赤ずきんの森


小桜にねだられ、カカシが購入したフード付きの真っ赤なコート。
自宅に戻るなり包みを開けた小桜は、さっそくコートに袖を通す。
ちょうど家に立ち寄ったナルトや両親の前で、くるりと一回転してみせた。

「可愛いね。赤ずきんちゃんみたい」
目を細めたナルトの言葉に、小桜はにっこりと微笑む。
「あー、本当。可愛い可愛い。食べちゃいたいくらい可愛い」
「・・・・パパ、どいて」
小桜を抱き寄せ、頬をすり寄らせるカカシに対して彼女は冷ややかに言った。
「・・・最近、冷たくない」
「しつこくするから嫌われるのよ」
涙するカカシに、サクラは呆れ気味に呟く。
膝を抱えて座るカカシを気にせず、小桜はナルトにべったりと張り付いた。

「ナルト、お出かけしよう、お出かけ」
「え、別にいいけど・・・・」
ナルトがちらりとカカシ達の様子を窺うと、サクラはテーブルにあった籠をナルトに差し出す。
「外に行くなら、西の森で薬草つんできてくれる?必要なものはここにメモしてあるから」
「う、うん」
カカシの恨みのこもる視線が突き刺さるようで、ナルトは引きつった顔で頷いた。

 

 

「るる〜♪」
ナルトと手を繋いで歩く小桜は、鼻歌を歌い、満面の笑みだった。
そのまま森にたどり着いていれば、新しいコートを手に入れた喜びから小桜は一日笑顔で過ごせていたはずだ。
だが、森へと向かう道すがら、ナルト達は一人のくのいちと出くわした。
顔見知りらしい彼女にナルトは気さくに話しかけている。
当たり障りのない会話だったが、二人の間にただならぬ気配を感じたのは、子供とはいえ小桜が女だったからだろうか。

「そちらのおちびちゃんは?まさかナルトの隠し子じゃないわよね」
「ああ。ただの知り合いの子供だよ」
自分の頭に手をやって答えるナルトに、小桜は大きなショックを受ける。
ただの知り合いの子供。
確かにその通りなのだが、何故か突き放すような響きが含まれている気がする。
楽しかった気持ちがみるみるうちにしぼんでいくのを、小桜は感じ取っていた。

 

「今のが前の彼女のユミちゃん?」
「・・・え」
「それとも、サユリ、アイコ、ユカリ、ハルカ、ミナヨのどれか?」
くのいちと別れるなり、暗い声音で語り出した小桜にナルトは度肝を抜かれる。
「確かユカリさんとアイコさんの二人は同時に付き合っていて、後々修羅場になったのよね。ハルカさんは旅館の女将さんでナルトより10も年上。ユミちゃんはナルトより二つ年下で・・・」
「な、何でそんなことを!」
「ナルトの家に行ったとき、パパと二人で机の引き出しの奧にあった日記や手紙を読んだから」
「・・・・・・」
自分を見上げ、けろりと答える小桜にナルトは思い切り脱力した。
そして、机の引き出しに鍵を付けることを固く心に誓う。

「ユミちゃんと一緒に行ってきていいわよ。薬草取り、一人で大丈夫だから」
ナルトの手から籠を奪うと、小桜はつっけんどんな口調で言う。
あかんべえをした小桜に驚くナルトは、小桜の心変わりの理由が全く分からない。
「・・・何、怒ってるんだろう」
遠ざかっていく赤いコートを、ナルトは呆然と見送っていた。

 

 

 

「信じられない!!ナルトってば、あの年で何人の女の子と付き合ってるのよ!!!」
これがサスケならば不思議と納得してしまうが、ナルトだと無性に腹が立つ。
野原に座り込んだ小桜は、怒りにまかせて葉を引きちぎっていた。
どれが薬草でそうでないのか、アカデミーで学んでいる途中の小桜にははっきりと分からない。
だけれど、戻ってナルトに頭を下げることは、勝ち気な小桜にはどうしても無理だ。

「乱暴にしたら、葉っぱが可哀相だよ」
その声にはっとして振り返ると、申し訳なさそうに佇むナルトが小桜の視界に入った。
「ごめん」
「・・・私が怒った理由、分かってるの」
「ううん」
「それなら謝らないでよ」
頬を膨らませた小桜はさも不機嫌そうに返事をする。
自分に歩み寄り、しゃがみ込んだナルトから小桜は無理に顔を背けていた。

 

「一人で大丈夫って言ったのに!」
「でもさ、この森、時々狼が出るって噂なんだよ。だから、サクラちゃんも俺を同行させたんだと思うし」
「狼なんて、怖くないわ」
「本当?」
苦笑混じりに言ったナルトは、小桜の肩を掴んですぐ間近まで顔を近づける。
「こうやって襲ってくるんだよ、ガオーーーッて。赤ずきんちゃんは頭ごと一口で食べられちゃう」

突然のことに、小桜の緑の瞳は驚きに見開かれ、膝に乗っていた籠は地表に転がり葉が散らばった。
だけれど、小桜はナルトの目を真っ直ぐに見据えている。
怖がらせようとして大げさな動作をしたナルトの狙いは、見事にはずれてしまったようだった。
「・・・・よけないの?」
困り顔で身を引こうとしたナルトを追いかけて、小桜は彼に抱きつく。
「ねぇ、ナルト。赤ずきんが狼のことを好きだったとしたら、あの物語はどうなっていたかしら?」

 

喜んでいたと思えば怒られて、今は懐かれている。
自分の膝を枕に悠々と寝転がる赤ずきんをナルトは困惑気味に見つめた。
女の子の考えることは全くナルトの理解の範疇を超えている。
その漠然とした部分が気になっている自分の気持ちも、またよく分からなかった。


あとがき??
来る者は拒まずのナルチョのモデルは、岩館真理子先生『アマリリス』の赤井くん。
小桜10歳でナルチョは27歳。・・・いい。

一作目の『Family』という作品を読めば分かると思いますが、カカシファミリーシリーズは本来ナルトと小桜の話なのです。
この二人がくっつくまでの過程というか。
メインはカカシ先生&サクラではないのです。
近頃横道にそれる話ばかりで私も忘れそうでしたが。(笑)
今度カカシファミリーシリーズの年表作ります。


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