優しさの向こう側
春になり、部署を移動したナルトは仕事が今までの倍になり、滅多にはたけ家に現れなくなった。
たまにやってきても、夕飯を食べて帰る程度。
だから、その日ナルトと映画館に出かけた小桜は、久々のデートに浮かれていた。
映画は小桜がずっと観たかったもので、その後も小桜の買い物に付き合いことを約束している。
ナルトがその声に立ち止まらなければ、映画の開始にぎりぎり間に合っていたはずだった。
「・・・泣いてる」
「え?」
「子供の声がする。どこだろう・・・・」
自販機の前で首を巡らせるナルトに、小桜は怪訝な表情になる。
町の繁華街、今日は日曜ということで人も多い。
子供の声をいちいち聞き分けることが出来るはずがなかった。「気のせいじゃないの」
「あ、あそこだ」
小桜が言ったそばから、ナルトは柱の影で佇む少年を見付けた。
3、4歳だろうか。
涙を袖で拭き、不安げに道行く人を眺める姿は迷子そのものだ。
「大丈夫?」
駆け寄ったナルトが後ろから声をかけると、少年は驚きに目を見開く。
だが、しゃがんだナルトが優しく笑いかけると、すぐに警戒を解いて泣き始めた。
「お母さんとはぐれちゃったの?」
「・・・・うん」
少年の頭を安心させるように撫でると、ナルトは立ち上がって周りを見回した。
一見して、それらしい女性はいない。「ナルト、映画始まっちゃうよ。あそこに交番あるし、連れて行けば何とかしてくれるわよ」
「うん」
小桜に応えながらも、ナルトは少年に話しかける。
「どっちから来たか、分かるかな?」
「・・・・あっち」
少年が指し示したのは、丁度映画館とは反対の方向だ。
非常に嫌な予感がしたが、振り向いたナルトは小桜の予想通りのことを言う。
「ごめん。ちょっとここで待っていて」
その道を戻りながら注意深く周囲に目を配ると、母親は15分もしないで見つかった。
少年とよく似た面立ちの女性が不安げな顔でうろついているのだから、すぐに分かる。
「ママ!」
少年の声に反応した母親は、ナルトに手を引かれて歩く彼を見るなり走り出した。
交番に寄っていたら、彼らの再会にはもう暫く時間が必要だったはずだ。
母親に抱きしめられた少年は、ナルトを指差して一緒に捜してくれたことを説明する。「目を離さないようにしてくださいね」
「はい。有難うございました」
礼を言う母親に笑顔で応えると、ナルトは彼女に抱かれる子供の頭に手を置く。
「元気でな」
「うん。ありがとうー」
短い時間でナルトに懐いた少年は、安心しきった笑顔を彼に向けている。
彼らに手を振って別れるときになって、ナルトはようやく小桜の存在を思い出した。
「あ・・・・」
「時間切れー」
ナルトが振り向くと、その後ろに立つ小桜は、腕組みをして低い声を出す。
映画は次の回を観ればいいが、2時間近く暇な時間が出来てしまった。
膨れ面の小桜に、ナルトはしきりに気を遣っている。
「ごめんね。何でもご馳走するから」
「・・・・もう良いわよ」滅多に、二人きりでいられないのだ。
小桜は自分を一番に考えて欲しいのに、ナルトはいつでも周りのみんなのことを思っている。
だが、もしナルトが迷子を放って映画に行っていれば。
それは小桜の好きなナルトではないような気がした。「じゃあ、食べに行くわよ!」
自分の手を握って歩き出した小桜に、ナルトは安堵の表情で訊ねる。
「何?」
「一楽のラーメン」
おまけ:カカサク結婚前バージョン
「あれ、サクラ。どうしたの?」
「カカシ先生―」
カカシがたまたま道で出くわしたサクラは、子犬を抱えて泣きべそをかいていた。
ダンボール箱に入れられて捨てられていたようだが、サクラの家で飼うことは出来ない。
途方に暮れて立ちつくしていたところに、カカシが通りかかったらしい。「一緒に飼い主をさがそう。こんなに可愛いんだから、きっとすぐ見つかるよ」
「先生・・・・でも、何か用事があったんじゃないの」
「サクラの方が大事だよ」
明るい笑顔でさらりと言われ、サクラの胸はキュンとなる。
実は、サクラの通勤路に捨て犬を配置したのはカカシだった。
優しいサクラのこと、そこで立ち止まるのは計算積みだ。
そこにたまたま居合わせた風を装い、飼い主を捜す約束をする。
あとは、借りてきた犬を返すだけでいい。
さりげない優しさを見せ、サクラのハートをゲットする作戦は順調に進んでいるようだった。
あとがき??
こんにちは。可愛いナルトをどれだけ可愛く書くことが出来るか日々挑戦する、チャレンジャーヒロです。
それならば、カカシ先生は可愛いサクラをどれだけ溺愛出来るかに挑戦しているのだろうか・・・。
まだまだ。
うちのナルトは裏表のある腹黒くんですが、普段は誰からも愛される天使ちゃんなのです。怒らせると怖い人。
『サモンナイト3』をやっている最中なので、ナルト=レックス先生、小桜=ベルフラウ、が少し入っているかも。
そしてナルト×小桜があまりに清らかだったので、汚れたカカサクを入れたくなった。(^_^;)すみません。