クリスマスの国


幼い頃、サンタクロースは自分の父親なのだと漠然と思っていた。

いつかトナカイの引くソリに乗せてくれて、クリスマスの国へと連れて行ってくれる。
そこには、何の偏見も寂しさもない。
自分を愛してくれる人達がいて、しっかりと体を抱きしめてくれる。
夢のような国。

口に出して言わなかったから、そのことを自分の他に知っている人間はいない。
否定する者がいないおかげで、長いこと信じていられたのだろう。
クリスマスになると早起きをして公園を訪れ、ベンチに座って何時間も空を見上げる。
ソリに付いた鈴の音を聞き逃さないように、彼の姿にすぐ気づけるように。
必死に耳を澄まし、目を凝らす。
でも、当然なことに、どんなに待ってもサンタクロースは自分の前に現れてはくれなかった。

 

クリスマスの国がどこにも存在せず、誰も迎えには来ないのだと分かったとき。
黙って隣りに座っていてくれた女の子に、僕は何の躊躇いもなく恋をしていた。

 

 

 

「何よ?」
突然笑い出したナルトに、サクラは怪訝な表情になる。
「うーん。クリスマスの国っていうのは、今思っても楽しそうだなぁって」
「・・・何、それ」
「何でもないよ」
ナルトがベンチから立ち上がると、手を繋いでいたサクラも同じように腰を上げる。
長い時間この場所にいたせいで、二人の体は冷え切っていた。
クリスマスという特別な日、薄暗くなった公園に他の人影はない。

「ナルト、小さい時からこのベンチ好きだったわよね」
「うん。一人は嫌だったから、公園なら誰かしらいると思って。俺に話しかけてくれる人、っていうか、近づく人もいなかったけど」
傍らを見たナルトは、少しだけ笑った。
「サクラちゃんだけだったね。いつも隣りに座ってくれたのは」
出口に向かって歩き出したナルトを、サクラは小走りで追う。
繋いでいる手の力はひどく緩やかで、サクラが必死に掴まっていないとすぐに外れてしまいそうだ。
「寒かったでしょ。俺なんかに付き合わないで、先に帰っても良かったのに」
「・・・・うん」

 

 

往来に出ると、街のそこかしこに幸せな空気が流れていた。
軽やかなメロディーがかかり、煌びやかなイルミネーションがクリスマスを彩っている。
行き交う人々の顔も、皆笑顔だ。
大きなケーキの箱を持ち、家族の待つ家に急ぐ会社帰りの父親達を見つめてサクラは何となしに微笑する。
「帰ったら、私達もケーキ切ろうね」
手を引っ張って言うサクラに、ナルトも笑顔で応える。
目的地であるナルトの家は、もう目と鼻の先だった。

 

「おそいー」
扉を開けるなり、シャンパンのグラスを手に持ったいのが飛び出してくる。
ろれつの回らない口調から、彼女がすっかり出来上がっているのだと分かった。
「追加の食べ物頼んだだけなのに、どこまで買いに行ったのよーー」
「ちょっと公園を散歩してたのよ。夕焼けが綺麗だったから」
「ふーん・・・・」
「ナルトーー!!」
いのを押しのけて出てきたのは、同じく酒で頬を真っ赤にしたイルカだ。
思わず後退りしたナルトをぎゅうっと抱きしめ、イルカは大声をあげる。
「心配してたんだぞー。早くあっちで暖まれ、なっ!!」
「わ、分かったってば」

靴を脱いでリビングへとやってくると、用意してあった料理はほとんどチョウジに平らげられていた。
辛うじてケーキの箱が無事だったのは、しらふであるアスマやシカマル、ヒナタに番を頼んであったからだ。
紅と何やら話し込んでいたカカシは、ナルトに気づくと不満げに口を尖らせる。
「ナルト、お前、抜け駆けしてサクラに手を出すなよー」
「ちょ、ちょっと、変なこと言わないでよ!」
顔を赤くしたサクラの隣りには、彼女の持つ買い物袋にキバと赤丸、シノが集まっている。
多めに補充の食べ物を購入してきたつもりだが、チョウジの食べっぷりを見るともう一度行かないと駄目のようだ。
賑やかなパーティー会場を見回しつつ、ナルトは嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「クリスマスの国だ」


あとがき??
『ジュリエットの卵』そのままです。
私、あの場面を見て、初めて蛍が水を愛したことに納得できたのです。
最後のナルトの台詞は、『青い鳥』というか。幸せは近くにあったんだなぁと。
さり気なくカカサクってるのが、私らしい・・・。あ、サスケ忘れた。会場内のどこかにいます。
私のキャラクターへの愛の偏りが一目瞭然の話なような。


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