに冷たいわよ。もっとちゃんとお話してあげなさい」
「だって・・・」
台所の椅子に座る小桜は、足をぶらぶらと動かしながら上目遣いにサクラを見る。
「うざいんだもの。どこに行くにもくっついてきて。ご飯食べてるときも、ずっと私の行動見てるし」
「分かるけど、無視は駄目よ、無視は!!」
「はーい」
気のない返事をすると、小桜の興味はTVへと移ってしまう。
深々とため息を付いたサクラは、来訪者を告げるチャイム音に顔をあげた。

「先生だわ」
10年以上夫婦をしていれば、チャイムの鳴らしかた一つで、すぐに分かるらしい。
「小桜、ちゃんと「お帰りなさい」って言うのよ」
「はいはーい」
「・・・でも、おかしいわね。暫く仕事で帰れないって言っていたのに」
ぶつぶつと呟きながら玄関に向かったサクラは、「お帰りなさい」の言葉と共に鍵をあける。
怪我をして任務の途中で帰ってきたのかと危惧したサクラだったが、幸いカカシは無傷のようだ。
ホッとしたのも束の間、サクラはすぐにカカシの足元へと目をやった。

 

「・・・・誰、その子?」
サクラに促されて出迎えにやってきた小桜は、目を点にして訊ねる。
カカシに手を引かれて立っているのは、5、6歳と思われる少年だ。
丁度、小桜の弟の快と同じくらいの背丈の子供だった。

「今日からうちの子になるの。名前は詢だから。世話してやって」
「・・・・え、ええええーーーーーー!!!!!」
ワンテンポ遅れて絶叫した小桜は、カカシと、その後ろに隠れるようにして立つ詢を唖然として眺める。
「な、何よそれ!パパの隠し子ってこと!!!」
「ま、そーゆうことかな」
「何、開き直っているのよ!ママ!!」
驚きのあまり我を忘れる小桜だったが、見ると、サクラはその場でしゃがみ込んでいた。

「詢くんっていうんだ。良い名前ね」
彼と目線を合わせたサクラはにっこりと笑って言う。
怯えたような眼差しで周囲を見回していた詢は、柔らかく微笑むサクラに釣られ、はにかんだ笑顔をみせた。
「いらっしゃい。外、寒かったでしょう。早く入って暖まってね」
サクラが手を差し出すと、詢は素直にその掌に掴まった。
「サクラ、こいつ腹を空かせているからさ・・・」
「うん、大丈夫。夕飯は終わっちゃったけど、まだ材料残っているからオムライス作るわよ」

騒ぐことなく、むしろ嬉しそうに詢を迎え入れるサクラに、小桜は開いた口が塞がらない。
カカシは、隠し子だと認めたのだ。
小桜が妻の立場だったら、詢をカカシごと追い出しているところだろう。
笑顔のサクラを見つめつつ、小桜はどうしたらいいか分からなかった。
せめて快は自分の味方だろうと思った小桜だが、この期待も見事に裏切られる。

 

「快、詢くんの服汚れてるから、あなたの服を貸してあげて。その間にご飯作っておくから」
「うん、分かった」
サクラに言われた快は、にこにこと笑顔を浮かべて詢に話しかけている。
「行こう。僕の部屋、玩具も沢山あるんだよ」
同じ年頃の快に親しげに声をかけられ、詢の表情も段々と和らいでいった。
面白くない気分でいるのは、小桜一人だ。
仲良く子供部屋に入ろうとした快を引き留め、小桜はこそこそと彼に耳打ちをする。

「ちょっと、快、分かってるの?愛人の子なのよ、愛人の。何で優しくしたりするのよ」
「・・・・お姉ちゃんって、鈍感だね。本当にアカデミーに通っているの?」
「な、何」
「そんなんじゃ、立派なくの一になれないよ」
冷ややかに言うと、快はすぐに子供部屋へ引っ込んでしまう。
生意気だと思ってはいたが、小桜はこのときほど快を可愛くないと思ったのは初めてだった。

 

 

「ちょっと里から出るよ」
「そう」
カカシに茶を入れたサクラは、彼の前のテーブルにそれを置く。
「一応、俺は自宅謹慎中ってことになっているから、その辺は口裏を合わせてくれるかな」
「それは詢くん絡みなの?」
「うん」
「でも、それって命令違反よね」
事情は分からないが、神妙な顔つきのカカシをサクラはじっと見据える。

「・・・・サクラには、迷惑をかけると思うけれど、後悔したくないんだ」
「嫌ね。私はカカシ先生の心配をしてるのよ」
盆を椅子にのせると、サクラはカカシの掌を強く握り締めた。
「何があっても、私はずっとカカシ先生の味方よ。うちのことは私に任せて。頑張ってね」

サクラの朗らかな笑顔に、どこか落ち着かない様子だったカカシも微笑を返す。
百の味方よりも頼もしい彼女の笑顔。
何があっても、誰に何を言われても、自分を真っ直ぐに信じている彼女がそばにいれば、道を踏み外すことはないと思った。


あとがき??
うーん、まだ何が何だか。
あ、詢くんの名前は『お嬢様と私』から頂きました。丁度、手元に単行本があるので。


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