根腐れ病


同じ部署に配属された年上の中忍に、交際を申し込まれた。

「お気持ちは嬉しいんですけど・・・・」
告白されなれているサクラは、その申し出をいつも通り丁重に断る。
黒髪の青年はサクラの初恋の人であるサスケに似ていないこともなく、なかなか好みのタイプだ。
性格もすこぶる良い。
だけれど、彼と親しく付き合う気はサクラに全くなかった。

 

 

 

「経理の山田くんでしょー、知ってる知ってる。うちの部署の女の子達も騒いでたもん。いい男が来たって」
もぐもぐと口を動かしながら、ナルトはサクラの話に相槌を打つ。
昼食を職場の食堂ですますナルトは、休み時間になると必ずここにいた。
そしてサクラは、ナルトのいる時間に会わせて弁当を持参でやってくる。
班を解散してからは、互いに多忙な日々を送る二人が顔を合わせるのはこの場所くらいだった。

「何で?」
「え」
「何で断っちゃったの。せっかく好きだって言われたのに。顔は格好良いんでしょ」
「・・・うん」
空になったカツ丼のどんぶりをトレーに置くと、ナルトは神妙な表情でサクラと顔を付き合わせる。
「出世頭だって聞くしさ、経理なら命に関わる任務なんて滅多に入らないだろ。旦那にするなら最適だと思うよ。今からでもいいから、考え直したら」
「・・・・・」
諭すように話し続けるナルトに、サクラは唇を噛みしめた。

「ナルトは、いいんだ」
「ん?」
「私が山田さんと結婚を前提のお付き合いをしても」
「うん、式には呼んでよね。披露宴にはラーメンもメニューに加えてもらえると嬉しい・・・・」
話の途中、ナルトは頬を思い切りはたかれた。
周囲が一瞬のうちに静まりかる中、食堂にはサクラの怒声が響き渡る。
「ナルトの馬鹿!!大嫌い!」

 

 

 

 

いのの花屋にはそれなりに客が入っている。
その稼ぎ時に、死人のように青い顔で椅子に腰掛けるナルトは非常に邪魔な存在だった。
周りに置いてある花も、色褪せて見えるというものだ。
「話は大体サクラに聞いてるけどさー、こんなところで落ち込まないでよ」
いのは客の目を気にしながらこそこそと話しかけたが、ナルトはまるで反応しない。
サクラもひどかったが、ナルトも相当気落ちしているようだ。

「あの・・・」
「あ、会計こちらですから。これは置物なので気にしないように」
「はぁ」
小さな花の鉢を一つ持つ客は、いのに案内されながらもナルトをじろじろと無遠慮に見つめている。
ナルトの方はそうしたことを気にする余裕すらなかった。

 

 

「ナルト、あんたサクラのこと好きなんじゃなかったの」
「・・・好きだよ、もちろん」
客足が途切れた隙を見て問いつめるいのに、ナルトは即答する。
言うまでもないことだ。
アカデミーにいたころから追いかけていて、気持ちは全く変わっていない。
サクラがサクラでいるかぎり、一生彼女を想い続ける自信もあった。

「じゃあ、何で他の人との仲を応援するようなこと言うのよ」
「・・・・・好きだから」
親にしかられた子供のように肩を落とすナルトは、ぽつりともらす。
「俺、サクラちゃんには一杯一杯元気をもらったから、だから絶対に幸せになってもらいたいんだ」

 

昔は何の気兼ねもなくサクラを好きだと言えた。
だけれど、年を重ねるごとに、素直な気持ちは口に出せなくなった。
中忍試験に受かっても、どんなに任務をこなしても、変わることのない偏見の目。
自分と一緒にいる人間も、同じように悪く言われるのではないかと不安になる。

どんな人間でも、自分よりはサクラを幸せに出来るとナルトは思っていた。
確かに、サクラが他の男と一緒にいれば嫉妬を感じる。
我慢をすることは、幼い頃から慣れっこになっているナルトだった。

 

 

「相手を思いやる気持ちっていうのは、大切だと思うわよ。でも、あんたのそれはちょっと間違ってるかもね」
ため息を付くいのは、テーブルに乗っている鉢植えへと目を向ける。
「花には水が必要だし、大事にすれば綺麗に咲いてくれる。それを見ていれば、世話をしている方だって嬉しい。でも、加減があるのよ」
「・・・うん」
「水をあげすぎれば、根腐れをして枯れてしまう。過剰な愛情は花のためにもならないの」
言いながら、いのはナルトの頭をぽんと叩く。
「あんたは、サクラのことを考えすぎてサクラを不幸にしてるわ。あの子の気持ちは前から分かってるんでしょ」
「・・・」

ずっと追いかける立場だったサクラ。
その彼女が、振り向くといつも後ろにいる存在になっていた。
ショックだったのは、「大嫌い」の言葉よりも、涙に濡れた瞳で自分を見るサクラの眼差しだ。
食堂で怒鳴ったときのサクラは、今までで一番悲しそうだった。

 

「・・・どうすればいいの?」
「はい、これ」
いのは用意してあった花束をナルトに差し出す。
「サクラ、今家にいるわよ。電話で確認したから。あとは正直に自分の気持ちを言いなさい」
あまりの手際の良さに驚くナルトを、いのは早々に花屋から追い出した。
これ以上商売の邪魔をされたら、たまらないというように。
花屋の出入り口で仁王立ちするいのは、彼が戻ってこないよう見張っているようだ。
何度も後ろを振り返りつつ歩くナルトは、数メートルも行かないで立ち止まる。

「あのさー」
「何よ」
「俺、女の子ではサクラちゃんの次にいのが好きだよ」
「・・・・」
思いがけない言葉に意表をつかれたいのだが、ナルトはしごく真面目な表情だ。
「・・・嬉しくないわね、二番目なんて」
視線を逸らしながら、つまらなそうに答えるいのにナルトは苦笑を漏らす。
そして、ようやくいつもの明るい調子で声を出した。
「有難う、いろいろ」

腕組みをしてナルトの後ろ姿を見送ったいのは、花を眺めつつ立ち止まった客を見て店に戻っていく。
その顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
「本当に、世話の焼ける奴ら・・・・」


あとがき??
サクラの性格はいの譲りなので、ナルトはいののことも好きなはずですよ。
あとは、顔の好みの問題なのね。
山田さん、ごめん。名前も適当すぎるって。
同じような話をもう一個書きます。サクナル+いの。


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