親離れ子離れ


上忍専用控え室に死人がいた。
いや、死人のようになったカカシが机に突っ伏していた。
声をかけても、後ろから頭を叩いても、無反応だ。
たまに上体を起こしても、暫くすると目が潤み始め、また机に泣き崩れる。

「何があったんだ?」
「娘さんに言われたんだって。「もうパパとは一緒にお風呂に入らない」って」
こそこそと背後で話すアスマと紅の声が耳に入り、カカシはさらに気を滅入らせる。
いつかは、そう言われる日がくると覚悟はしていた。
だが、
7歳の誕生日を迎えるまで毎日カカシが小桜を風呂に入れていたのだ。
愛娘の成長を喜ぶというより、悲しみの方が大きかった。
「今日から、何を楽しみに生きていけばいいんだ!」
「・・・何を楽しみにしていたのよ」
握りこぶしを机にぶつけるカカシに、紅は冷ややかな眼差しを向けている。

 

「いーじゃねーか。小桜が駄目って言うなら、サクラと風呂に入れば」
涙を流すカカシを見かねたアスマの一言に、カカシはハッとなった。
「そうか。サクラと・・・・」
涙は引いたようだが、今度は思案顔で机に頬杖を付く。
めそめそされるのも目障りだが、うなり声も相当迷惑だ。
「今度は何だ」
「いや、だって、そうしたらなかなか風呂から出られないじゃない。小桜や快がサクラを捜してうろうろしたら、集中できないような気が」
真顔で語るカカシに、アスマと紅は呆れ果てている。
一体、風呂場で何をするつもりなのか。
聞くだけ野暮というものだった。

 

 

 

「ただいま」
「おかえりなさいー」
扉を開けると笑顔のサクラが目に入り、その日の疲れが掻き消える。
体力がゼロだったとしても、サクラが視界に入るだけで、力がみなぎってくる気がした。
市販の栄養ドリンクなどサクラに比べれば水のようなものだ。
「サクラ、今日も可愛いね」
「もう、自分の奥さん口説いてもしょうがないでしょう」
抱き寄せてキスをすると、サクラはくすくすと笑っている。
自分がどれほど幸せかは、彼女にいくら口で言っても伝わらないことだろう。

 

「ナルト、来てるんだ」
「うん。今、お風呂入っているわよ」
玄関の靴を見ながら言うカカシに、サクラは頷いて答える。
すっかりはたけ家の一員となっているナルトが飯を食べ、風呂に入り、泊まっていくのはしばしばあることだ。
だからあまり気にすることなくリビングにやってきたカカシだったが、そこには息子の快だけで小桜の姿がない。
「小桜は?」
「だからお風呂よ」
「・・・・え?」
思わず聞き返したカカシは、扉が開く音に反応して振り返る。
髪の毛にタオルを巻きつけ、パジャマ姿の小桜は湯上りのために真っ赤な顔をしていた。
あとから続いて入ってきたナルトも、同じように汗をタオルで拭いている。

「あ、カカシ先生。おかえりー」
カカシに気づいたナルトは笑顔で言ったが、彼の耳には届いてない。
どう見ても、二人は一緒に風呂に入っていた。
父の自分が許されず、ナルトならば大丈夫とは、あまりに理不尽だ。
「小桜、何でーーーー!!!!」
ナルトを無視したカカシはすぐさま小桜に駆け寄る。
涙を流すカカシを鬱陶しそうに見る小桜は、彼から逃れるようにナルトの服の裾を掴んだ。
「ナルトは特別よ」
「え、何、どうしたの?」
悲しみに打ちひしがれるカカシを見ても、ナルトは状況を呑み込めない。
心配そうに自分を見つめるナルトを、顔をあげたカカシは鋭く睨み付けた。

 

「ちくしょう、人の娘を誘惑しやがって!」
「え、ええ??」
「俺にだって考えがあるんだからな!!」
吐き捨てるように言うと、カカシは不思議そうに自分を見ていたサクラの手を掴んで引き寄せる。
「俺はサクラと風呂に入ってやる。どうだ、羨ましいだろ!!」
「ちょ、ちょっと先生!!何なの、一体・・・・キャッ!!!」
体を肩に担がれたサクラは悲鳴をあげたが、カカシは構わずナルトに舌を出している。
「これはお前には絶対やらないからな」
「先生、は、離してよーー!!」
足をばたつかせたサクラが必死に抵抗しても、カカシはびくともしない。
何が起きたか分かっていないのはナルトも同様だ。

「どうしたの?」
脱衣場に向かった二人が消えたあと、ナルトはようやくそれだけ小桜に訊ねる。
「さぁ。反抗期なんじゃないの」
冷蔵庫からフルーツ牛乳を取り出した小桜はナルトにもそれを手渡す。
にっこりと笑った小桜をナルトは困惑した表情で見るしかなかった。


あとがき??
いつかは書きたいと思っていた、「もう、パパとはお風呂に入らない」ネタでした。
小桜は結構大きくなるまでナルチョと風呂に入っていたらいいと思います。いや、大きくなってからも入っている方が良いですが。


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