こんなところに

 

 

「・・・・ベタな」
シーツを洗い、布団を干そうとしたサクラは、それを見るなり思わず呟いていた。
ベッドの下に置かれていた、エッチな雑誌。
隠し場所としては定番だ。
ナルトもこうしたものを読む年になったかと、母親のような感慨にひたるサクラだったが、けして愉快な気持ちではない。
自分のようないい女と付き合っていながら、こうした雑誌を眺めて楽しむなどもってのほかだった。

「買い物から帰ってきたら、とっちめてやらなきゃ!」
憤慨するサクラは、手元の雑誌を睨みながら握り拳を作る。
しかし、表紙を飾る美女は、水着がはちきれんばかりの胸の大きさだ。
いや、わざと布地の少ない小さめの水着を着ているのだろうが、それにしても凄い。
「・・・・ナルトもこういうのがいいのかな」
思えば、ナルトが美少女に変化したときはいずれも巨乳だった。
見るともなしに雑誌のページを捲っていたサクラは、いつの間にか背後にあった気配にハッとなる。

 

「・・・・サクラちゃん」
「えっ、ち、違うわよ。巨乳に興味があったわけじゃあ・・・」
目を見開いて自分を見ているナルトに、サクラは何故かどもりながら弁解した。
だが、本来なら慌てるのはこんな雑誌を隠していたナルトの方だ。
「そ、そうよ、ナルト。こんな頭の悪くなるような雑誌、買うんじゃないわよ!!」
「俺のじゃないよ。忘れ物」
白々しい嘘を言うと思ったが、ナルトは真っ直ぐにサクラの視線を受け止めている。
そして、ナルトがサクラに対して嘘を付いたことは今までなかった。

「忘れ物って・・・・誰の」
「サスケ。この前、泊まりに来たとき置いていったの」
あっさりとしたナルトの返答にショックを受けたサクラは、その場に座り込んでいた。
「サスケくん、大きいおっぱい好きなんだ・・・」
もしや、自分がふられた理由はそれだったのか。
脱力するサクラを、ナルトは必死に慰めようとしている。
「俺はぺったんこのも好きだよ!!きっと、そのうち平らな胸ブームがくるって。やっぱり胸はメロンパン、いや、マドレーヌくらいの大きさじゃないと」
追い打ちをかけられ、あらゆる意味で落ち込むサクラには、ナルトを殴り倒す気力すら残っていなかった。

 

 

あとがき??
仲良しサスナルは良いですよねぇ〜vv(あくまで友情)
こんなSS書いてますが、サスケはむっつりスケベーとはいえ、そうした雑誌は読みそうにない。
ナルチョも達観しているので、微妙。
好きそうなのはキバくんかなぁ。
ビバ、マドレーヌ乳!!

 

 

 

 

電話の音

 

 

「今夜、泊めてくれるー?」
その夜やってきたサクラは、扉を開けて出てきたナルトに全く気軽な様子で言った。
残業のため家に戻るのが0時過ぎになったサクラだが、鍵を持ってくるのを忘れてしまったそうだ。
両親はすでに就寝しており、電話を掛けてもでてこない。
よって、一番近くにあるナルトの家の扉を叩いたとのことだ。

「いーけど、見返りがないとねー」
ナルトはサクラの体を上から下まで眺め、意味ありげに告げてみる。
殴られて言うことを聞かされるのはいつものこと。
駄目もとの提案だった。
「いいわよ。一回くらいなら」
予想に反し、にっこりと笑顔を返されたナルトは驚きに目を見開く。
「・・・・・嘘」
「本当」

 

 

何しろ、10年もの間、手の届かない憧れの人だったのだ。
気持ちが高揚して動きがぎこちなくなってしまうのも無理はない。
「ちょっと、痛いってば!」
「ご、ごめん・・・」
抗議するサクラの体を、今度は優しく抱きしめる。
何とも言えぬ良い香りがして、天にも昇るような気持ちだった。

「・・・・ナルト、電話鳴ってる」
「そのうち止まるよ」
ベルの音を気にせずキスをしようとすると、思い切り睨まれてしまう。
「大事な任務かもしれないわよ。出なさいよ」
サクラに凄まれてしまえば、ナルトに拒むことは出来ない。
渋々電話に出ると、それは急な仕事の依頼についてだった。
顔をしかめながら内容を聞くナルトは、ベッドに腰掛けたサクラが眠そうに欠伸をしている姿を視界に入れる。
あと少しでサクラを手に入れることが出来たというのに、蛇の生殺しとはこのことだ。

「サクラちゃん、絶対に起きて待っていてね!!すぐ終わらせてくるから!」
「はいはい。気を付けてねーーv」
身支度を整えて出発するナルトに、ベッドに潜り込んだサクラは手を振って応える。
とても目に嬉しい光景だというのに涙が出そうだった。

 

 

困難な任務であればあるほどやる気を見せるナルトだったが、その夜は何とも形容しがたい迫力があったという。
通常ならば8時間以上かかる仕事を半分の時間で終わらせ、猛ダッシュで帰っていった。
その間、誰も彼に声をかけられなかったという話だ。

「サクラちゃん!!!」
徹夜明けのため、目を充血させたナルトが家に駆け込むと、そこにはすでに人の気配はなかった。
そして、テーブルにはナルトのための朝食と書き置きが残っている。
『お疲れさまです!そろそろ母が起きる時間だから帰るね。おむすびと卵焼きを作っておきました。おみそ汁はお鍋にあります。サクラ』
「ああ・・・・」
清々しい朝日が窓から差し込む中、がっくりと膝を突くナルトはメモ帳を握りしめてむせび泣く。
サクラとの甘い夜は夢と消えた。
急いで仕事を終わらせた苦労も水の泡だ。

 

「もう、死ぬ」
疲労と絶望のため、足をふらつかせるナルトは何とかベッドまでたどり着いて倒れ込む。
昨夜少しだけ嗅いだ、甘い香りがした。
「サクラちゃんの匂いー・・・・」
とたんに頬を緩ませたナルトは、もぞもぞと布団の中に入っていく。
サクラと眠れなかったのは残念だが、残り香だけでも十分に幸せになってしまった。
とにかく、疲れていたのだ。
30秒もしないうちに熟睡したナルトは、電話が鳴っても出る気力は残っていない。

「あれー、おかしいわね。もう帰ったって聞いたのに」
携帯電話を片手に歩くサクラは、仕方なく通話を切る。
毎日火影の執務室に立ち寄るサクラは、その夜ナルトが呼び出されることを事前に知っていた。
だからこそナルトの提案にのったのだが、今思うと少々可哀相だったかとも思う。
「今度、本当に泊まりに行ってあげようかなぁ・・・・」
昇ったばかりの朝日に目を細め、サクラは小さく漏らす。
ナルトが聞けば小躍りしそうな台詞だったが、夢の中のナルトには届くはずもなかった。

 

 

あとがき??
たぶん、十代後半くらいの二人。
ナルトの仕事って、何だったんでしょうね。ひよこの性別を見分けて仕分ける作業とか??(笑)
小悪魔サクラちゃんに乾杯、いや、完敗v

 

 

 

 

鍵、掛けたっけ?

 

 

「あっ、おかえしなさいー」
「・・・・」
買い置きしておいたラーメンを食べ、自分に向かって手を振るサクラをナルトは唖然と見つめた。
彼女の髪は濡れており、おそらくナルトの帰宅前にシャワーを浴びたか風呂に入ったかしたのだろう。
家の窓から明かりが漏れているのは、確認していた。
だが、ナルトの家に金目の物はないのだから、泥棒が入るはずがない。
てっきり家を出るときに電気を消し忘れたと思ったのだが、この展開は想定外だ。

「ナルトのも作ってあげるわよ。味噌、醤油?」
「・・・味噌」
「早く着替えてきたら」
「・・・うん」
不法侵入をしたサクラには全く悪びれたところがなく、ペースに乗せられたナルトはすごすごと洗面台へと向かう。
いつも通りのサクラなのに、微妙に違うような気がしたが、それが何なのかは分からなかった。

 

「たまに食べると、美味しいわよね」
ラーメンを食べ終えたサクラは空の器を見つめながら小さく頷く。
「でも、こんなのばっかり食べていたら体に悪いわよ。冷蔵庫は腐った牛乳しか入ってないし、私が明日食材買っておくからね」
「・・・うん」
サクラの向かいの席でずるずるとラーメンをすすりながら、明日も来るんだなぁと思った。
「それと、鍵はきちんと掛けてから出かけなさいよ。近頃、空き巣被害が多いんだから」

 

 

サクラは明日早い時間に任務が入っているらしく、早々に荷物をまとめて帰ろうとする。
だから、ナルトは別れ際に彼女に向かってそれを差し出した。
「あげる」
サクラの掌に乗ったのは、小さな鍵。
ナルトの家の合い鍵だ。
戸締まりをきちんとすれば、今日のようにサクラは家に入れない。

「もう一つ、頂戴」
「えっ、何で?」
「だって、鍵って家族の分だけ必要じゃない」
鍵を受け取ったサクラは、首を傾げるナルトの顔を真っ直ぐに見据える。
「子供が出来たの」
「・・・は?」
「ここに住むとしたらどんな感じかと思って見に来たけど、もう少し広いところ借りた方がいいかもしれないわね」

 

サクラは今後の生活を考えるように、周囲にある家具を見渡す。
あまりに簡単に大事なことを言うから、頭がなかなかついていかない。
混乱するナルトは、目の前にいるサクラの肩をとっさに掴んでいた。
「本当!?」
「本当」
「嬉しい!」
万歳三唱をしたい気持ちだったが、大事な体を抱き寄せてしまったら両手を上げられなくなる。
強く抱きしめてくるナルトの背中を軽く叩き、サクラは柔らかな微笑みを浮かべていた。
「これからもよろしくね、パパ」

 

 

あとがき??
サクラの押し掛け女房話です。
7班は大人になると別行動している話が多いですね。
この話のナルトとサクラは、結婚はしていないけれど付き合っているような、そうでないような。
子供が出来たら、ナルトは凄く喜んでくれそうだなぁと思いました。

 

 

 

 

空の色

 

 

「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは・・・」

ベッドの上で絵本を読むサクラの傍らには、瞳をきらきらと輝かせるナルトがいる。
絵本はサクラが家から持ってきたもので、昔、サクラを寝かしつける際に母が読んで聞かせた物語だ。
可愛い挿絵のついた絵本の収集はサクラの趣味なのだが、驚いたことに、ナルトは御伽噺をほとんど知らない。
幼い時分、ナルトには語って聞かせる大人がそばにいなかったから、当然だろうか。
ためしに一度読んでみたところ、ナルトはいたく気に入った様子で、それからは日課となってしまった。

 

「ううっ・・・お姫様、かわいそうだってばよ」
絵本が二冊目になると、すっかり感情移入したナルトは子供のように涙を流している。
可愛いなぁと思って頭を撫でると、「ん?」と顔をあげたナルトと目が合った。
空の色をした瞳は他のなによりも純真で、子供がそのまま大人になってしまったかのようだ。
「はい、この本はこれでおしまい」
「え、続きは!?お姫様はどうなったのさ」
「王子様が記憶を取り戻して、お姫様と結婚するのよ。それで、めでたし、めでたし」
「そうなんだーー、よかったー!!」

嬉しそうに笑うナルトからは、涙のあとは消えている。
ナルトを悲しませないために、ついつい悲劇的なラストをハッピーエンドに変えてしまったが、終わり良ければ全て良しだ。
「今日はこれでおしまい。また、明日ね」
「はーい。おやすみ、サクラちゃん」
就寝前のキスを交わすと、二人はそろって横になる。
ナルトが「めでたし、めでたし」で終わる、幸せな夢を見ますように。
目を瞑るサクラはそれだけを願いながら眠りに付いた。

 

 

あとがき??
サクラが読んでいたのは、『桃太郎』と『人魚姫』だったようです。
ナルチョ、可愛いなぁ・・・・。
不幸だった子供時代を取り戻すために、サクラはこれからもナルトに絵本を読んであげるのです。

 

 

 

 

身長差

 

 

「ほらー、ちゃんと耳の後ろの方も洗いなさいよーー」
「んーー」
髪を泡立てるナルトは手を伸ばすが、サクラの言った場所からは外れている。
「もー、ここよ、ここ」
見かねたサクラはナルトの変わりに髪を洗い始めた。
一緒に風呂に入って分かったことだが、ナルトのシャンプーはほぼ洗髪剤を付けるだけで終わってしまう。
流すときも、泡が半端に残っている状態だった。

「サ、サクラちゃん、痛いって・・・」
「我慢しなさいよ」
涙目になるナルトに構わず、サクラが強引にお湯を彼の頭にかけた。
これで完璧だ。
「お湯が目に入ったーー」
「子供みたいなこと言ってるんじゃないわよ、もう!」
手を腰に当てて怒りながらも、次からはシャンプーハットを用意しようかとサクラは考える。
何故、子持ちの主婦のような発想をしなければならないのか。
はなはだ疑問に感じるサクラだった。

 

「ナルト、水が垂れてるわよ!」
脱衣所で服を着ながら、サクラは背伸びをしてナルトの頭を拭く。
「・・・もっと、屈んでよ」
「うん」
ナルトが腰を折ると、ようやくサクラでも届く高さになった。
近頃急に身長が伸び始め、以前はサクラよりずっと小さかったことが信じられなくなっている。
そばにいると分からないが、これからもナルトは成長していくのだろう。

「サクラちゃん?」
急に手の動きを止めたサクラに、ナルトは怪訝そうな声を出す。
そして、いきなり首を抱きすくめられた。
「あんまり遠くに行かないでね」
「えー?」

視線の高さの分だけ、離れていってしまう気がする。
まだもう少しの間は、手のかかる子供のような人でいて欲しかった。

 

 

あとがき??
お風呂ナルサク。ラブラブーです。
ナルサクの特徴は、とことん無邪気なナルトと、私がいないと駄目なんだと思うサクラです。
しかし、この二人は一緒に風呂に入っても眠っても、いやらしい感じがしなくていいですね。健康的なイメージ。

 

 

 

 

目の色

 

 

「青、がいい」
「・・・・そう」
「なに?」
さも意外だという顔をするいのに、サクラは首を傾げた。
3本のカラーペンの中から一つを選べと言われて、サクラは迷うことなく青を選んだのだ。
「ううん。あんたは赤だと思っていたから。雑誌の付録だけど、こんなにいらないからあげるわ」
「有難う」

サクラが普段身に着けている服は、圧倒的に赤が多い。
昔から、髪の色に一番似合うと思っているからだ。
だからこそ、いのもサクラは赤が好きだと思っていたのだろう。
しかし、近頃サクラは青い服や青い小物に目を引かれることがたびたびある。
理由など考えたこともなかった。

 

「おかえりー」
家に帰ると、早めに仕事を終えて帰宅していたナルトが飛び出してくる。
夕飯を作っていた最中らしく、エプロン姿の彼を見て、サクラはふいに気づいてしまった。
「ああ・・・・」
ようやく合点がいった。
自分の顔を見るなり苦笑したサクラを、ナルトは不思議そうに見つめている。
「どうかした?」
「ん、なんでもない」

大好きなナルトの瞳と、同じ色だったのだ。

 

 

あとがき??
ナルトの瞳、綺麗ですよねぇ・・・。ナルトに似合っている。

 

 

 

 

ああ、居たんだ

 

 

任務の帰り道、ナルトは家のすぐ手前でイルカに出くわした。
久々の対面で会話が弾んだことから、家で食事でもしてもっと話そうという話になったのだ。
「どーぞ、あがってーー」
鍵を開けたナルトは、「すぐにお茶を入れるからー」と言って流し台に走っていった。
そしてイルカは手を洗うために洗面台に向かったのだが、なぜか風呂場からシャワーの音がしている。
家の主であるナルトはキッチンにおり、彼であるはずがない。
中から誰かが出てくる気配を察したイルカは思わず身構えたが、その人物を見るなり開いた口が塞がらなくなった。

「あれ、イルカ先生だーー、こんにちは」
髪を拭きながら出てきたサクラは少しばかり驚いたものの、笑顔で挨拶をする。
対して、イルカは硬直したまま動けずにいた。
大きな口を開けたままのイルカに代わって声を出したのは、彼の後ろから顔を出したナルトだ。
「あっ、サクラちゃん、いたんだ。今日は遅くなるはずじゃあ・・・」
「思ったより仕事が早く終わったのよ。魚でも焼いて食べようと思ったけど、イルカ先生がいるなら鍋にしましょうか」
「いいねー。先生、サクラちゃん着替えるし、あっち行こう」
「あ、あ、ああ」
大事なところはタオルで隠れていたが、湯上りのためピンクに染まる肌を凝視していたイルカは慌てて後ずさる。
頭がようやく正常に動き出した感覚だ。

 

「なっ、ナルト、あれ、何でサクラがお前の家の風呂に・・・」
「えー、一緒に住んでるからだよ。言ってなかったっけ」
うろたえるイルカにナルトはさらりとした口調で言う。
全然、知らなかった。
「イルカ先生、どうしたの?」
肩を落としたイルカに気づいたナルトは心配そうに訊ねるが、彼に答える気力はない。
長い間、恋人のいない寂しい暮らしをしているというのに、まさか生徒に先を越されるとは思わなかった。

 

 

あとがき??
イルカ先生、ファイトー!(笑)
ナルトの家の間取りは無視。
先を越されたーってのは、彼女とのラブラブ同棲生活のことですよ。

 

 

 

 

守られていること

 

 

「食べたい物があったら何でも言ってくださいね」
「うん」
キッチンに立つ年輩の女性の声に、ナルトは明るい笑顔で応えた。
テーブルには、ナルトの好きなものだけを集めた料理が載っている。
夕食には必ずラーメンを食べたが、一楽のミソラーメンにも匹敵する味だ。
ナルトのための家が用意され、自分が動かずとも頼めば何でもそろえてもらえた。
何より、外を歩けば誰もがナルトに優しく微笑みかけてくれる。
まるで楽園のような町だった。

任務でこの町を訪れたナルトは住人達を苦しめていた無頼漢の集団を一掃し、日々下にも置かないもてなしを受けている。
毎日毎日あと一日だけと思いつつ、長々と滞在してしまったのは、あまりに居心地が良かったからだ。
幼い頃から人々から冷たい眼差しを向けられることが当たり前だったナルトは、優しくされることに慣れていない。
このまま、里に帰ることなく留まれたら、どれだけ良いか。
そう思わずにいられなかった。

 

「どうしました?」
ふいに声を掛けられ、ナルトは窓際に置かれていた花瓶を凝視していたことに気づく。
花瓶にいけられた桃色の秋桜が、何となしに里にいる少女のことを思い出させた。
振り向いたナルトは、テーブルの上の皿を見つめ、次にナルトの世話係となっている女性に目を向ける。
「うん・・・・、野菜を使ったおかずとかは、出さないの?」
「野菜はお嫌いでしょう。ナルトさんは好きなものを食べて、好きなことだけしていれば良いんですよ」
彼女は笑顔のまま優しく言った。
ラーメンばかり食べるナルトに、野菜を食べろと叱りつけるサクラとは正反対だ。
ここでは、何をしてもナルトを怒鳴る者など一人もいない。

「あのさ、ぐうたらしてるだけじゃ悪いから、何か手伝えることあったら言ってよ。草むしりとか、空き缶拾いとか。雑用は任務で慣れているんだ」
「まあ、そんなこと、ナルトさんはやらなくて良いんですよ!」
女性は目を丸くしてナルトを見つめる。
「ナルトさんはこの町の英雄ですから。いつまででも、滞在してください」
朗らかに笑う彼女からは、一片の悪意も感じられなかった。
曖昧に笑って見せると、ナルトは居住まいを正して料理へと向かう。

幸せな、満ち足りた生活のはずなのに、ナルトの心にあったのは何故か寂しいという感情。
状況は全く違っても、里の人々に見放されていたときのことが、頭をかすめる。
理由はよく、分からない。
ただ、このとき初めて、自分はここにいてはいけないような気がしたのだった。

 

 

 

「この、馬鹿―――――!!!!」
勢いよく顔面を殴られ、鼻血を出したナルトは2、3メートル軽く飛ばされる。
何しろ、綱手の元に弟子入りして以来、怪力となったサクラの渾身のパンチだ。
骨が折れていても不思議ではない。
「連絡もしないで、ふらふらほっつき歩いて!!!任務が終わったらすぐ帰ってきなさいよね、忍者失格よ!!!」
「ご、ごめん・・・・」
頬を押さえつつ、かろうじて謝罪すると、サクラは「ふんっ」と言って背中を向けてしまった。
彼女の目に涙があったように見えたのは、おそらく気のせいだろう。

「まあまあ、サクラ、落ち着いて」
それまでサクラの勢いに呑まれて傍観していたカカシが、ようやく二人の間に割り込む。
「ナルトー、サクラは毎日寝ないでお前の心配していたんだぞ。どっかで行き倒れていないかとか、トラブルに巻き込まれたんじゃないかって。迎えに行くとまで言っていたんだから。まあ、今日帰るって連絡があったからこうして里の入り口で待ちかまえていたわけだけれど・・・」
「先生、よけいなこと言わないでよ!!」
金切り声をあげるサクラは、慌ててカカシの言葉を止める。
目を見開いて驚くナルトは、後ろから蹴りつけられて再び前方に倒れ込んだ。
「この、ウスラントカチ!手ぶらで帰ってくるな」
顔を上げると、腕組みをするサスケは相変わらず偉そうな態度だったが、表情はどこか柔和なものだ。
ナルトの帰郷を、少しは喜んでいるのかもしれない。

 

 

居場所が欲しかった。
ずっとずっと。
ここに居てもいいのだと言ってくれて、その存在を喜んでくれる人のいる場所。
もう、とっくに見つかっていたのに。
馬鹿だから、気づいていないだけだった。

 

「ただいま・・・」

長い間放心していたナルトは、小さく呟く。
「おかえり」と言ったのは、サクラだったか、それともカカシだったか。
ここを守っていくことが、自分の使命。
皆につられて笑顔になったナルトは、そのことを心の中で、改めて再確認していた。

 

 

あとがき??
木ノ葉の人々を守りたいから、火影になりたいと言うナルト。
そんなナルトを、木ノ葉のみんなが守ってくれるといいと思います。

 

 

 

 

遠すぎる、でも近い

 

 

せっかく一緒に暮らし始めたというのに、ナルトはなかなか家に帰ってこなかった。
次代の火影と目され、綱手から指導を受けているのだ。
通常の任務のあとに彼女のところに向かうため、執務室の隣にある仮眠部屋はすっかりナルト専用になっている。
二人で楽しく生活することを考えていたサクラにすれば、全く面白くない。
だから、たまに帰ってくるナルトについつい不満をぶつけてしまったのだ。

 

「ナルト、火影になることと、私とどっちが大事?」

言ってしまってから、しまったと思った。
「えっ?」と聞き返すナルトに、サクラは慌てて手を振ってみせる。
「じょ、冗談よ。今の、無し!」
サクラはひきつった笑顔を浮かべながら必死に言い繕う。
答えを聞くのが、怖かった。
火影になることはナルトの子供の頃からの夢、簡単に諦められるものではないことを知っている。
疲れて帰ってきたナルトを癒すべき自分が、逆に悩ませてどうするのかと反省した。

「ごめんね」
謝罪しようとしたサクラの機先を制して、ナルトは悲しげに呟く。
驚いて顔をあげたサクラは彼に腕を引かれ、きつく抱き締められた。
「寂しい思いをさせちゃって。来月になれば、もう少し時間を作れると思うから。そうしたら、一緒に外に遊びに行こう」
「ナルト・・・」
「サクラちゃんの方が大事だよ」
胸に顔をうずめているサクラの髪を撫でながら、ナルトは先ほどの問いかけの答えを口にする。
サクラは目を丸くしたが、ナルトにとっては当然のことだ。
ナルトは、里の人々を守るために、火影になりたいと願った。
それは火影でなくとも出来ることだが、サクラはこの世に一人しかいない。

「何かと比べたりなんて、出来ないよ」

 

 

あとがき??
ナルトにとって、サクラちゃんは火影になることよりも、ずっと大切なのです。
寂しかったのもありますが、ナルトが次の火影としてちやほやされているのを見て、ちょっと距離を感じていたサクラちゃんでした。
個人的に、次の火影はシカマルがいいなぁと思っています。
幸い木ノ葉には優秀な忍びが沢山おりますし、火影には忍びとしての実力より、広く皆を見渡すことのできる視野と彼らを上手く活用できる頭脳を持った人物がふさわしいかと。
いえ、ナルトにもなって欲しいのですが、ナルトは頭に血がのぼりやすくて、かっとなったら周りを忘れて突っ走りそうな・・・・。
ボスはどっしりと構えて、本当のピンチのときしか動かないような人がよいです。
でも、ナルトも今後成長して落ち着いてくる・・・・かな。

 

 

 

 

 

貴方からの視線

 

 

「お礼は、キス一回でいいよーー」
頭をかくナルトは、もちろん冗談のつもりだったのだ。
だから、背伸びをしたサクラの顔が近づいたときは、本当に驚いた。
唇が離れたあとも呆然としているナルトを見上げ、サクラは眉間にしわを寄せる。
「何よ、不満?」
「・・・・そうじゃない、けど」
今まで振り向く素振りのなかったサクラが、急に態度を軟化させた理由が分からない。
3日ぶりに任務から帰った挨拶と、饅頭の土産を渡すためにサクラの家を訪れたナルトは、落ち着かない様子で視線を彷徨わせる。
告白は数え切れないほどしたが、受け入れられたときのことは考えていなかった。

「もう一回してもいい?」
これが現実であることを確認するために言うと、サクラは困ったように笑う。
それでも、拒まれることはなかった。

 

 

「綺麗な花だね」
「何言ってるのよ、ナルトがくれたんじゃない。私、凄く嬉しかったんだから。一週間すぎてもまだ咲いているのよ」
テーブルの花瓶を見つめているナルトに、サクラは怪訝そうに首を傾げた。
先日、サクラが体調不良で仕事を休んだ際、家まで届けられたのだ。
差出人の名前はなかったが、そのようなことをしてくれる人間はナルト以外考えられない。
「おっちょこちょいだから、名前を書き忘れたんでしょう」
「・・・うん」

サクラの家には何度も入っているナルトだが、それでもやはり一人暮らしの女性の部屋は緊張する。
周りを見回すと、まず7班のメンバーがそろって写った写真が目に入った。
サクラが長年片思いをしていた少年の顔から、ナルトは思わず視線をそらす。
本当ならば、こうしてサクラの家でくつろぐのは、彼のはずだった。

 

「あいつのことは、いいの?」
茶を盆にのせて持ってきたサクラに、あえて名前を出さすに訊ねる。
サクラには、十分に伝わるはずだ。
「・・・・疲れちゃったんだもの。私から追いかけてばっかりで、全然こっちを見てくれない。ナルトといる方がずっと楽しいから」
まっすぐに見つめてくるナルトに、サクラは伏し目がちに笑ってみせた。
サクラの言ったことは間違っている。
それでも、ナルトは訂正しない。

すっとサクラだけを見ていたから、同じように彼女を見ている人間の存在には敏感だった。
サスケは少し他の人間より不器用なだけだ。
サクラの気づかないようなところで、彼女をちゃんと見守り、フォローしている。
名門として知られるうちは家の出身だ。
与えられるばかりで、人に与えることがなかったから、どう接していいか分からなかったのかもしれない。
サクラへの見舞いの花は、ナルトが送ったものではなかった。

 

「好きだよ」
サクラの欲しかった言葉を、ナルトならば簡単にあげられる。
嬉しそうに微笑むサクラを抱きしめながら、「ごめん」と心の中で呟いた。
それはサクラに対してか、彼女に密かな愛情を注いでいる彼に対してか。
よく分からなかった。

 

 

あとがき??
少々未練はありますが、今はナルトのことが好きな様子のサクラちゃん。
しかし、心を決めるきっかけとなった花のプレゼントはサスケからだったり・・・。
いつもならば、サスケとサクラの仲を応援するのですが、ちょっと黙っちゃうナルトを書いてみた。