やさしさは降る雨のように


家は伯母が小さな子供を連れて遊びに来ていて、居場所がなかった。
図書館はアカデミーがテスト期間中のために、閲覧室が満員。
しょうがなく、公園で時間を潰すサクラはベンチに座り本を読んでいる。
だが、それも長く続きそうになかった。
穏やかな気候と木陰を通る涼しい風に眠気を誘われるサクラは、目を擦りながら必死に紙面の文字を追っている。
彼女が公園を通りかかったナルトを見付けたのは、サクラの瞼がくっつく寸前のことだった。

 

「ナルト、いいところに来たわ」
手招きをするサクラに気づいたナルトは駆け足でやってくる。
「何?」
「ここ、座って。ここ」
サクラの言う通り、ナルトが隣りに腰掛けると彼女はその膝を枕に横になった。
細いナルトだが、硬いベンチよりは幾分マシだ。

「・・・・あの、サクラちゃん」
「じっとしててね」
「・・・・サクラちゃんがそうしてると動けないけど」
「女の子が一人で居眠りしてたら物騒でしょう」
「・・・・うん」
だからといって自分がこの場所に留まらなければならない意味はないと思ったナルトだったが、彼がサクラに逆らえるはずもなかった。

 

 

 

すぐに寝息を立て始めたサクラを、ナルトは困ったように見つめる。
今は天気だが、午後の降水確率は50%を超えていた。
ナルトは晴れているうちに買い物をすませようと、急いでスーパーマーケットに向かっている最中だったのだ。
自分の事情をまるで聞かずに拘束するサクラは、我が儘としか言いようがない。
だが、彼女がこうも無防備に眠っているのは信用されている証拠であり、ナルトとしても複雑な心境だった。

「顔は可愛いんだけどね・・・」
サクラを起こさないよう、上着を脱いだナルトはそれをサクラにかける。
普段、馬鹿だアホだと散々なことを言われていても、サクラはやっぱり可愛い。
彼女のためなら何でもしたくなる自分は、やっぱり馬鹿だろうかとナルトは思った。

 

 

サクラが目を開けたのは、額に落ちた雫が原因だ。

「あ、ごめん。冷たかった?」
「んー・・・」
まだ眠たげな様子で身を起こしたサクラは、独特の湿った空気に眉を寄せる。
雨が降っていた。
彼女が濡れていないのは、ナルトが持っている傘のおかげだ。
しかし、布地の大部分はサクラの方にあるために、ナルトは傘をさしている意味が全くない。

「何で起こさなかったのよ」
「降ってるかどうか分からないくらいの小雨だったから。さすがに土砂降りだったらこんなにのんびりしていないよ」
「・・・・」
自分の体にかかっていた上着に気づいたサクラは、それをナルトへと返す。
時計を見ると、思った以上に時間が経っていた。
傍らへと首を傾けたサクラは、ナルトの顔をまじまじと見つめる。

サスケならば、サクラを怒鳴って起こす。
カカシは、少しは甘えさせてくれるが、雨が降ってきた時点でやはり起こす。
ナルトくらいだ。
馬鹿のようにサクラの言い付けを守り、彼女が起きるのをじっとしているのは。

 

 

「・・・・何?」
無言のまま自分を見るサクラに、ナルトは不思議そうに訊ねる。
「あんたのそういうところ、好きだなーって思って」
「へ??」
立ち上がったサクラは、ナルトの両手を強引に引っ張った。
「どこか行く途中だったんでしょ」
「えーと、夕食と明日の朝食を買いに」
「じゃあ行こう」

サクラに引きずられるように歩き出したナルトだったが、サクラに膝枕をしていたために、足が痺れている。
痛みを堪えた顔でついてくるナルトに、サクラは意地の悪い笑みを浮かべた。
彼女は腕を組んでナルトを支えながら、ナルトの傘をしっかりと持っている。
その傘が主にサクラではなく自分の頭上にあることに、必死に両足を動かすナルトは気づいていなかった。


あとがき??
やさしいナルチョが好きなんです。我が儘サクラと穏和なナルト。
サクラのためなら、どこまでも優しくなれるナルトでした。
そんなナルトに愛されてるサクラは無敵な女の子なのだ。
日記用だったのに、妙に長くなってしまったよ。タイトルは笠原弘子の歌でした。


駄文に戻る