タルトへの道 2


「しかし、あんな騒がしい奴だけれど、いなくなると思うと寂しくなるねぇ・・・・」
「そうですね」
執務室に呼び出され、師匠である綱手の書類整理を手伝っていたサクラは、その会話を耳にして手を止める。
見ると、綱手とシズネは妙にしんみりとした顔つきをしていた。
彼らが誰について話しているのか分からないが、綱手と面識があり、騒がしい人間というと随分と対象は限られる。

「・・・あの、いなくなるって、誰のことですか?」
「ナルトだよ、ナルト」
「昨日、里に戻ってきた自来也様のお供で、再び旅に出るそうです」
「・・・・・」
予想していたとはいえ、綱手の口から出た名前に、サクラは息を呑んだ。
サクラは、ナルトから何も聞いていない。
綱手達が知っていて自分だけ蚊帳の外にいることが、ひどくショックで、書類を掴む手が震えてしまう。
だが、サクラの動揺を知らずに、二人はのんびりとした口調で会話を続けた。

「全くー、これ以上あの男と一緒にいたら、ナルトはろくな成長をしないよ。心配だねぇ」
「でも、楽しそうでしたよ。近頃雑用任務ばかりって、ぼやいていましたし」
「任務はどんなものでも大事だ。それをあいつはえり好みして・・・・・サクラ?」
机に頬杖をついていた綱手は、椅子から立ち上がったサクラを怪訝そうに見やる。
「あの、ちょっと、休憩してきていいですか?」
「ああ。そういえば、昼飯がまだだったね。行っておいで」

 

 

 

サスケが里に戻り、ようやく7班全員で行動できるようになったのだ。
ナルトが里からいなくなるなど、サクラは何かの間違いだと思いたかった。
息を乱して表通りを走るサクラは、一楽の前で丁度店から出てきたナルトを発見する。
サクラの顔を見るなり、いつものように屈託なく微笑むナルトに、泣きそうな気持ちになった。

 

「ナルト、里から出て行くって聞いたけど・・・」
「あれ、綱手の婆ちゃんに聞いたの?」
サクラに歩み寄ると、ナルトは否定することなく、首を傾げてみせた。
「サクラちゃんにも、次に会ったとき言おうと思ってたんだ。それで・・・」
「いつ、いつ帰ってくるの!」
ナルトの言葉をさえぎると、サクラは彼の腕を掴んで質問を浴びせる。
目をぱちくりと瞬かせたナルトは、サクラの勢いに驚きながらも、指折り数えながら答えた。

「えーと、3年とか、4年後?」
自分のことだというのに、疑問系の返答だ。
そして、サクラは衝撃のあまり開いた口が塞がらなくなってしまった。
「・・・・そんなに、長く」

 

前にも、ナルトは自来也と旅をして2年も里に帰ってこなかったことがある。
だが、あのときと今では状況が全然違った。
いなくなったサスケの消息を掴むため、二人は必死だったのだ。
平和になった今の里で、そのように長い旅に出る意味が分からない。
そして、隣りにいることが当たり前のようになっていたナルトの不在は、サクラにとって耐え難いものがあった。

「嫌よ!いかないでよ、ナルト!!」
「・・・サクラちゃん」
目を丸くしたナルトに、サクラは見栄も維持もかなぐり捨てて懇願した。
涙が滲む瞳を向けられたナルトは、困ったように眉を寄せてサクラを見つめ返す。
「あの・・・・本当は里を出ることと一緒に言おうと思ったんだけど」
「・・・何よ」
「サクラちゃんも一緒に行かない?俺と一緒に」

 

青天の霹靂だ。
ずっとそばにいたい。
その願いを叶える道は、彼を思いとどまらせること以外にもあったのだ。
それはサクラが全く考えつかない選択だった。

 

 

 

「どっちがナルトだか、分からないねぇー」
「右隣にいる方だと思いますよ」
「・・・知ってるっての」
律儀に答えるシズネに、綱手は半眼で言った。
綱手が眺めているのは、弟子のサクラから届いた手紙に同封されていた写真だ。
ナルトとサクラ、そして彼女の腕の中にはナルトにそっくりな顔をした赤子が写っている。
旅先で産まれた息子の名前は、「タルト」にしたと書いてあった。

三ヶ月後に里に戻るという彼らに思いをはせ、綱手は窓の外を見やる。
雪が降り積もり、まだ底冷えのする季節だ。
春と共にやってくる彼らが見るのはまず、木ノ葉隠れの桜の情景だろうか。


あとがき??
タルトくんは旅の途中で産まれたようですよ。
ちゃんと作り方、分かったんですね。
自来也さん、当てられっぱなしで嫌になっているかも・・・。
あ、あんまりラブラブにならなくて、申し訳ない。(涙)


戻る