おかえりなさい 1


アカデミーの卒業試験、当日の朝。
いつもより早めに目覚めた少年は、丁寧に顔を洗い、服を着替え、食事の席に着く。
父親が和食好きだったせいで、彼の家の朝食は必ず白い米と味噌汁が並んでいた。

「私の時はね、変化の術がテスト内容だったのよ。今日はどうかしらね」
魚の乗った皿をテーブルに置くと、少年の母親はにっこりと微笑んだ。
「頑張ってね」
「・・・うん」
言われるまでもなく、成績優秀な少年はよほどのことがないかぎり、落第することはないだろう。

今日は試験の日だが、父親の命日でもある。
アカデミーから帰れば、近くに住んでいる姉夫婦達と一緒に父の墓参りをすることになっていた。
本当は行きたくない。
だが、口にすれば母親が悲しい顔をすると分かっているから、少年は黙っている。
幼い時に死んだせいで、彼に父親の記憶は殆どなかった。
棚に置かれた写真立てに目をやると、まだ10代前半の母親の隣りで、彼は幸せそうに笑っている。
将来、自分の息子に恨まれることになるとは知らずに。

 

 

「いってきます」

 

門の外に出た少年は、見送る母親に小さく手を振る。
随分歩いてから振り向くと、玄関の扉の前に一人佇む桜色の髪がよく見えた。
彼女はいつでも笑顔を絶やさない。
それでも、その表情に陰りが見えるように思うのは、昔の母親を写真で知っているからに違いなかった。


あとがき??
まだ序章です。ずっと前に書きたいと思って止まっていたもの。
今なら書けそうな気がしたので、執筆を始めました。


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