おかえりなさい 4


「・・・何なの、あの子?」
そう言ったきり、カカシは二の句が継げなくなる。
ナルトとサクラも全く同じ心境で、話すことを忘れた二人は必死に彼らの動きを目で追いかけた。
山で薬草を集める任務が早めに終わり、軽い気持ちで手合わせをしたのだ。
危険な術は使わず、体術のみの勝負だったが、快はあのサスケと互角に戦っている。
拳を繰り出せば間一髪でさけ、蹴りつければそれを受け流しつつ新たな技を出す。
二人の動きはどこか似たものがあり、いつまで経っても勝ち負けが決まらなかった。

「はいはい、終了―!」
カカシが割って入らなければ、いずれどちらかの血が流れていたはずだ。
「参りました」
肩で息をしながら、快は自分を見据えるサスケに頭を下げる。
彼から教えを受けたのだから、動きの癖が同じなのは道理だ。
だが、快の師匠が自分であることを知らないサスケは、不審な眼差しで彼を見つめている。

 

「腕、見せてください」
「えっ、おい」
「枝に引っかけたでしょう。放っておくと、大変ですよ」
屈み込んだ快は、強引にサスケをしゃがませると、その怪我まで治してしまった。
快の治癒の術を見た7班一同は、皆目を丸くしている。
これで母譲りの幻術の才能を見せれば、驚きは一層大きなものとなったことだろう。

「凄いわよ、快!こんなの初めて見たわ」
「そうでもないよ。まだ簡単な傷しか治せないし、サクラもすぐ出来るようになると思うけど」
興奮気味のサクラに、快は涼しい声で言う。
母親から習った医療術。
それをここまで感心されるのは、何だか妙な気持ちだった。

 

 

 

「君は少し残ってくれる?」
いつもの分かれ道、カカシは任務の報告書を提出に、下忍達はそれぞれ帰路に就くのだが、快だけが呼び止められる。
「え、何でよ、先生」
「いーから。別に取って食いはしないよ」
カカシは手で払う身振りで生徒達に下がるよう指示した。
「・・・いじめたしりないでよね」
サクラは最後まで心配そうにカカシと快を見ていたが、上忍の命令に従わないわけにいかない。
快も怪訝な表情でナルト達に手を振るカカシを見ていたが、くるりと振り向いた彼は予想外のことを口にする。

「おんぶしてあげる」
「・・・・・はぁ!?」
素っ頓狂な声をあげた快に、カカシはにっこりと笑いかける。
「治癒の能力を使うと体力が無くなるでしょ。足も引きずっているみたいだし、サスケと手合わせしたときに少しひねったんだね。サクラに心配かけたくないのは分かるけど、無理はいけないよ」
「・・・・・」
ばれないよう、注意して歩いていた快だったが、カカシは生徒達の動きにちゃんと目を配っているようだ。
快の心情まで見抜いたカカシは、返答を聞く前に彼の前でしゃがんでしまう。

「俺の生徒を治してくれたお礼の気持ちだよ。サクラの家まで送ってあげる」
穏やかな口調で言われ、どうにも断りにくい空気になる。
本当は彼の世話になどなりたくなかったが、仕方がない。
「・・・家に着くまでの間ですよね」
「うん」

 

 

幼い頃、公園に迎えに来た父親に負ぶわれ、帰宅する友人を羨ましく見送ったことがあった。
今になってその願望が現実になるなど、夢のようだ。
カカシは快が未来の自分の息子であることを知らない。
それでも、快はその広い背中に守られているような、不思議な安堵感を覚えた。

「ねぇ、何で俺のこと嫌いなの」
唐突に話しかけられ、心地よさにうとうとしていた快は目を覚ます。
あれだけ嫌悪感をあらわにしていれば、嫌われていると思って当然だ。
「・・・・・父に似ているから」
「思い出したんだ」
「母と父のことを、少しだけ」
頷いたカカシは、顔を動かして快を見やった。
「それで、何でお父さんのこと嫌いなのさ」

 

快は、父親が優秀な忍びだったこと、彼は子供二人と母を残して任務中に死んだことを話す。
母親は笑わなくなった。
いや、微笑んでいるのだが、どこか寂しげな表情なのだ。
その責任は全て父親にあると快は考えた。
何しろ、彼の母親に対するプロポーズの言葉は「ずっとそばにいて欲しい」というもの。
母親に女手一つで子供を育てる苦労をさせて、それこそ大嘘つきだ。

「ごめん」
熱く語る快の話に耳を傾けながら、カカシは思わず項垂れる。
「・・・何であなたが謝るのさ」
「いや、似てるっていうし、何だか他人な感じがしなくて・・・・」
申し訳なさそう言うカカシに、快は彼をいじめているような気がして、黙り込んだ。
こうも簡単に謝られると、これ以上強く貶すことも出来ない。
静かになった快に、振り向いたカカシは優しく声をかける。

 

「でもさ、殉職したならまだいいよ。俺なんて本当にいらないって言われちゃったんだから」
「え?」
「俺の父は自殺したんだ。まだ子供だった俺を一人残して」
思いがけない告白に、快は息を呑む。
「ショックだったよ。悲しくて悲しくて、恨んだりもしたけど、成長するにつれ少しずつ分かってきた。父は実の息子の存在を忘れてしまうくらい、精神的に追いつめられていた。可哀相な人だったんだって」
「・・・・」
「君も恨んだりしたら、お父さんが悲しむよ。快やお母さんは寂しい思いをしたかもしれないけど、お父さんだってみんなを残して逝くのは辛かったはずだ。きっと、最後の最後まで、家族に「戻れなくてごめん」って謝っていたよ」
少しだけ口調を和らげると、カカシは懇願するように続けた。
「ねぇ、もうお父さんのこと、悪く言わない?」

言葉に詰まった快は、俯いて顔を彼の背中に押しつける。
カカシに会うまで、父親の気持ちなど考えたことがなかった。
母親が辛い思いをしながら自分達を育てたことしか頭になく、全ては父親のせいだと決めつけていた。
思えば、サクラがカカシに対する恨み言を口にしたことなど、一度もない。
たとえ短い時間しかそばにいられなくても、幸せだったからだろう。
サクラが忘れられないほど、カカシも彼女や家族を大切にしていたに違いない。

 

 

「・・・・約束して」
「ん?」
「今から12年後、菜の国で内乱が起こる。応援の依頼があなたのところにくるけど、絶対に行かないで。これは、罠なんだ」
「・・・・12年って、随分と先の話だね」
「覚えておいてよ」
その声には切迫した響きがあった。
意味はよく分からないが、簡単に無視は出来ない。
そうした雰囲気が快から感じられる。
「分かった」

明るく微笑むカカシに、快は初めて笑顔を見せた。
夕焼けの空を二人で眺めながら、父親に対する蟠りがゆっくりと溶けていくのを感じる。
どうしてこうも穏やかな気持ちになるのだろう。
実際に会話をしてみて、母親が彼を選んだ気持ちが、快にも少しだけ分かったような気がした。


あとがき??
カカシ先生とサクラの才能の良いところを受け継いだ快くんは、なかなか優秀な忍びになりそうですね。
ちなみに、小桜ちゃんはサクラ似なのでチャクラの量の少なさがやや問題。
そういえば、快ってばサクラやナルトにはため口なのに、サスケには敬語。師匠だから??
・・・・赤ん坊の快がサスケにすぐ懐いたことといい(ケイ太さんの同人誌に提供したSS参照)もしかして、彼は中身はサクラ似かも。


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