ナルトの欲しいもの


「これはまた、ひどくやられたもんじゃの・・・」

憂い顔の三代目火影は、傷だらけの少年を自室へと招き入れる。
ナルトが火影の元へやってきたのは、たまたま帰る道筋に彼の家があったからだ。
殴られたことで頬は腫れ上がり、手足からは血が流れている。
満身創痍の状態で足を引きずって歩くよりも、包帯だらけで帰った方がまだマシな気がした。

 

 

「誰にやられたんだ」
「言わなーーい。告げ口したって、よけいに評判悪くなるもん」
火影用の椅子に堂々と腰掛けるナルトは、自分の腕に傷薬を塗る彼を見つめてくすりと笑う。
「これ以上、悪くなるはずがないかな」
「・・・・」
「でもね、この間じっちゃんが里の人達に注意をしてからいじめられることも少なくなったよ。よけいに俺を避けるようになったって言った方が良いかもしれないけど」

この日、ナルトは通りすがりに体がぶつかったという理由だけで暴行を受けた。
人の通りの激しい場所だったが、止める者は誰もいない。
係わりたくなかったのだろう。
ただ虫の居所が悪いと言われて知らない人間に蹴られることは、ままあることだ。
それでも命を奪われるほどの致命傷を受けないのは火影の命令があるからだが、ナルトにはそれが疎ましくてならない。

 

「まだ、生きていないと駄目?」
上目遣いに訊ねると、火影は困ったように顔を歪ませる。
「・・・・何でも用意する。着る物も食べる物も住む場所も。不自由はさせない」
「俺が欲しいのは、そういうものじゃないんだけどね」
抑揚のない声で言うと、ナルトは火影の手を振り払う。
治療はまだ途中だったが、そんなことは構わなかった。

「ナルト」
「ここに来ないと忘れそうになるんだ。自分の名前」
戸口へと向かうナルトは、火影の呼び掛けにも振り返らない。
化け物、疫病神、厄介者。
様々な名で呼ばれるが、「ナルト」と口にするのは火影だけだ。
それが一番似つかわしくない呼び名だと思うのは、嫌われることに慣れてしまったからだろうか。

 

 

 

 

「ナルトー!!」
振り向くなり、ナルトはサクラに頬を思い切り殴られた。
「な、な、何・・・」
「逆よ逆!!何やってるのよ、怪我するわよ」
「え、あ、そうか」
サクラに指摘され、ナルトは初めて指を組み方を間違ったことに気づく。
火遁の術をアレンジしたそれは、初めて使う印の形だ。
傍らにいるサスケはナルト達を気にせず、カカシに教えられた水遁の術を黙々と練習している。

「大丈夫。失敗してもそれほど火の勢いは強くないし、たいした火傷はしないよ。それに俺、傷とかすぐ治っちゃうからさー」
「馬鹿!」
明るく笑い飛ばすナルトの頭を、サクラは再び殴りつける。
今度は少々力を強くしたのか、ナルトはその場所を手で押さえて地面に転がっていた。
「私は見たくないのよ!あんたが怪我するところなんて」

 

 

「カカシ先生・・・」
「んー」
休憩時間になり、愛読書を読むカカシに歩み寄ったサクラは、不安げに彼を見上げる。
「ナルトって、ちょっと変なのかな」
「何が」
「私はナルトを叱ってるのよ。それなのに、時々凄く嬉しそうに笑うの。もしかしてマゾなのかしら」
心配そうに眉を寄せるサクラを見て、カカシはたまらず吹き出した。
「・・・何よ」
「いや、ごめんごめん。ナルトはね、サクラが心配してくれるのが嬉しいんだ。どうでもいい人間だったら、叱ったりしないからね」
「当然じゃない。ナルトが怪我をしたら嫌だもの」
「うん。そうだよね」

カカシはサクラの頭を優しく撫でる。
サクラが「当然」と公言するその愛情をナルトがどれほど欲していたか、彼女は一生気づかないのかもしれない。


あとがき??
このまま成長して力関係が逆転したとしても、ナルトは素直にサクラに殴られていて欲しいなぁ・・・・。


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