お父さん


突き出された棒を背面に回転して避けた小桜は、足を引っかけた木の幹を蹴りつけて反撃へと転じる。
もちろん、彼は簡単にかわすのだが攻撃の手は緩めない。
足払いをされる前にジャンプし、彼の脇腹を払った。
小桜の力ではさほどダメージを与えられないが、彼女の利は軽い体重を活かしたスピードだ。
だが、それすら全てを見通す眼を持つサスケには、全く無意味なものかもしれない。

「今日は、ここまでにするか」
「・・・・はい」
肩で息をする小桜は、十本のうち一本、手加減をされてようやく彼の体に当てることが出来た。
間合いの操作を学ぶために始めた棒術だが、体術や手裏剣術よりも小桜に合っているらしく、近頃めきめきと上達している。
任務の片手間とはいえ、弟子が優秀ならばサスケもやりがいがあるというものだ。
「帰るぞ」
「うん」
サスケが小桜の分の荷物も持って演習場の出入り口へと向かうと、小桜はその後ろをくっついて歩く。
彼は滅多にナルトのように手を繋いで歩いてくれることはないが、この距離を小桜はそれなりに気に入っていた。

 

「サスケくん、今日はうちで夕飯を食べていく時間はあるの?」
「そうだな・・・」
振り返った瞬間、小桜の鞄のポケットから落ちた紙をサスケが拾い上げる。
「何だ」
「あ、それ、駄目!!」
サスケの手元の紙をひったくると、小桜は取り繕うように笑って見せた。
「えへへっ、な、何でもないから」
「・・・・」
サスケは怪訝そうに首を傾げたが、それ以上追求して欲しくない気配を察したのか、そのまま口をつぐむ。

小桜が話題を変えながらポケットに丸めて入れたのは『父親参観日』の知らせだ。
日頃のアカデミーでの授業風景を父親に見せるためのものだが、小桜には関係がない。
彼女の父親であるカカシは来週から大口の任務が入っており、ナルトと共に2週間ほど里を留守にするのだと聞いていた。
それに、もし来たとしても煩いだけだ。
運動会のときは応援のため『頑張れ、小桜!パパがついてるぞ』という手製の旗を作ろうとしたカカシを何とか止めた記憶がある。
そんな旗を競技中に出されたら、恥ずかしくて学校に行けなくなることは必至だ。
授業参観にやってくれば、また過剰なかけ声を教室の後ろからされるに決まっている。
嫌いというわけではないが、必要以上に自分にかまうのはやめて欲しいと願う、複雑な乙女心だった。

 

 

 

「今日は小桜ちゃんのパパ、来るのーー??」
「んー、任務が忙しくて」
「そうなの。残念ね」
休み時間の間、くノ一クラスの生徒達は皆家族の話題で盛り上がっている。
勉学が得意ではない生徒の中には、早くもプレッシャーから暗い表情をしている者もいてそれぞれだ。
だが、小桜は参観日のことを父にも母にも言っていないのだから、気楽なものだった。

「小桜ちゃんのパパ、格好良いって聞いたから楽しみにしていたのに」
「・・・・全然、そんなことないわよ」
毎日サクラの尻を追いかけ回しているカカシの姿を思い出し、小桜は嫌に断定的に言い切った。
確かに外見的には中の上といったところだが、中身があれでは意味がない。
運動会では紹介もせず、友達を家に招くときはカカシが任務で不在のときを狙っているため、幸い誰も顔を知らなかった。
ただ、元暗部のエリート上忍が父親とだけ、クラスの噂で広まっている程度だ。

 

「はいはい、授業を始めますよーー」
やがて教室に担任の女教師が入ってくると、生徒達は蜘蛛の子を散らすように自分の席へと戻っていく。
ちらほらと保護者の姿も見え始め、中には小桜の知っている顔もあった。
父親に目配せをする友達を少しばかり羨ましそうに眺めた小桜は、突然教室内がざわついたことを感じ取る。
「あ、あれ、誰のお父様かしら!」
「若いし、超美形!!」
周りの生徒達はひそひそと言葉を交わしたが、前方を窺うと担任の女教師も教室の後ろを見たまま惚けている。
この反応は、小桜が今まで何度も体験したことがあるものだ。
恐る恐る振り返ると案の定、小桜の知る上で一番の麗人が、見慣れぬスーツ姿で他の父親達に混じって立っている。
目が合った瞬間に優しく微笑まれれば、長い付き合いである小桜とて頬が赤くなった。

「小桜ちゃん、だ、誰、あの人!」
脇にいる親友に小声で訊ねられ、小桜は困ったように首を傾げる。
父親の元部下で、母親の初恋の人で、ナルトの永遠のライバルで、今は小桜に武術を教えてくれる師匠で・・・・。
「お父さん・・・・みたいな人」
とりあえず、引きつった笑いを浮かべる小桜にはそう答えることしか出来なかった。

 

 

 

「もー、凄いびっくりしちゃった!!」
「そうか?」
くノ一クラスの授業を混乱の渦へと巻き込んだサスケは、小桜と共に帰路に就きながら、全く自覚がない様子でネクタイを緩めている。
小桜が落としたプリントを、あのとき彼はしっかりと見ていたようだ。
カカシが授業参観のことを知っていれば、娘を溺愛する彼のこと、任務を中止すると言い出しかねない。
両親に気を遣って黙っていた小桜を、哀れに思ったのかもしれなかった。

「私、別にパパが来なくても、平気だったのに・・・」
「俺は来て欲しかった、父さんに」
サスケは傍らを歩く小桜の頭を、ぽんっと叩く。
サスケの父親は毎日多忙だったが、時間があれば才能のある兄にばかり目を掛けていた。
学校の行事に出ることも殆どなく、少年時代のサスケは寂しく感じていたものだ。
だから、今日も小桜のことを放っておけなかったのだろうか。

 

夕日に背を向けて思案するその姿が寂しげに見えて、小桜はそっと彼の掌を握る。
小桜が笑顔を見せると、彼も釣られたように微笑んだ。
優しくて、あたたかくて、頼りがいがあって、尊敬できる。
小桜にとって、二人目のお父さんのような人だった。


あとがき??
何故突然棒術かというと、『封神演義』の紂王がこれの達人だったからです・・・・。紂王×姜妃のカップリングが好きでした。(マイナー)
ちなみにこのカップリングを好きでなかったら、暗い部屋連載中の血途シリーズは存在しなかったという裏話が。

年と共に性格が丸くなっている様子のサスケ坊ちゃん。
サクラに似た小桜ちゃんがサスケではなくナルトを好きになった理由は、サスケをお父さんとして見ているからなんですね。
カカシ先生が頼りないばっかりに・・・。
リクを頂いたのが、8月・・・。3ヶ月お待たせしてしまいました!!申し訳ございません。
カカシファミリーシリーズでサスケ&小桜の話でした。

360750HIT、ミト様、有り難うございました。


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