ぽっかぽか 2


翌朝小桜が朝目覚めると、カカシはもういなかった。
詢について詳しく聞き出す暇もない。
仕方なく、カカシが帰る日を待って問いただすことを決めた小桜だが、カカシはなかなか姿を見せなかった。
仕事から帰れば、すぐにまた次の仕事。
いつものことだが、この大事なときに留守にしていることがどうも腹立たしい。

 

 

「・・・何よ」
饅頭を食べながら本を読んでいた小桜は、いつの間にか傍らに座っている詢を見て眉を寄せる。
おそらく、饅頭に興味があるのだろう。
彼の視線は饅頭から少しも離れない。
「あげようか」
笑顔でそれを詢の方へと向けた小桜は、彼がそれを受け取る前にぱくりと自分の口へと押し込んだ。

少々、からかっただけだ。
快ならば怒って小桜に立ち向かってくるのだが、突然大声で泣き出した詢に、彼女は仰天する。
「ま、まだあるから。新しいのあげるわよ」
小桜が慌てて残りの饅頭を差し出すと、泣き声はぴたりと止んだ。
「ほら」
おずおずと手を伸ばした詢は、饅頭を握り締めてにこっと笑った。
嬉しさが伝わるいとけない笑顔に、小桜も自然と顔が綻んでしまう。

 

「饅頭一つで、変な子ね」
急いで饅頭を口に入れる詢を見ながら、小桜はしみじみと呟く。
父の隠し子でさえなければ、素直に可愛いと思えたことだろう。
だが、黒髪に黒い瞳、顔つきもまるでカカシに似たところがない。
あんこが付いた指を舐める詢を見ながら、母親似なのだろうかと、ぼんやり思った。

「ねぇ、何であんた喋らないのよ。私達のこと、警戒しているの?」
小桜は詢の頬を突きながら訊ねるが、彼は不思議そうに彼女を見ているだけだ。
そして、答えは彼ではなく、後ろからやってきた人間が教えてくれた。
「喋らないんじゃなくて、上手く喋れないんだよ」
ハッとして振り返ると、笑顔のナルトが手を振っている。
「ナルト・・・・」
「やあ」
小桜に笑いかけた後、ナルトは詢の手前で座り込む。
そして、まじまじと彼の顔を見つめた。
「君が噂の詢様か」

 

 

 

「菜の国からカカシを差し出すよう書状が来ておりますが・・・・」
「これで何度目かねー」
執務室にやってきた秘書官の言葉に、綱手は大きなため息を付く。
彼らが差し出して欲しいのは、カカシ以上に、詢という少年の方だろう。
だが、肝心のカカシは、その菜の国に秘密裏に潜入している。
帰ってくるまでは待つと、綱手は約束をしてしまったのだ。

「任務を途中放棄したカカシは自宅謹慎中。行方不明の詢様は目下捜索中だって言っておいてよ」
「それで大人しく引き下がりますかね」
「時間稼ぎが出来ればいいんだよ」
背もたれに体重を預けると、綱手はギシギシと椅子を鳴らしてみせる。
「詢様だけでも返せば、丸く収まるんだけれどねぇ」
「・・・・本気ですか?」

秘書官の冷ややかな問い掛けに、綱手は再び吐息を漏らす。
「事情を知ったからには、放っておけないだろう。カカシの奴は、彼女が見つからなくても自分達で育てるつもりらしいし」
「え、先方にどう言い訳するんですか?」
「知らないよ、そんなの」
綱手はすねたような口調で言う。
一国の当主との関係がこじれれば、里全体の問題となってしまうのだ。
他国との交易を絶たれれば、忍者の隠れ里はやっていけない。
里の有益を考えるならば、カカシなど切り捨てたいくらいだ。

 

「あーやだやだ!さすがに“木ノ葉の白い牙”の息子だよ。里の行く先を考えないで行動してくれちゃって」
「でも、彼を待つんですよね」
にっこりと微笑んだ秘書官に、綱手は小声で呟く。
「・・・忍びの掟だけを忠実に守れれば、こんな苦労しないですむのにさ」


あとがき??
困った困った。


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