パパは悪者?


「やだ、もうこんな時間!」
流しで洗い物をしていたサクラは時計を見るなり驚きの声をあげる。
「先生、快をお風呂に入れてくれるー?」
「おー」
居間で新聞を読んでいたカカシは、床に座ってTVを眺める快へと顔を向けた。
「快、TVはもうおしまいだ」
言いながら、カカシは快の体を後ろから抱えようとする。
いつもならば、すでに眠い時間帯に入っていることもあり、快は大人しくカカシに従っていた。
だけれど、この日の快は険しい表情で後ろを振り返る。

「嫌!!」
「・・・・何、抵抗してるんだよ」
快は手足を動かして逃れようとするが、カカシはびくともしない。
唇を噛みしめた快は、みるみるうちに瞳を潤ませていった。

 

泣きわめく快の声を聞きつけたサクラは、すぐにキッチンから駆けつけてくる。
「ど、どーしたの?」
「よく分からないけど、快が急に暴れ出して」
「パパ、怖いーー!!!」
カカシが手を放すと、快は必死な表情でサクラに飛び付いてきた。
しゃくり泣きするその様子は、どう見てもただごとではない。

「・・・・先生、まさか、私の見ていないところで虐待とか」
「し、してない、してないって!仲良し親子だって」
カカシの言葉に被さるように、快は「ギャー」と泣き声をあげる。
重苦しい沈黙の中、自分の部屋からから出てきた小桜はTVを指差して言った。
「あのさ、快がパパを嫌がるのは、これが原因だと思うんだけど」
「え?」

 

快が熱心に見ていたビデオテープがまだTV画面に映し出されている。
『洗濯戦隊 シャボン5』。
巷の幼児に人気の戦隊アクションヒーローの番組だが、快は現在これに夢中になっている。
だが、問題はこのアクションヒーローではない。
主人公のグループの敵役に、「白鬼」という極悪魔人が登場する。
白い髪に左目を覆う眼帯、口元を隠すマスクと、誰かによく似たキャラクターに、カカシとサクラは唖然と画面を見つめ続けていた。

 

 

 

 

こうも似たキャラクターがいるのは、絶対に自分をモデルにしたからだ。
そう理由を付けたカカシは、『シャボン5』の撮影が行われているという現場を強襲することにした。
まだ幼い快が、TVと現実の世界を混同しても仕方がない。
だが、マイホーム主義のカカシとしては、このまま快との仲が険悪になることだけは避けたかった。

「責任者出てこいーー!」
今日は荒野での爆破シーンを撮っているらしく、スタッフは右往左往と行き交っている。
取り敢えず、カカシはスタッフの一人を掴まえて文句を言うことにした。

 

 

「ちょっと、あんたらのせいで俺は息子に嫌われて・・・」
「白さん!!遅かったですね!!!」
「まだ着替えてなかったんですか」
「え?」
安堵と困惑の混じる顔で言われたカカシは、思わず言葉を呑み込む。
“白”というのが白鬼を演じている役者のことだというのは、スタッフと話しているうちに分かった。
どうやらその役者が遅刻しているらしく、撮影の現場は混乱しているようだ。
白鬼役の俳優は遅刻癖までカカシに似ているらしい。

「だから、俺は違うって・・・・・」
詰め寄るスタッフに説明をしていたカカシは、ふと、視界に入った赤い物に目を留める。
「あれ、やばいんじゃないの?」
「え?」
「火事だーーー!!!」
爆破シーンのリハーサルをしていたスタッフが火薬の量を間違え、思いのほか火の手が広がっていた。
スタッフの休憩所として使われていた木造の小屋にまで引火している。

「大変だ!あの小屋の中には、まだシャボンレッドが!!」
「ああーーーもーーー!」
次から次へと起こる事態に、カカシは頭を抱えて叫んでいた。
居合わせたからには、加勢しないわけにはいかない。
火を消し止めるのはこれから来る消防局の人間に任せるとして、人命救助が最優先だ。
燃え盛る小屋の壁を壊し、火と煙の中から逃げ遅れたレッドを見つけたカカシは、火傷を負いつつも何とか彼を救い出した。
激しく咳き込むレッドは少し煙を吸いこんだものの、軽傷ですんだようだった。

 

「だ、誰?」
落ち着きを取り戻したレッドは、命の恩人であるカカシを見上げて不思議そうに訊ねる。
「・・・・・白鬼」

 

 

 

 

快はTVの前で正座をして、きらきらと瞳を輝かせながら『洗濯戦隊 シャボン5』を見つめている。
今週からは新たな味方がグループに加わり、話も急展開だった。

「兄さん、本当に兄さんなのか!」
「弟よ・・・、無事で良かった」
シャボン5のリーダーであるレッドと、それまで敵として戦ってきた白鬼が炎上する小屋の前でしっかりと抱き合っている。
白鬼とは世を忍ぶ仮の姿、10年前に悪の帝国に連れ去られ、洗脳されていたレッドの兄がその正体だった。
記憶が戻り、レッドのピンチを救った白鬼は、シャボンホワイトとしてシャボン5と共に悪と戦うことを誓う。

 

あの火事にも動じずカメラマンは撮影を続けていたというから、カカシはほとほと関心した。
何しろ本当の事故の現場なのだから、これ以上ないほど臨場感に溢れている。
ちゃっかり火事の場面に合わせて白鬼の役柄まで変えてしまったのには、驚きを通り越して呆れてしまった。
エンドロールのスタントマンの欄には、“はたけカカシ”の名前がきちんと記されている。

「シャボ〜ンファ〜〜イブ♪」
傍らのカカシに寄りかかり、『シャボン5』のED曲を歌う快はすっかりご満悦だ。
こうして快と仲直りできたカカシだが、自分によく似たキャラが子供向け番組にいるというのも、微妙な心情だった。


あとがき??
ごめんなさい。遊んでいます。とても楽しかったです。
『シャボン5』は『赤ちゃんと僕』に出てくるキャラですね。
このタイトルでお話を書きたかっただけでした。
快くんは先生にそっくりという設定だけれど、二人が並んで戦隊ヒーローの番組を見ている図って、可愛いかもしれない・・・・。

あの、とっくにご承知かと思いますが、このシリーズのカカシ先生が、私の書くものの中で一番お馬鹿なキャラです。
サクラ馬鹿というか、家族馬鹿というか。
どうでもいいけど、『シャボン5』の続きが見たくなってきた。
敵に捕らわれているサクラ姫が登場したりね。(ますます現実とごっちゃになる快くん)


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