７年目の浮気　�@

「ママ、有難うーｖ」
サクラ手作りの黄色いスモックを着た小桜は嬉しそうに母親に抱きつく。
ポケットは桜の花の形をしており、襟元に小桜の名前が刺繍されたそれは、かなりの力作だ。
アカデミーの授業で着るために用意したものだが、小桜はみんなに自慢できると大はしゃぎだった。
「小桜、早く用意しないと、友達が迎えに来ちゃうぞ」
「はーい」
カカシに促され、小桜は急いでアカデミーに向かう準備を始めた。
サクラから弁当箱を渡された小桜はスモックの入った袋を片手に飛び出していったが、午後からの任務のカカシは椅子に座りのんびりと新聞を読んでいる。

「黄色いスモック、可愛かったなぁ。小桜は何を着ても似合うね」
コーヒーを飲みながら言う親馬鹿なカカシに、洗い物をするサクラはくすくすと笑った。
「そういえば、小桜が今年の夏は絶対海に行くって騒いでたぞ」
「海にー？」
「ああ、ナルトをさそってみんなで行かないか？スケジュールが合えば、サスケの奴も一緒に・・・」
途中、流し場から響く割れた物の音に、カカシは驚いて振り返る。
「サクラ？」
「あ、ごめんなさい。コップを一つ、割っちゃった」
「気を付けろよー」

立ち上がったカカシは、細かい破片を集めるための掃除機を持ってくる。
床に散らばる大きめの破片を拾うサクラはおずおずとカカシを見上げた。
「あの、海なんだけど」
「ん？」
「サスケくんは行かないと思うわ。だから、５人で行きましょう」
「そうだな。あいつ、人が多いところに行くと機嫌悪いしな」

軽い口調で答えるカカシに、サクラは微かな笑みを浮かべる。。
その朝のサクラの態度がどこかきごちないものだったことに、カカシは全く気づいていなかった。

　

　

　

数日経ったある夕方、帰宅途中にナルトと出くわしたカカシは彼を自宅の夕食に誘う。
もともと、用事もないのにはたけ家に入り浸っているナルトだ。
彼にしても、異存があるはずがない。

　

「ちょっと、ちょっと、旦那さん」
門を開けようとした矢先、カカシはその声に反応して振り返る。
手招きをしているのは、隣りの家に住む初老の男だ。
仕事を辞め、年金で暮らしていると聞くが、近所の人間とあまり交友のないカカシはあまり詳しくは知らない。

「はい、何でしょう」
「ちょっと話しがあるんだけど、いいかね」
「え、ええ」
真剣な眼差しの彼に呑まれ、カカシは思わず頷く。
「じゃあ、一度家に帰ってから・・・」
「いや、今すぐがいい。早く、早くこっちに」
「はぁ」
開きかけの門をもう一度閉めると、カカシは隣りの家の玄関へと歩き出す。
ナルトも一緒にくっついてきたが、隣りの家の主人は何も言わなかった。

　

　

「お宅の奥さん、あんたがいない夜に男を家に引っ張り込んでいたよ」
「・・・・はぁ？」
素っ頓狂な声をあげたカカシを横目に、隣りの家の主人は傍らの夫人に頷いてみせる。
「確か、月曜だったかね」
「そうそう」
「何かの間違いじゃないですか。サクラにかぎってそんな・・・・」
狼狽えながら反論するカカシを、主人はじろりと見やる。
「でも、うちの女房が確かに見たっていうんですよ。黒髪の超美形の若い男が、早朝にあんたの家から出てくるのを」
「黒髪の超美形？サスケか」
その正体が分かり、カカシの顔には自然と安堵の笑みが広がる。
「大丈夫ですよ。あいつはうちの家族みたいなものですから」
「・・・でも、そういう雰囲気じゃなかったのよね」

　

　

　

夫人が言うには、こういうことだった。
飼い犬の散歩のために外に出ようとした彼女は、隣りのはたけ家から出てきた二人連れを見咎める。
思わず植木鉢の陰に隠れたのは、二人の間のただならぬ空気を感じ取ったからだろうか。
犬に大人しくするよう指示を出すと、夫人は静かに彼らの話に耳を傾けた。

「ごめんなさい。まさか、こんなことになるなんて」
「俺のことは別にいい」
「あの」
「分かっている、他言はしない。だからお前も黙っていろ。カカシにも絶対に言うな」
「・・・・うん」
暫くもじもじと指を動かしていたサクラは、やがて男の服を強く掴む。
「また・・・、来てくれるの？」
「ああ。カカシがいないときにな」

心なし、潤んだ瞳のサクラの髪に男は優しく触れた。
そうしてサクラと意味ありげに見つめ合ったあと、男は朝靄の中に消えていく。
彼がいなくなったあとも、サクラは長い間その場所に立ちつくしていた。

　

　

　

「・・・・何かのドラマの見過ぎじゃないですか？」
「この目でしっかりと見たのよ！」
自分の言葉を否定された夫人は思わず語調を荒げる。
「月曜って、カカシ先生が遠出の任務でいなかった日だよね。確か小桜ちゃんもアカデミーの合宿で家にいなかった」
「・・・・・」
「まだ小さい快を寝かしつければ、家の中には若い男女が二人きり・・・」
「・・・・・」
「いつしか絡み合う二人の視線。邪魔者はいない。たとえ一夜のことでも構わないと言い寄る女を、男も拒むことなく受け入れる。誰にも言えない秘めた関係だからこそ燃え上がる想い。逆らうことが出来ない運命に二人はただ身を任せるしかなかった」

「うがーーー！！」
テンポ良く話していくナルトと夫人の会話を、カカシはわめき声で遮った。
「ちょっとそこ、勝手な妄想で話しを進めるのはやめてくれませんか！よけいなことまで想像しちゃうでしょ！！」
「あ、すみません。近頃ハーレクインロマンスを読んでいるから、つい」
頭をさげる夫人を見た後、カカシはナルトへと目を向ける。

「ナルト、お前、サスケと仕事で顔を合わせることが多いんだろ！何か様子が違ったとか、気づかなかったのか！！いつもはうるさいくらいに無駄口叩くくせに」
「言われてみるとそんな気もするけど、サスケとサクラちゃんって・・・・」
伏し目がちになったナルトは、ひどく言いずらそうに話しを続ける。
「何だか、本当っぽくてからかえない」

　

隣りの家の夫婦を含め、部屋は静まりかえっている。
サクラを信じたいと思うのに、周りは全員カカシの敵のようだった。

あとがき？？
とても楽しかったです。元ネタは映画の『釣りバカ日誌』。
７年というのは、結婚７年目ということ。小桜はアカデミー付属の幼稚園に通っています。

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