おかえりなさい 5
「おい、しっかりしろ!」
頬を叩かれる刺激に、嫌でも意識が覚醒する。
仰向けになる快の顔を覗き込んでいるのは、担当の教師とクラスメート達だ。
「お前な、せっかく勝負に勝ったのに、こんなベタなトラップにひっかかるなよ」
「あ?」
半身を起こした快は、彼の手にあるバナナの皮を見て首を傾げる。見回すと、場所は演習場の近くの森だった。
紅白に別れて行われた忍術合戦で、快達が所属する白チームが勝利したことが段々と思い出される。
そこで隙が生じたのだろう。
話によると、バナナの皮に足を取られて木から落ちた快は、数分間気を失っていたようだ。
考えてみれば、過去の世界に行くなど、夢以外にあるはずがない。
父親に負ぶわれて居眠りをしたのも、おそらく自分の願望が見せた幻だ。
「そんな幼稚なトラップをしかける奴がいるとは、思わなかったから・・・・」
「馬鹿。そういう油断が死を招くんだ」
気恥ずかしさから口を尖らせる快は、再び頭を叩かれる。
「下忍になるんだから、もっと考えて行動するようにしろ」
「えっ」
「合格だ」その時になって、快はようやく木ノ葉マークの額当てが自分に付けられているのを知る。
見ると、クラスメートも皆同じように額当てをしていた。
試験に落ちることなど、はなから考えていない。
だが、実際に忍びの証である額当てを付けると嬉しさがこみ上げて、快は満面の笑みを浮かべていた。
いち早く、この喜びを家族に伝えたい。
飛ぶような足取りで家に駆け込んだ快は、家の様子が全く違っていることに目を丸くした。
家の外見や間取りはそのままなのだが、物の数が妙に増えている。
そして、家具の位置も朝とは微妙に異なっていた。「え、何、これ?」
動揺する快の耳に、次に飛び込んできたのは赤ん坊の泣き声だ。
近くに住む姉夫婦が来ることは知っている。
その子供のものかと思ったが、彼女の靴は玄関にない。
訝りながらリビングにやってきた快は、銀色の髪の赤ん坊を必死にあやしているサクラを見付ける。
姉の子供は金髪の男の子なのだから、やはり別人だ。
「あ、快、おかえりなさいー。出ていけなくて、ごめんね」
「・・・・母さん、その子、誰?」
「何言ってるのよ。自分の妹のこと忘れたの」
「妹ーーー!!」
思わず絶叫した快は慌てふためきながらサクラに走り寄った。
「い、いつ再婚したの!?」
「・・・・・快、あんた、大丈夫?」
眉を寄せたサクラが心配そうに言った直後、扉を開く音に反応して快は振り返る。「サクラ、お風呂入れてきたよー。次はそっちの子ね」
双子の片割れを抱いてやってきたのは、スウェットの上下を着て、夢で会ったそのままの声のカカシだった。
唖然としている快を見ると、カカシはすぐに顔を綻ばせる。
「快、合格したんだってな!イルカ先生から電話がかかってきたぞ」
赤ん坊をサクラに渡すと、カカシは快の頭を優しく撫でる。
「おめでとう」
20年以上前のカカシに比べ、随分と老けていた。
だが、あたたかい笑顔は昔のままだ。
サクラが好きだと言ったその笑顔に、快もまた、同じように引き付けられる。
素直に、嬉しい。
この人がいて良かったと、心の底から思った。「出張が続いたし、何だか久しぶりに快に会った気がするよ。元気だったか?」
にこにこと笑って話しかけたカカシは、快の目から零れた涙に、度肝を抜かれる。
「ど、どうした!?」
「・・・・うん」
カカシは何が起きたのか分からずうろたえていたが、快はなかなか泣きやまない。
長い夢からようやく抜け出せたような、そんな気持ちだった。
「おかえりなさい、父さん」
あとがき??
「クリスタルEYES」のはずが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」になっていたような・・・。
未来の子供が両親に会いに来るってやつを、やってみたかっただけです。はい。
それでもって、未来が良い風に変わっていくという。
快には、カカシの死亡と生存、両方の記憶が頭に残っているようです。
暫く混乱すると思いますが、そのうち先生がいなかったときの記憶は消えていくはずです。幸せなので。
続きを待っていて下さった方は、お待たせして申し訳ないです。(=_=;)
飽き性なので、同じ話をずっと書いていられなくて、間にいろいろ別の作品を完成させたりしていました。
やはり長編は向いていないようなので、またSSに戻りますよ。
おまけ
『ほんとうはこんなシーンを入れたかったんです』
ナルト達にねだられ、昼休み中に駄菓子屋に向かったカカシは、快も含めて5人分のアイスを購入する。
荷物持ちとしてジャンケンに負けた快が店についてきたが、道中あまり会話はなかった。
快はカカシを快く思っていないのだから、当然かもしれない。レジに並んだカカシとその隣りの快を見ると、バイトの女性は顔を綻ばせる。
「あら、そっくり」
「え?」
「その子、いつもの生徒さんじゃないわね。先生の弟さんかしら」
傍らを見たカカシは、顔を上げた快と目を合わせた。
言われなければ気付かなかったが、確かに昔の自分を彷彿とさせる面立ちだ。「ううん。これ、俺の息子」
言いながら、カカシは快の頭に手を置く。
「俺に似て可愛いでしょ」
「あら、そうなの。随分と大きいお子さんね」
笑顔のカカシを見て冗談だと思ったのか、レジの女性は楽しげに応えた。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないのー」
大きな声で否定したあと、駄菓子屋から飛び出した快をカカシは追いかける。
「あの人だって、本当だなんて思ってないよ」
「・・・・」
不満げに口を尖らせた快が振り返ると、ナッツ入りのチョコを目の前に差し出される。
「これ、あげるから」このメーカーのナッツチョコは昔からの快の大好物で、毎日ポーチに入れていたものだ。
だが、それをカカシが知っているはずがない。
「・・・何で」
「サクラがこのチョコ好きなんだ。快もそうかと思って」
素直に受け取った快を見て、カカシは安堵の笑みを浮かべる。
「快とサクラって、何となく似てるでしょう。顔とかじゃなくて、全体的な雰囲気というか、言動が」
無言のままチョコを見つめる快の頭を、カカシは生徒達にするように撫でる。
「みんなのところに、戻ろうか」
何も知らないはずなのに、レジの女性に躊躇無く「息子」と答えてくれたことが。
外見は何の共通点もないのに、サクラに似てると思ってくれたことが。
本当は嬉しかっただなんて。
絶対に言わない。
おまけのあとがき??
うちのカカシ先生はわりと家族に対してドライというか、「サクラがいればそれでいいや」という人だったのですが、ケイ太さんのカカシファミリーでの先生が「家族大好きv」な感じなので、引きずられて子煩悩パパになりました。
この話の中のカカシ先生も、快からサクラの匂いを感じ取っているので、快のことが好きみたいです。
サクラにそっくりな小桜はもちろん溺愛。
おそらく、今後もケイ太さんの漫画の影響がいろいろ出てくるかと・・・。ポニーテール小桜がラブリーなんです。カカシファミリーは全体的にナルト&小桜が中心の話(二人が結ばれるまでの過程)なので快はなかなか登場しませんが、今回、カカシ&快を書いてみて、なかなか楽しかったです。
たまには父と息子で仲良し親子もいいですね。
おまけのおまけ
『その後の先生とサクラ』
「ちゃんと交番にも届けたし、張り紙もしたけど、見つからないの」
しくしくと涙を流すサクラは、休み時間にイチャパラを読むカカシの隣りに座って訴える。
いつの間にか、忽然と姿を消した快。
どこを捜しても見つからず、完全に行方不明だ。
いなくなって数日が経過しても、サクラは気落ちしたままだった。
「まぁ、もともと身元の分からない子だし、いつかこんな風に消えちゃうんじゃないかって思っていたよ」
「・・・・」
サクラと違い、カカシはのんびりとした口調で言う。
快の失踪を知っても、カカシは全く動揺しなかったのだ。
「先生って、冷たくない?」
サクラがふてくされて顔を背けると、カカシはイチャパラから目を離して彼女を見る。「だってさ、また会えるって、そんな感じしない?」
「・・・・」
カカシの言葉に、涙を拭くサクラは口をつぐむ。
カカシの言う通りだ。
確かに、彼がいなくなって寂しいと思う。
でも、何故かそんな予感はしていた。
「次に会えたら、もっと里のいろんなところに連れて行ってあげるわ」
「うん、そうだね」
サクラの頭をポンポンッと叩いたカカシは、再びイチャパラを読み始める。
カカシが「また会える」と言ったのを聞いて、サクラは妙に安心してしまった。
「先生、私、ちょっと寝るから肩かして」
「おいおい・・・・」
つい先程まで泣いていたのに、随分と気が変わるのが早いと思ったカカシだが、良い方に変化したのだから何とも言えない。
自分に寄りかかって眠り始めたサクラに、カカシは小さく吐息を漏らして、読書に熱中し始める。
穏やかな午後のひとときだった。
あとがき??
のんきな両親です。
これで、本当に終わり!!ご静聴(?)有難うございました!