good morning


「起きなさいーー!!」
「わあ!!」
突然耳元で怒鳴られたナルトは、驚きのあまり跳ね起きる。
胸がどきどきとして、全く心臓に悪かった。
だが、声には聞き覚えがあり、相手が彼女だと思うと頭ごなしに怒るわけにもいかない。
「サクラちゃ・・・・・」
息を一つ吸い込んで呼びかけようとしたナルトは、口を半端に開いたまま絶句した。
ナルトの目の前にいるのは、サクラだ。
桃色の髪も、緑の瞳も、両手を脇に置いて威厳高に佇む姿勢も見慣れている。
しかし、サクラの容姿はナルトと同じ、12歳にはとても見えなかった。

「サクラ・・・ちゃん?」
「何、まだ寝ぼけているの?こんなところでうたた寝すると風邪ひくわよ」
震える指をサクラに向け、訊ねるようにして言うと、彼女は不機嫌そうに眉を寄せた。
女性の年齢を詳しく判断できないナルトだが、彼女の年齢は二十代半ばあたりに見える。
ますます混乱したナルトが首を傾げると、今度はその頭を軽く叩かれた。
「早く顔洗ってきなさいよ。夕御飯、出来てるから」

 

 

居間にあるソファーで居眠りをしていたらしく、ナルトは廊下に出て洗面台を探す。
まだ自分の身に何が起きたのか理解出来ないが、とりあえずサクラに従った方が良いらしい。
三つ目の扉を開いて発見した洗面所で、ナルトは鏡に映った自分の顔をまじまじと眺める。
当然だが、毎朝見るものと全く一緒だった。
体がいくらか縮んだように思えたが、それはおそらく気のせいだ。
少しの距離を歩いただけとはいえ、家はそれまで暮らしていたものよりもずっと広く、どこも綺麗に磨かれている。
何より、サクラが同居人として一緒にいる事実が、どうにも不思議だった。

 

「あのー・・・、サクラちゃん」
「お母さん」
「えっ!?」
「お母さんでしょう、私が貴方を産んだんだから。何で今さら下の名前で呼ぶのよ。変な子ね」
料理をテーブルに並べていたサクラは、おずおずと部屋に入ってきたナルトを見ずに言う。
意表を突く返答にナルトは目を丸くしたが、それで大体のことが呑み込めた。
これは、夢の世界だ。
家族が欲しいというナルトの願望が、こうして夢に出てきたということなのだろう。
気になる女の子であるサクラが母親役というのは、何となく納得出来るものがある。

「えーと、母ちゃん・・・・」
「はいはい、ねえ、ご飯これくらいでいい?」
「うん」
しゃもじを片手に持ち、茶碗によそった米を見せるサクラにナルトは大きく頷いた。
事情が分かれば、少しは落ち着いて行動出来る。
どうせ自分が作り出した夢なのだから、十分に満喫しないと損というものだ。

 

「お肉だけでなく、野菜も食べなさいよー」
「・・・うん」
せっせとおかずを口に運ぶナルトは、向かいに座るサクラの顔色を窺いながら野菜に箸を延ばす。
苦手な野菜でも、サクラの手料理となると食べないわけにいかない。
この夢はいつまで続くのだろうかと考えながら食事を続けていると、サクラは小さなため息と共に呟きを漏らした。
「お父さんは今日も遅いみたいね・・・・・そのうち倒れなきゃいいけど」
どうやら、ナルトには父親もいる設定らしい。
つくづく自分の想像力に感心したナルトだったが、ふと顔を上げると、サクラが自分を見つめている。

「今日は久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか」
にっこりと笑ったサクラの言葉に、ナルトの一切の動きが完全に停止した。
サクラと入浴、どこまでも都合の良い夢の内容が半ば恐ろしい。
同じ内容の夢をもう一度みられる可能性は低く、それならば体験しておかなければ後悔する。
慣れない環境にすぐさま適応し、自分に良いように思考出来る順応性はナルトの何よりの長所だった。

 

 

 

「大丈夫?」
「・・・・ん」
風呂場で鼻血を出して倒れたナルトは、先ほどと同様にソファーに横になっている。
額には氷嚢が置かれ、鼻にティッシュをつめ、水を何杯も飲まされた。
原因は湯あたりではなく、流し場でサクラの背中を洗ううちに興奮しただけなのだが、心配そうに顔を覗き込んでいる彼女にはそのようなことは言えない。
お色気の術の練習のため、いかがわしい雑誌類は何度も目にしたが実際に見て触るのとでは大きな違いだ。
暫く時間が経過し、チャイムの音を聞いたサクラがそばから離れたときは、内心ホッとする。
サクラの顔を見ているうちは、いつまで経っても血が上った頭は正常に働きそうになかった。

「それが・・・鼻血が止まらなくなっちゃって・・・・・・」
「えー、何でさ」
そのうちに、ぼそぼそと話す声が廊下から聞こえてくる。
父親とやらが、帰ってきたのだろうか。
「タルト、大丈夫か!?」
扉を開けて入ってきた彼に、何故か別の名前で呼ばれたような気がして、ナルトはゆっくりと顔を動かす。
そこには自分と同じ顔をした若い男が、いや、正確には成長した未来の自分が立っていた。

 

 

 

 

「起きなさいーー!!」
「わあ!!」
ぱちくりと目を瞬かせたナルトの顔を、仁王立ちしたサクラが険のある眼差しで見据えている。
「あんたねー、任務の最中に居眠りなんて、さぼってるんじゃないわよ!!」
「ご、ごめん・・・」
「もうお昼よ。先生とサスケくんは集まってるから、早くご飯食べるわよ」
「うん」

頭上を見上げると快晴の空、眼前にあるのは大名家の別宅にある広大な庭、そしてちっとも進まない草むしりの作業。
どうやら単調な任務に嫌気が差したナルトは、大の字になって横になるうちに、眠りこけていたらしい。
思った通り、全て夢だったのだ。
反動を付けて起き上がったナルトは、荷物を持って前を歩くサクラに付いていく。
何気なく掌に目をやったが、まだサクラの肌に触れた感覚が残っている気がする。
あんな夢ならば、何度でも歓迎したいような気持ちだった。

 

 

一人暮らしをしている他のメンバーのため、サクラは週に一度は皆に手作り弁当を作ってくる。
今日は丁度その日だ。
「お肉だけでなく、野菜も食べなさいよー」
「・・・うん」
おなじみの台詞を聞きながら、ナルトは狐のキャラクターが描かれた弁当箱をしっかりと持ってご飯をかっ込んでいる。
サクラは常日頃物を食べるときはきちんと噛むよう指導しているのだが、あまり身にはついていないようだ。

「あっ、そういえばさー、サクラちゃん」
サスケとカカシにポットの茶をついでいたサクラは、もぐもぐと口を動かすナルトを振り返って見やる。
「何よ」
「サクラちゃんって左の胸のところにほくろがある?小さいのが三つ、可愛く並んでいるの」
「・・・・・えっ」
唐突な質問に、穏やかだったその場の空気は一瞬にして微妙なものに変化する。
皆の視線が集中する中、みるみるうちに赤くなるサクラの顔を見れば、それが真実だということはすぐに分かった。

「な、な、何で・・・・」
「えーと、サクラちゃんが一緒にお風呂に入ろうって言ったから」
「嘘よ!!!」
ナルトが「夢の中で」と付け加える前に、サクラは猛烈な勢いでそれを否定した。
「サ、サスケくん、誤解しないでね!ナルトとお風呂なんか入ったことないわよ!!」
「・・・・・」
「サクラってば積極的なんだね〜。うちにもお風呂入りにくる?」

 

 

サクラは慌ててサスケに対して弁明し、サスケは興味のない話題なのか黙々とおかかのおむすびを食べ続け、カカシはどさくさに紛れてサクラを誘っている。
爆弾発言をしたナルトは、ぬるくなった茶をすすりつつ、もう一度あの夢を見たいと空を見ながら考えていた。


あとがき??
タルト(ナルト&サクラの子)の目を通して、ちょっと未来の世界を垣間見たナルトでした。
タルトは、10歳以下のつもり。
女の子の場合、成人してからも父と風呂に入っているという人がいるそうですが、マジでしょうかね。
スレナルなことが多いですが、今回は純なナルトということで。


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