めぐる


「誕生日、おめでとうーー!」
「おめでとうーー!!」
「・・・・・・・・」
玄関の扉を開けるなり、派手に鳴り響いたクラッカーの音と拍手にカカシは思い切りテンションを下げた。
何度苦情を言っても取り合ってはもらえないらしい。
この日14歳となるカカシ少年を出迎えたのは彼の恩師であるミナトとその妻のクシナだ。
彼らは一人暮らしをしているカカシを気遣ってか頻繁に訪ねてくる。
自宅に招かれて断ると必ずといっていいほど押しかけてくる。
班が解散した後もカカシがいつ任務で里を離れ、家に戻るか、四代目火影となったミナトにはもちろん筒抜けだ。

「何しに来たんですか」
「えっ、第一声が、それなの!」
しょんぼりと肩を落としたミナトの背中を、クシナが慰めるように叩く。
少々言い過ぎたかと思ったが、彼らはカカシの家に無断で侵入しているのだ。
さらにはクシナは臨月間近で、大きな腹で近くをうろうろされてはカカシも気が気ではない。
「誕生日だってのに一人で家にいるなんて寂しいからお祝いに来たのよ」
「・・・・別に、誕生日だからって普通の日と一緒ですよ」
クシナから目をそらしたカカシは、テーブルの上に並んだ料理やケーキを見てますます気まずくなった。
幼い頃に両親を亡くして忍びの世界に入ったカカシは、まともに誕生日を祝ってもらった記憶がない。
ここまで準備をされても、一体どんな反応をすればいいのか戸惑うばかりだ。

「あのー、先生はなんでこんなに俺のこと気にかけてくれるんですか。忙しいのに」
心底不思議そうに訊ねると、ミナトはいつもどおりの、穏やかな微笑を浮かべて答える。
「カカシは家族だから当たり前だよ」
「・・・・家族」
「お父さんと呼んでくれてもいいよ」
「嫌です」
両手を広げたミナトにカカシはきっぱりと言い切った。
「じゃあ、ナルトはカカシの弟ねー」
その返答が聞こえていなかったのか、にこにこ顔で腹部に触れるクシナに、カカシは眉を寄せて振り返る。
「ナルトって」
「この子の名前。自来也様につけてもらったのよ」
「・・・・・」
「ダサい」という言葉が口から出そうになったが、何とか思い留まった。
幸せそうに笑う二人は、本気でそれを「いい名前」だと思っているようだ。
それにどんな名前であろうと、この両親から産まれた子供ならば明るい未来が待っているに決まっている。

 

「・・・俺、一人でも別に寂しくないですよ」
「そうかもね」
淡々と呟くカカシの言葉を、ミナトは意外にも肯定した。
何気なく頭にのせられた掌の感触に顔をあげると、柔らかく微笑むミナトと目が合う。
任務で一緒に活動していた頃とは全く違う、クシナや生まれてくる子供のことを語るときと同じ、優しい表情だ。
「でも、お前が一人でいると思うと俺達が寂しいんだよ」

そんな気などなかったのに、自分を気遣うように見つめる眼差しに、瞳が潤みそうになる。
だから彼らといるのは嫌なのだ。
思い切り甘えたくなって、自分が子供だと自覚してしまう。
上忍になり、一人前になったと自負しているのに、こうして簡単に崩されてしまうのだ。
それでも、こんな気持ちもたまになら悪くはない。
激務の間のつかの間の安らぎ。
幸せで幸せで、少し悲しくなるこの時間を、後々繰り返し思い出すことになるとは、14歳のカカシは考えもしていなかった。

 

 

 

「パパ」
本を片手に長椅子でうとうととしていたカカシは、その呼びかけに瞳を開ける。
「ナルトが来たわよ。早く下の階におりてきてよ」
「あ・・・、うん」
顔だけで振り返ると、愛娘の小桜が両手を腰にあててカカシを見つめていた。
意識が十年以上昔へと飛んでいたために、一瞬彼女が何者で、何を言われたのか考えてしまった。
今日はナルトの誕生日。
サクラが一ヶ月前からしつこく念を押していたため、仕事に忙殺されているナルトも何とか任務を切り上げて里に戻ってきたらしい。
カカシは朝から誕生日パーティーの準備をするサクラと小桜に邪険にされ、二階に追いやられていたのだ。
台所で料理の皿をひっくり返して割ったことを考えると、致し方ない。

「おー、頑張ったねぇ」
居間にやってきたカカシは、綺麗に飾りつけをされた部屋とテーブルの上の料理の数々に目を見張った。
ケーキには小桜の手によってナルトの似顔絵がチョコレートで描かれており、むしろカカシの誕生日の時よりも気合が入っている。
「先生―」
「ん?」
服の裾を引っ張られて顔を向けると、何故か罰が悪そうな顔をしたナルトが立っていた。
昔の自分を見ているような錯覚に陥る。
嬉しいけれど、それ以上に、申し訳ないような気持ちになるのだ。

「なんか、悪いってばよ。俺のために毎年こんな豪華なパーティー開いてくれて・・・。俺、何にも返せないのに」
「・・・・」
にっこりと微笑んだカカシは、ナルトの頬を両手で掴むと、思い切り横に引っ張った。
皮膚が柔らかいのか、面白いくらいによく伸びる。
「い、いひゃいって・・・・」
「珍しく殊勝なこと言ったりするからだよ」
手を離すと、赤くなった頬をナルトは涙目で擦った。
「家族だし、祝うのは当たり前だろ」
恩返し、というわけではない。
たとえナルトがあの二人の子供でなくても、自分はそうしていた。
それでも、どこかしらに面影を残しているナルトを見て、カカシは懐かしげに目を細める。
「お前は俺の大事な弟分なんだよ」


あとがき??
カカシファミリーシリーズ番外編でした。
ミナト&クシナ夫婦を勝手に創作してすみません。
因果応報ってことで。


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