キッズ・リターン


「今回のテストはみんな出来が悪かった。平均点が50点だぞ。予習復習をちゃんとしろよ」
イルカは穏和なタイプの教師だが、必要なときにはきっちりと生徒をしかりつけた。
俯きかげんの生徒達に答案用紙が返される中、ただ一人、イルカが優しい笑顔を向けた相手がいた。
「春野サクラ、お前はいつも通り満点だ」
にこにこ顔のイルカはサクラの頭を撫でながら声高に言う。
「みんなもサクラを見習え」

 

成績優秀、素行も良いサクラは教師全般に好かれていた。
サクラをひいき目に扱う教師も多い。
だが、特別扱いをされるということは、その分生徒の中で浮いた存在になるということだ。
大きな後ろ盾を失ったばかりのサクラに、クラスメート達は容赦をしなかった。

 

 

 

「・・・やっぱりね」
下校時間、下駄箱の中の自分の靴を見たサクラは、大きなため息を付く。
「ガリ勉」や「点取り虫」等の子供じみた悪口がサクラの靴に黒のマジックインキで書かれていた。
ただ一人、好成績だったサクラを面白く思わない者達の仕業だろう。

「群れないと何も出来ない意気地なしのくせに。一対一の喧嘩なら相手になるわよ」
サクラは周りで様子を窺っているであろう少女達に言う。
だが、しんとした廊下から誰かが出てくることはなかった。
奥歯を噛みしめたサクラは落書きをされた靴を鞄に入れ、戸口の前で振り返る。
「くやしかったら私より良い点数取ってみなさいよ。ばーか!!」
捨て台詞と共に駆け出したサクラは、一目散に校門から飛び出していった。

 

「昨日、買ってもらったばかりだったのに・・・」
上履きのまま歩くサクラは、どうしたものかと思案し始める。
このまま帰り、靴が発見されれば両親は過剰な心配をするだろう。
アカデミーの教師に連絡を入れるかもしれない。
そうなれば、告げ口をした罰としてサクラへの嫌がらせがさらにひどくなるのは目に見えている。
「机の引き出しから無くなったノートは今月で10冊目だし、これ以上は勘弁してもらいたいわよね」

悩みながら、サクラは自然と家の近くの公園へと足を向けていた。
つい先月まで、親友だった少女と通った公園だ。
だが、今サクラの傍らに彼女の姿はない。
クラスのリーダー格である彼女との関係を修復すれば、いじめがなくなることは分かっている。
だけれど、それが叶わないこともサクラは十分に理解していることだった。

 

公園の入口で首を巡らせたサクラは、すぐに目的である人物を発見する。
広場の離れにあるベンチにぽつんと座る少年。
彼はいつだって一人だ。
「ナルト」
彼に近寄ったサクラは、腰に手を当て威圧的に彼を見下ろす。
「あんたの家、どこ?」

 

 

 

両親がいない。
友達がいない。
ないないづくしのナルトの家は、サクラにとって格好の隠れ家だった。

泥を丹念に払い落としたあと、サクラはタワシを使い、靴をごしごしと擦る。
自分の家の風呂場を使用して靴を磨くサクラを、ナルトは黙って見つめている。
その靴を見れば、サクラがどういう状況なのかは一目瞭然だ。

 

「別にいいんだけどさ。サクラちゃん、俺に何か言うことないの?」
「・・・・・お風呂場使うわよ」
「遅いって」
ふてくされたように呟くサクラに、ナルトは思わず苦笑する。
風呂釜の縁に座るナルトは、大分薄くなった落書きを眺めつつ少しだけ真顔になった。

「何で山中いののグループから離れたのさ。あそこにいれば、安全だったのに」
「だからよ。守られているだけじゃ、強いくの一にはなれないもの。周りから叩かれて、泣くことしか出来ない自分は嫌なの」
「ふーん」
サクラの手元を見たままナルトは腕組みをする。
「でも、辛いでしょ」
「平気、いじめられるのなんて慣れてるもの・・・・。昔はいっつもだったわ」
ナルトに応える最中にも、水桶に浸る靴には彼女の瞳からこぼれた水滴が落ちていった。
それを誤魔化すように、サクラはタワシを持つ手に一層力を込める。

「いじめられてさ、慣れるなんてことなんてことないよね」
「・・・・」
唇を噛んだサクラの頭を、ナルトはぽんぽんと叩く。
「誰にも言わないから」
すでに顔を上げられなくなっているサクラに、ナルトは優しい眼差しを向けて言った。

 

 

 

サクラを手伝い、靴の片割れを綺麗にしたナルトは、帰っていく彼女を笑顔で見送る。

「またいつでも来てね」
「もう来ないわよ」
泣き顔を見られた恥ずかしさから、頬を赤くしたサクラは憎まれ口を叩いた。
それでも、ナルトは笑っているだけだ。
「サクラちゃんはいい人だから、すぐに新しい友達が出来ると思うよ。俺さ、何にも出来ないけど応援してるから。頑張ってね」

暫く歩いてから後方を見ると、随分と小さくなったナルトがまだサクラに手を振っている。
それだけで、サクラの瞳はまた潤みそうになった。
アカデミーで感じていた孤独は、嘘のように消え去っている。

「・・・・その言葉、そのままあんたに返すわよ」


あとがき??
このまま別人ナルトで突っ走ろうと思います。
私の目にはナルトはこういう風に映ってるんです。
我が儘で素直じゃないサクラちゃんと、それを許容できるナルト。
辛い思いをしてきたからこそ、その分ナルトは人に優しくできる子です。理想v
味方が一人でもいてくれれば、随分と精神的に違うだろうと思いました。

内容的には、一巻でサスケに近づいたサクラちゃんが他女子に睨まれていたのが気になったので。
そういうの気にしないで、自分の我を通す子なのかと思いました。周りに流されないというのは、結構凄い。
あのあたりのサクラちゃんは、本誌を立ち読みしていた時点であまり好きじゃなかったんですけど。(笑)
だって、サスケとナルトでは対応の違いがあまりに・・・。
今読むと、どのサクラちゃんもみんな可愛く見えるから、不思議。(ナルト視点?)


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