a little waltz


サクラが、小さな赤ん坊を抱いて立っていた。
にこにこと笑って、大事そうに赤ん坊の顔を見つめている。
その表情があんまり幸せそうだったから、ナルトも嬉しくなって微笑を浮かべた。

「その子は誰?」
「ナルトよ」
赤ん坊の顔を覗き込むナルトに、サクラは柔らかな声音で答える。
頬にヒゲのような痣がある、金髪の赤ん坊はサクラの腕の中ですやすやを寝息を立てていた。
サクラがそっと頬擦りをすると、赤ん坊の寝顔はより穏やかなものになる。
優しく微笑むサクラは、ナルトの瞳を間近に見据えて言った。
「本当はこうやって抱き締めてあげたかったの。ナルトがこれぐらい、小さなときから・・・・」

深い慈愛に満ちた眼差しを、ナルトは戸惑いながら受け止める。
日溜りに包まれているような、今まで触れたことのない、不思議な安堵感がそこにあった。
ふいに彼女に頬を撫でられて、ナルトは初めて自分が泣いていることに気づく。
「立派な火影になってね、ナルト」
膨らんだ蕾が花開いた瞬間のように、綺麗に綺麗に、サクラは笑った。

 

 

 

暁に攫われたナルトの体からは、封印されていた九尾の妖狐が奪われていた。
ナルト奪回のため、苦労して付きとめたアジトに乗り込んだメンバーには、一人の死者が出ている。
本来ならば、尾獣を奪われた人柱力は命が尽きると決まっていた。
我愛羅を生き返らせたチヨの術を見たサクラは、その後砂と連絡を取り、密かに禁じられた術についての書物を集めていたらしい。
いつかナルトの身に危険が迫ることを予測し、唯一といえる対応策を考えていた。
そしてサクラは確かにそれを成功させたのだ。

 

 

「午後には火葬されるんだぞ。会っておかなくて、いいのか?」
「・・・・・」
里を一望できる、火影岩の上に座っていたナルトは、背後に立つカカシの問いかけに無言の返事をする。
まだ、気持ちの整理が全く出来ていない。
自らの命と引き換えにして、ナルトを救ったサクラ。
目が覚めて、その事実を知るなりナルトの思考は一切停止してしまった。
彼女がもうこの世にいないなど、信じられない。
それが自分のせいなのだと思うと、怖くて、サクラに会うことなど出来なかった。

「サクラはあのときすでに致命傷を負っていて、治癒の能力を使っても、長くはなかった。だから、残った最後の力でお前の魂を呼び戻そうと決めたんだよ。別に、お前がサクラを殺したわけじゃないんだ」
「・・・・・でも、やっぱり俺のせいだよ。暁を追いかけたから、傷を負ったんだから」
ひざを抱えるナルトは、頑なにカカシの言葉を否定する。
アカデミーの頃から、ナルトにとってサクラは誰よりも、何よりも、大切な人で、一番守りたい存在だった。
辛い修行に耐えたのも、サクラと共にいたかったからだ。
火影になって里の皆に認めてもらうことを目指していたが、本当は、サクラにさえ認めてもらえば十分だった。
サクラが消えるのと同時に、生きることの意味を、ナルトは見失ってしまったのだ。

 

「カカシ先生、俺ってば、すげー冷たい人間なのかなぁ・・・・」
「何?」
「涙が、出ないんだ。サクラちゃんが死んだのに。俺のために死んだのに。どうして泣けないんだろう」
里の景色を眺めたまま、途方にくれたように呟くナルトに、カカシは思わず目を伏せる。
俯いたその表情は、悲しげにみえた。
「・・・・感情が、ある一定の部分を越えると、人は無表情になるんだよ」
同じ痛みを経験したことがあるから分かる。
泣けば気持ちが高ぶる分、その後は冷静に考えることが出来るようになるのだ。
だが、涙を流さなければいつまでたっても心が浄化されることなく、生涯辛い思いをすることになる。
強引にナルトの体を拘束してでも、サクラに会わせなければならない。
ぼんやりとしたナルトの横顔を見ながら、カカシの意思は固まっていた。

 

 

 

カカシに連れられたナルトがサクラの棺の前に立ったのは、すでに火葬場に着いた後だ。
あと、数分後には灰となってこの世から消え去る。
そうは思えないほど、サクラは生きていた頃と変わらない状態で棺に横たわっていた。
カカシに無理やり棺の前に立たされ、強張っていたナルトの表情は、小窓から覗いたサクラの顔を見るなり一変する。
全く、同じ顔だったのだ。

「カカシ先生・・・」
「ん?」
「サクラちゃん・・・・・笑ってる」
「そうだな」
サクラの顔を凝視したまま、驚きの声をあげるナルトにカカシは頷いた。
九尾の妖狐を奪われて死んでいたとき、ナルトはサクラと話す夢を見た。
最後の微笑そのままに、棺に収まるサクラは実に幸せそうな笑みを浮かべているのだ。
「サクラはナルトのことを本当に好きだったんだろうな・・・・」
彼の命を救えたことを、喜んでいるからこそ、サクラは微笑んでいる。
そこに後悔や、恨みなどは、微塵も感じられない。
あるのはただ、ナルトへの深い思いやりと、心からの愛情だけだった。

 

「俺、サクラちゃんの分も、何があっても、頑張って生き抜く。そして、火影になってみせるよ」
「ああ・・・・」
嗚咽を漏らすナルトの肩を、カカシは力強く抱いた。
袖口で涙を拭きながら見たサクラの顔は、より一層口元が緩んだような気がする。

『立派な火影になってね、ナルト』

ナルトの耳に、彼女の声が確かに聞こえた。
たとえ体が灰となって消えても、サクラはそばにいる。
自分を見守ってくれているのだと、ナルトは強く感じていた。


あとがき??
『チキタ☆
GUGU』でナルサクです。
ニッケルが好きで好きでたまらなくて、
NARUTOで表現してみました。
タイトルは
DREAMS COME TRUEのアルバム『MAGIC』に収録されている曲。
イメージ的にこれしか考えられなかった。名曲。
最近本編を読んでいると、サクラがナルトのお母さんに見えて仕方がないです。


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