君の好きな人
サクラが風邪で寝込んでいるという話を聞いたナルトは、その足で彼女の家に向かった。
その日の任務を終えたあと、時刻は9時を過ぎていたがこのままでは心配で家に帰れない。
一人暮らしをしているサクラの家は、丁度ナルトの自宅から目と鼻の先の場所にあった。「サクラちゃんー、俺だけど、生きてるーー?」
チャイムを鳴らしても応答がなく、ナルトは呼び掛けながら玄関の扉を叩いた。
あとは、ひたすら静寂が続く。
ため息を付いたナルトが諦めて帰ろうかと思った矢先に、扉はのろのろと開かれる。
「・・・・はい」
病人に余裕がないことは分かるが、扉の隙間から覗くサクラはナルトの想像をはるかにこえた姿だった。
「ご、ごめん。そんなひどい状況だとは思わなかったから」
「あんたじゃなきゃ、開けなかったわよ」
ごほごほと咳をしたサクラは、据わった目で答える。
鼻水用のティッシュを小脇に抱えるサクラは髪はぼさぼさ、肌は荒れ、顔は熱で赤く、パジャマ姿だ。
身だしなみを常に気にしている普段のサクラからは、考えられない。「あのさ、いろいろ買ってきたからまずお粥を作るね」
「・・・・いらない」
「駄目だよ、食べなきゃ早く治らない」
「・・・」
「あとね、イルカ先生から聞いて風邪によく効く薬を買ってきたから。それ飲んで寝ればもう大丈夫だよ」
口調はやんわりとしていたが、ナルトの言葉には不思議と逆らえない力が感じられた。「あんた、今日仕事あったんでしょ」
「うん、三日間徹夜でようやく今日終わったの。明日は朝からまた別の任務が入ってる」
何でもないことのように言うナルトに、サクラは目を見張る。
「早く家に帰って寝なさいよ」
「サクラちゃんが元気にならないと、寝られないんだ」
キッチンの床に素材の入った袋を置くと、ナルトは後ろについてきたサクラを振り返る。
「お粥、食べれる?」
「・・・・・うん」
「じゃあ、俺そろそろ帰るから」
風邪を患っている間散らかり放題だったサクラの部屋を整えたナルトは、冷えピタシートをおでこに貼って横になるサクラに声をかけた。
ナルトの作ったお粥をたいらげ、うとうととしかけていたサクラはハッと目を覚ます。
「あ、いいよ、そのままで。じゃあね」
半身を起こそうとしたサクラを制すると、ナルトは踵を返す。
そして、寝室から出る直前に、ふと、ある疑問がナルトの脳裏をかすめた。
「そういえば、サスケは見舞いに来たの?」彼女が大分前からサスケと付き合い始めたのをナルトは知っている。
だからこそ訊ねたのだが、サクラはなかなか返事をしない。
「・・・サクラちゃん?」
「彼とはとっくの昔に終わってるわよ」
ようやく返ってきたのは、涙混じりの声だった。
「サスケーー!!!」
振り返るなり、サスケは駆けてきたナルトに襟首を掴まれた。
「お前、何でサクラちゃんを泣かせたりするんだよ!!」
「ああ、俺の関係者だ。気にするな」
顔を真っ赤にして怒鳴るナルトを気にせず、サスケは目を丸くしている同僚に声をかける。
そして、目的地である部屋を指差して、彼を促した。
「先に行っていてくれ。俺もすぐ行くから」
「あ、ああ」後ろを振り返りつつ立ち去るサスケの同僚だけでなく、その廊下は任務報告のためにやってきた忍び達でごった返していた。
ナルトを伴ったサスケは、静かに会話の出来る屋上へと向かう。
興奮冷めやらぬナルトはその後ろ姿を睨んでいたが、サスケはその場所に着くまで何も言葉を発さなかった。
「それで、誰がサクラを泣かせたって」
「お前だよ!サクラちゃんはサスケのことが本当に本当に好きなのに、何で彼女をふったりしたんだよ!!」
「・・・・」
何故か泣きそうに顔を歪ませるナルトに対し、サスケはただ一言。
「馬鹿」
それはナルトの頭に血を上らせるのに十分な言葉だった。「な、な、何だって、この野郎!!!」
「ふられたのは、俺の方だ。俺よりも好きな男がいるって言われた」
「え!?」
意表を突かれたナルトは、目を大きく見開く。
「嘘!」
「本当だ」信じられない事実に、ナルトは愕然とした。
ナルトがアカデミーにいたときからずっと追いかけていたサクラ。
彼女も同様に、サスケを見つめ続けていた。
その彼女が、誰か他の男に心を移すなど、考えたこともない。
また、ナルトの知る限り、サクラの周りでそれらしき雰囲気を匂わせる存在はいなかった。「だ、誰だろう?」
おろおろと視線を彷徨わせるナルトに、サスケは冷たく言い放つ。
「足りない脳みそでよーく考えるんだな。ウスラトンカチ」
サスケに忠告されずとも、ナルトは考えた。
上の空で任務中に失敗したこともあったが、それでも考え続けた。
サクラの好きな男。
三日三晩考えて出た回答を、どうしてもサクラに会って確かめたかった。
そして、その機会は思いがけず早くに訪れる。
「ナルト」
商店街を歩いていたときに、声をかけられた。
住む場所が近いこともあり、こうした偶然はよくあったことだ。
だけれど、もし今までのことが偶然でなかったのならば、それは何を意味するのか。「この前はいろいろ面倒かけちゃって、ごめんね」
ナルトに追いつくと、サクラは弾む息で話し出す。
「お礼にラーメンおごってあげるから、一楽に行かない?」
ナルトは自分を見上げるサクラの顔を注意深く見つめる。
その表情の変化を、見逃さないように。「ごめん。俺、これからデートなんだ」
「え!!」
短く叫んだサクラは、思わずナルトの服を引っ張る。
ナルトの目に、サクラは今にも泣きそうな顔に映った。
「誰、誰と!!?」
「・・・・必死だね」
自分の服を握るサクラの手を取ると、ナルトはそのままサクラを抱き寄せる。
往来の人々は何事かと振り返って見ていたが、ナルトはサクラの背に手を添えたままだった。「ナ、ナルト、人が見てる」
「人が見てない場所なら、いいの?」
声を詰まらせたサクラに、ナルトは笑って言った。
「デートの話は、嘘だよ」
ナルトの家のすぐ近くに新居を借りたサクラ。
買い物中によく出くわすサクラ。
どんなときも玄関の扉を開けてくれるサクラ。
ナルトの持ち出したサスケの話題に涙したサクラ。
ナルトが他の女性に気があることを知って悲しげな顔になったサクラ。全ての疑問は、あることを認めれば説明がついた。
「サクラちゃん、俺のこと好きなの?」
手の力を緩め、ナルトがその顔を見るとサクラはひどく複雑な表情をしている。
「・・・ナルトがいけないのよ」
「俺?」
「いつだって優しいんだから。病気で人が吐いたものまで嫌な顔しないで片づけくれちゃって、そんなことされたら普通の女の子ならぐらりと来るのよ、ぐらりと。大好きだったサスケくんよりナルトのこと考えるようになっちゃうし、ナルトはそんなこと全然気づかないし、私だってどうしたらいいか分からないわ!」
逆ギレをしたサクラは、上目遣いにナルトを睨んでいる
大きな声を出したことでよけいに目立っていたが、吹っ切れたらしい。「・・・困った」
「何よ」
「サクラちゃんが俺のこと好きになってくれるなんて思わなかったから、これからどうするか全く考えてなかった。どうしよう」
困惑気味に言うナルトに、サクラは呆気にとられる。
取り敢えず、ナルトから体を離したサクラはその腕に自分の手を絡ませた。
「一楽に行ってから考えれば?先は長いんだから」
あとがき??
こんなんあったら嫌だなぁ、NARUTO未来話。(笑)
三日間考えないと分からなかったんだな、ナルト。可愛いぞ。
いのっちのドラマの最終回を見て書きたくなったっす。いのっち、いいなぁ。仲村トオルもいいなぁ。