最初の海


「いーなー、いーなー」
自宅の電話はカカシが使用しているため、携帯電話で話をするサクラはしきりに羨ましがる。
“海の日”に合わせて、いの達夫婦はさっそく泳ぎに行ったらしい。
「水も綺麗だったし、あそこのビーチはお薦めよ〜。あんた達も娘を連れて次の休みに行ったら?」
「んー・・・」
唸るように言うと、サクラはカカシへと目を向ける。
近頃家を留守にすることが多いカカシは、大事な任務に携わっているらしく、今も電話で連絡を取っている最中だ。
サクラが「海に・・・」と言い出しても、到底叶えてくれそうにない。
「馬鹿ねー、もっと頭を使いなさいよ。あんたには最強の相棒が付いてるでしょう」
「え??」

 

 

「パパー!」
暫くカカシの周りをうろついていた小桜は、なかなか電話が終わらないことにしびれをきらし、その足に飛び付いた。
「ああ・・・、小桜、あとでな。今、大事な話の途中だから」
「駄目!いますぐ!!」
いつもの抱っこをねだられていると思ったカカシは、何とか彼女の体を離そうとするが小桜はびくともしない。
「パパ!早く!!」
「うー」
愛娘の大きな瞳が潤んできたことに気付き、カカシは仕方なく電話を中断させて小桜を抱え上げる。
保留のためのメロディーが鳴っていたが、一度「高い、高い」をすれば満足して離れるはずだ。

「パパ、小桜、海に行きたい」
「えっ?」
抱き上げた直後に言われ、カカシは驚きの声をあげる。
「海に行きたいの?」
「うん。パパと行きたい。・・・・駄目?」
両手を合わせた小桜は上目遣いにカカシを見つめた。
暫く任務続きで休みは取れない。
だが、目に入れても痛くない小桜の可愛いおねだりに、カカシが落ちないはずがなかった。

 

「タローくん、次の任務、俺の代わりにお前が行っておいて」
「え、ちょ、ちょっと、困りますよ。そんな突然・・・・」
保留のままになっていた電話に一声かけると、カカシは騒ぎ出した相手を気にせず受話器を置く。
「そっかー、小桜はパパと海に行きたいのかーー」
「うん、海〜〜」
カカシに高く抱えられた小桜は、彼と一緒になって笑い声を立てている。

一部始終を目撃したサクラは、すっかり感心してしまった。
いのに言われたとおり、小桜を通して意思を伝えたのだが、効果は覿面だ。
何か欲しいものがあったら、また小桜におねだりしてもらおうかと、邪な考えまで思い浮かんでしまった。

 

 

 

翌日、3つになったばかりの小桜を連れ、はたけ一家はさっそく海へと向かう。
初めて見る広くて大きな海に、小桜はしきりに歓声をあげていた。
水は少し冷たかったが、天気は快晴で、海水浴客が砂浜にひしめいている。
小桜もさっそく海の水に浸かったが、砂の上に立つと波に足下をすくわれる気がするのか、不安げにカカシの手に掴まる。
だが、それも少しの間だ。
好奇心が勝ったのか、目を離すとすぐに駆け回る小桜に全く目が離せなくなった。

 

「あ、あの子、可愛いーーv」
「本当だ」
ピンクの水着姿の小桜がビニールシートの前を横切り、近くにいた若い女性は思わず顔を綻ばせた。
砂遊び用なのか、小桜は手に玩具のシャベルとバケツも持っている。
小さな蟹に気付いて振り向いた小桜は何とも言えず愛らしかったが、それ以上に目を引いたのは、彼女の後を追いかけるようにして歩くカカシだ。
普段は顔の大半を隠しているカカシも、この日ばかりは青い
Tシャツを着ただけの軽装だった。
躓いて転んでしまった小桜をすぐに立たせ、優しく笑いかける姿に彼女達は見惚れている。

「・・・な、何だか随分と素敵なお父さんよね」
「あっ、やっぱりお父さんなんだ」
「そうでしょうー、あれは。きっとお母さんも近くにいるわよ」
彼女達は多少がっかりした気持ちで言葉を交わし合う。
同じ心境の女性は他にもいたようで、近くの海の家で小桜達を眺めていた客達にもため息が漏れていた。

 

 

「・・・サクラ、俺、どこか変?」
「え、何がー??」
「さっきから凄い視線を感じるんだよね。やっぱりマスク付けてきた方が良かったかなぁ」
海の家で飲み物を買い、サクラの待つパラソルへと戻ってきたカカシはしきりに周りの目を気にしていた。
常にマスクのある生活をしていたせいで、素顔のままだと不安になるらしい。
見られている理由が好意的なものだということにも、気付いていないようだ。

「やっぱり、小桜に一緒に行ってもらって良かったわー」
「え??」
シートの上に小桜と座り、首を傾げたカカシにサクラはくすくすと笑う。
サクラに近づく男にはすぐ反応するというのに、自分のことには疎いカカシに、何だか可愛さを感じた。
「サクラ?」
自分に寄りかかってきたサクラに、カカシは不思議そうな声を出した。
「んー、何だか、素敵な旦那様がいて幸せだなぁって思って」
にこにこ顔のサクラを見て、カカシも曖昧な笑顔を返す。
膝の上の小桜はお腹がすいたようで、しきりに手提げ袋の中の弁当箱をさぐっていた。

 

「あれが、お母さんだったのねー。それにしても、子供とそっくり」
「うん。でも可愛い親子よね」
和気藹々とした雰囲気でおむすびを頬張っている3人に、最初は「お父さんが格好良い」という理由で注目していた海水浴客も、ほのぼのした気持ちになる。
腹が満たされた小桜はすぐに眠ってしまったが、楽しかった思い出は彼女の中にしっかりと残ったらしく、毎年この時期に海に行くことははたけ家の恒例の行事となってしまった。

 

 

 

 

「タローくん、悪かったね迷惑かけて」
海から帰るなり、カカシは代理で自分の任務を引き受けた彼の家を訪れる。
荷が重かったのか、彼の顔は一日でげっそりとやつれていた。
彼には彼の任務があり、カカシの分を含めて倍の仕事量だったのだ。
「これ、お土産。食べてね」
海の近くで買った干物やその他海産物を渡すと、タローという名前の上忍は恨めしげにカカシを見る。

「・・・どっか、行ったんですか?」
「ううん。娘が急に熱を出して、その看病を・・・・」
「嘘付け!!!」
真っ黒に日焼けしたカカシを睨み、タローは間髪入れずその言葉を否定していた。


あとがき??
楽しかったですvカカシ先生が格好良い人だということを忘れていました。
テンテンちゃんが認めていたし、一楽の二人もメロメロだったし、おそらくそうなんです。
ほのぼの〜として頂けると嬉しいです。何だか違和感あるなーと思ったら、ナルトがいませんでした。
ま、たまには、はたけ家水入らずということで。

321900HIT、ハルカ様、有難うございました。


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