スキなヒト 1


「俺、好きな人がいるから」

国に留まって自分と一緒になって欲しいという彼女の願いは、その一言であっさりと却下された。
断られることなど考えていなかった彼女は、頭の中が真っ白になり、それが現実だとは信じられない。
告白をした少女はスタイルがよく、顔も美しく、持参金もたっぷりとある。
ふられる条件など何もないというのに、目の前にいる彼は相変わらず屈託のない笑みを浮かべていた。

「事件も片付いたし、俺、明日里に帰るよ。今まで有難う」
笑顔と共に右手を差し出されたのは、別れの印。
その里とやらに、彼の意中の相手がいるのだろう。
親しくなった彼女とは、任務中だけの間柄だったのだ。
熱心に自分の世話をしたのは彼女への好意ではなく、任務に忠実な忍びとしての顔だったのかと思うと、頭にくる。
彼のことを、簡単にあきらめることなどできない。
何より、自分をふってまで選ぶ女とやらがどのような者なのか、非常に興味があった。

 

 

 

木ノ葉隠れの里まで、徒歩で3日の道のりだ。
忍者のナルトだけならば
1日でたどり着くらしいが、女性の足にあわせたのではそうもいかない。
「大丈夫?」
「・・・ええ」
歩き詰めで疲労はピークだったが、彼女は気丈にも頷いてみせる。
彼女の申し出を断ったあとも、出会ったときと変らず、ナルトは優しい。
だから、自分に対して特別な思いがあるのではと、誤解してしまうのだ。
木の根に躓きそうな彼女を気遣って伸ばされた手につかまりながら、つくづく罪な男だと思った。

里に近づくにつれ、木ノ葉隠れの忍び達と遭遇することが多くなる。
里を守るため、
23重と警備の者を配置しているらしい。
ナルトと一緒でなければ、道々にあるトラップに引っかかり、確実に命を落としていたことだろう。
里に入るときも、出るときも、木ノ葉の忍びと同行していることが道を通る条件のようだ。
もちろん、国で発行された身分を示す道中手形は何度もしつこくチェックされている。

「見えてきたよ」
鬱蒼とした森を抜けると、それまで緊張の面持ちだったナルトの表情が、とたんに明るくなる。
里をぐるりと囲む高い壁、そして、外の世界とを唯一繋ぐ大きな門が彼女の視界に入った。
後方には山がそびえ、攻めがたく守りやすい、天然の要塞となっている。
ここからがナルトの故郷、木ノ葉隠れの里だ。

 

 

 

国の外に一度も出たことがないため、ナルトと知り合ったこの機会に、隠れ里を一度この目で見てみたかった。
それが、彼女がナルトについて来た一応の理由だ。
なにやら有名な温泉もあるらしく、一ヶ月は逗留するつもりだった。
宿は取ったものの、彼女はナルトの家のほとんど入り浸っている。
ナルトが休みのときはいろいろと名所旧跡を案内されるが、一人で町を歩いても、なかなか面白い。
町には背の高い建物が多く、中央通には映画館や劇場、大手百貨店が入り乱れて立ち並ぶ。
忍術という古来の技を重用しているかと思えば、パソコンや
TVといった電気機器もそれなりに浸透しており、なんとも雑多な雰囲気だ。
観光にふける毎日を送っていたために、危うく本来の目的を見失うところだった。

 

「あ、ヒナターー」
里で一番美味いと評判のラーメンを食べた帰り道、ナルトは往来を歩いていた少女に向かって手を振る。
振り向いたのはなかなかの美少女で、ナルトを見るなり真っ赤な顔で俯いた。
「ナルトくん・・・・」
「ヒナタ。この前貸してもらった巻物、まだ全部読んでねーんだ。もうちょっと待ってくれよ」
「いつでも、いいよ。うん」
ナルトの傍らにいる彼女は、ヒナタの顔をまじまじと眺め、頭から足の先までしっかりとチェックする。
厚着をしていてもはっきりと分かる胸の大きさは、確実に負けた。

「・・・・・今のが、ナルトの好きな人?」
先を急いでいるらしいヒナタと別れ、姿が完全に見えなくなってから訊ねる。
すると、ナルトは笑いながら手を激しくふってみせた。
「違う、違う。ただのアカデミーの同期だよ。でも、よく俺に飯を差し入れしてくれたりして、本当にいい奴なんだーー」
「・・・・そう」
明るく答えるナルトに、彼女は少々ヒナタが不憫になった。
どう見ても、ヒナタはナルトに想いを寄せている。
話を聞いているとかなり長い付き合いのようだが、ナルトの鈍さは一級品のようだった。

「じゃあ、ナルトの好きな人って、どんな人なの?」
「あーー、じゃあ、会いにいこっか?最近、あんまりばーちゃんの顔も見ていないしな」
ばーちゃんという単語に首を傾げながらも、前を歩くナルトに彼女はくっついて歩く。
いよいよ、この旅の目的であるナルトの想い人との対面だと思うと、少なからず緊張してしまった。

 

 

これが人の胸だろうかと疑うほどの、巨乳の美女の登場にあっけに取られる。
連れられてきたのは里の一番偉い人間のいる執務室、てっきり厳めしい顔をした老人がいるのだと思っていた。
五代目火影である綱手と打ち解けた様子で話すナルトの横顔を見ながら、この人が相手ならば仕方がないと、心の中で気落ちする。
おそらく、綱手は彼女が今まで見た中で一番綺麗な女性だ。
何故「ばーちゃん」などと失礼な呼び方をしているのか分からないが、20代前半くらいだろうか。

「あれ、どうしたんだ?」
ずっと俯いたままの彼女に気づき、ナルトは心配そうに顔を覗き込む。
「・・・ん、ちょっと疲れたみたい」
「えっ、じゃあ宿まで送っていくよ。じゃあな、ばーちゃん」
「ああ」
手を振って退室しようとしたナルトは、ドアノブに手をかける寸前に、振り返って綱手を見やった。

「そういえば、ばーちゃん、今日はサクラちゃんいないの?」
「資料室に書類を取りに行ってもらっている。そのうち戻ってくると思うが」
「そっかーー・・・」
あからさまにがっかりした様子で、ナルトは肩を落とした。
ナルトの口から出た新たな女の名前に、彼女は怪訝そうに眉を寄せる。
「サクラって?」
「俺の好きな人」

 

完璧な美女である綱手はナルトの想い人ではなかった。
火影の仕事を手伝っているサクラとやらが、その相手らしい。
ならば、サクラはどのような女性なのか。
彼女のその疑問はすぐに解消されることになる。

「この、ボケーーー!!!!」
「ギャーーー!!!」
彼女の見ている前で、顔面にグーでパンチされたナルトは
10メートル以上もすっ飛ばされ、壁に体を叩きつけてからようやく床に転がった。
やったのは、ナルトや彼女と同じ年頃の、桃色の髪の少女だ。
執務室を出て、廊下の曲がり角で出くわした少女は、ナルトの顔を見るなりいきなり殴りつけてきた。
「あんた、毎日どこほっつき歩いてるのよ!長期任務から帰ってきたら、すぐ顔見せなさいよね!!心配してたのよ」
「ご、ご、ごめ・・・ん・・・・・」
口端から血をダラダラと流しながら、自分の前で仁王立ちした少女にナルトは必死に頭を下げている。
頭から角を出しそうな形相でナルトを睨みつける、色気もへったくれもない、寸胴の少女。
これがサクラだということをうすうす察しながらも、どうして自分がふられたのか、そしてヒナタや綱手を無視してサクラを想い続けるのは何故なのか、全く分からない彼女だった。


あとがき??
ちょっと、夢小説っぽく。「彼女」はナルトに想いを寄せる読者のつもりで。(^_^;)
つ、続いちゃっているんですが・・・・。何でこんなに長くなったんだろう??
どうしよう。祭り、
10月末までのつもりだったけれど、1日くらい伸ばしますか。


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