メルシィ!人生


「サクラちゃんにどう説明すればいいんだ・・・・」
「どうもこうもないだろう。本人を見ればすぐに察するさ」
気落ちするナルトを見たサスケは、後方にいるカカシへと視線を移す。
鼻歌まじりに歩く彼は、両手をポケットに突っ込み、どう見ても上機嫌だ。
誰も、彼が自分の名前も分からない記憶喪失状態とは思わない。

「任務中の事故なの?」
「いや、ただ滑って転んで頭を打って気絶したらしい。目が覚めたときには、一切の記憶を失っていたそうだ」
「・・・・・・格好悪い」
医療班から聞いたことをそのまま話すサスケに、ナルトは思わず顔をしかめた。
外見上は無傷だったことで帰宅を命じられたのだが、カカシには自分の家も分からない。
呼び出されたサスケとナルトはカカシを自宅に送りがてら、家族に事情を説明する役目を負わされている。

 

「ねぇねぇ、そこの二人。えーと、ナルトにサスケだっけ」
「何だ?」
「家に連れて行ってくれるそうだけど、俺の家族構成ってどうなってるの?一人暮らしじゃないの」
「既婚者だ。配偶者と子供が一人、お前の帰りを待っている。他の親族については俺達も知らない」
「えええーーーー!!!」
サスケの返答に、カカシはさも意外だというように大声を出した。
「子供なんているんだ!何だか所帯じみていておっさんみたい」
「おっさんなんだよ。お前、今34だぞ」
「三十路かぁ。でも、結婚していても恋愛は自由だよね」

へらへらと笑ったカカシは、通り過ぎる若い女性を値踏みするように見つめている。
今までにない彼の姿に、ナルトもサスケも困惑を隠せず顔を見合わせた。
「あんな奴だったか?」
「記憶が無くなって箍が緩んだんじゃないの。元々女好きだったのかもね」
「・・・・サクラはどう思うか」
緊張感のないカカシの横顔を眺めつつ、ナルトだけでなくサスケまで重苦しいため息を付いた。

 

 

「あ、好みの女の子発見――」
「おい!」
ふらふらと歩き出したカカシを止めようとしたサスケだが、もう遅い。
商店街のスーパーマーケットから出てきた女性に近づくと、カカシはポンと彼女の肩を叩く。
「ねぇ・・・・」
「カカシ先生!」
カカシが口を開いた直後に、彼女は目を丸くして驚きの声をあげた。
「何でここにいるの?仕事は」
彼女は後からやってきたナルトとサスケ、そしてカカシの顔を交互に見ながら訊ねる。

「え、誰?」
「お前の女房だ」
こそこそと耳打ちするカカシに、サスケは即答する。
改めてサクラに向き直ると、カカシは不思議そうに首を傾げる彼女の姿を凝視した。
さらりとして触り心地が良さそうな桃色の髪は、腰まで伸ばされている。
つり目がちな翡翠の瞳と、珊瑚色の柔らかそうな唇。
張りのある肌は、化粧の必要などまるでないように見えた。

 

「・・・・彼女、いくつなの。若そうだけど」
「サクラは俺達と同じ二十歳だ」
「二十歳―――!?頑張ったんだな、俺!!」
内緒話を続けるカカシとサスケの様子に、サクラは不満げに眉を寄せる。
「何なのよ、さっきからこそこそして」
「あ、いや、何でもないよ」

早口で取り繕うと、カカシはにっこりと微笑んで見せた。
自分は彼女と結婚していて、子供が一人、幸せな家庭。
「何か、いいかも・・・・」
家族団らんの図を薄ぼんやりと想像したカカシは、顔が綻んでいくのを感じた。

「じゃあ、帰ろうか」
サクラの買い物袋を持ったカカシは、自然な動作で彼女の肩を抱く。
「君達、見送りご苦労ね」
振り向きざまに二人に手を振ったあと、カカシはすっかり彼らの存在を忘れてサクラに話しかけている。
記憶が無くなる前と全く同じその情景に、ナルトもサスケも自分達が何をしにここまで来たか分からなくなってしまった。

 

 

 

一週間後、たまたま休みが一緒になったナルトとサスケははたけ家まで様子を窺いにやってきた。
結局サクラに事情は何も説明していないままで、カカシを持てあましているかもしれない。

「あ、いらっしゃいー」
玄関の扉を開けたサクラは、笑顔で二人を迎え入れた。
「でも、二人でうちに来るなんて、珍しいわよね」
「あの、サクラちゃん、カカシ先生はどんな感じなの?」
「え、何が」
ナルトの問い掛けに、サクラはきょとんとした顔で振り返る。
「ほら、記憶喪失の・・・」
「あーー、お前ら、早かったなぁ」

ナルトの声をかき消すように登場したのは、スウェットの上下という部屋着でくつろぐカカシだ。
大きな欠伸をしたあとも、カカシは眠たげに瞼を擦っている。
「早いって、もう11時すぎてるよ」
「そうだっけか」
「カカシ先生、相変わらず朝弱いんだね」
「いつもはこんなじゃないぞ。昨夜はサクラが寝かせてくれなくて、イテッ!」
真っ赤な顔をしたサクラに脇腹を叩かれ、カカシは口をつぐむ。

「パパァ」
リビングに入ろうとした瞬間、飛び出してきたのはカカシが起きるのを長い間待っていた小桜だ。
「これ読んで!」
「おー、いいぞ。今日は『赤ずきんちゃん』だな」
「うん」
足下にいた小桜を抱えると、彼女は満面の笑みでカカシにしがみつく。
ソファーに座ったあとも小桜はカカシから全く離れず、そばで見ているナルトとサスケが疎外感を感じてしまうほどの仲睦まじさだ。

 

「・・・・記憶、戻ってると思うか?」
「どっちでもいいんじゃないの。もう」
サクラの持ってきた茶をすすった二人は、ほのぼの空気が漂う部屋でそんな会話を交わしていた。


あとがき??
カカシ先生は家に帰って一時間ほどで記憶が戻りました。
ちなみに記憶喪失になっていた間のことは覚えていません。愛の力は凄いな。
題名は映画のタイトルを拝借しましたが、そのまんまこのシリーズのカカシ先生の心情を表しています。ねぇ。(笑)
これを書いている間中、ケイ太さんが描いてくださったサクラ達が頭にありました。
ケイ太さんのサクラ&小桜、とても可愛いですよv

カカシファミリーシリーズに投票してくださった皆様、有難うございました。


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