スキなヒト 2
冗談ではないと思った。
出会い頭にナルトを殴るような女が、彼の想い人などと、考えられない。
確かに顔は不細工ではないが、十人並みというやつだ。
自分の方がずっと綺麗だと彼女は思った。
だからこそ、住所を聞きつけ、サクラという少女の家まで乗り込んでいったのだ。
「あら、この前ナルトと一緒にいた人ね」
一人暮らしをしているサクラは、思いのほか気安い印象で彼女を家の中に招き入れる。
あまりにおおらかな対応で、鼻息を荒くして乗り込んでいった彼女は出端を折られた感じだ。
美味しいお菓子や茶までご馳走になり、考えていたものと全然違う展開になってしまう。
彼女がナルトと任務中に知り合ったことを、サクラはすでに知っているようだった。「あいつってば、何か失敗しなかった?そそっかしいから」
話題がナルトのことになり、彼女ははっとしてここに来た理由を思い出す。
「あの、私、ナルトのことが好きなんです!出来れば、これから正式にお付き合いをしたいと思っています」
ふられたことは頭から外して、堂々と宣言する。
もしナルトのことを少しでも気にかけているなら、何らかの反応があるはずだ。
そして、注意深くその表情を見守ると、サクラは実に嬉しそうに微笑んで見せたのだ。
「そうなの。有難う」にこにこと笑うサクラからは、何の悪意も感じられない。
演技ではなく、純粋に、彼女に感謝の意を示していることがはっきりと分かった。
これには彼女も開いた口が塞がらなくなる。
「・・・・な、なんで、お礼を言うんですか?」
「ナルトのことを好きになってくれたから」
よく分からなかった。
自分ならば、好きな男に他の女が近寄れば黙っていない。
それなのに、サクラにはナルトへの告白を知らせたために、逆に好かれてしまったようだ。
国に帰る前に一緒に遊びに行く約束までしてしまった。「どう思います?」
「まあ、あそこはもう母子みたいな関係だしねー。サクラはあなたのこと、息子の彼女みたいな感覚で見ているんじゃないかしら」
「・・・・はあ」
「それに、ナルトはちょっとわけありなのよ」
ナルトやサクラと知己であるという、花屋手伝いをするいのは、なにやら意味深な顔で応える。
今は丁度客が店におらず、二人の会話を邪魔する者はいない。
以前ナルトに連れられて花屋に寄った際、すっかり意気投合してからは、ちょくちょく顔を出していた。
里の情報に詳しく聞き上手のいのは、彼女のよい話し相手だ。「わけって・・・・」
「あまり大きな声で言えないんだけれど、ナルトは家族がいないし、里の人からも差別されて育ったのよ。今だってナルトを見ると眉をひそめる人もいる。サクラはナルトを大事に思っているから、好きって言ってくれる人がいると嬉しいのかもね」
少しだけ影のある顔で言うと、いのはすぐに元のような笑顔を取り繕う。
「でも、ナルトは難しいわよ。あいつ、サクラにぞっこんだし。結構顔がいいからくノ一にも人気があるんだけど、見向きもしない」
「・・・はあ」
それは、あれだけ殴られても気持ちが変らないことから分かっていた。
しかし、それでもナルトへの想いを諦めきれない。
こうして里にまだついてきて、一緒にいるとますます好きだと思えるのだ。
一度ふられてからも何度も言い寄ってみたが、悲しいことにナルトの答えは変らなかった。
「あ、噂をすれば。ナルトとサクラよ」
「えっ」
いのの指差す方角を見ると、確かに往来を花屋に向かって歩いてくる二人の姿がある。
なにを話しているのかは分からないが、実に楽しげだ。
そして、ナルトのその顔を一目見るなり、彼女は愕然としたのだった。全然、違う。
彼女に対してだけでなく、誰といるときもナルトはいつでも優しい笑顔を崩さない。
そして、サクラの傍らにいる今も、朗らかに笑っている。
だが、それは彼女が今まで目にしたものとは、明らかに何かが異なっていた。
心から安心しきった、ナルトの穏やかな微笑。
そこには一片の邪気も見当たらない。「あーあー、お母さんを見る小さな子供みたいな顔よねー。目なんかきらきらしちゃってさ」
的を射た意見を言ういのに、思わず頷きそうになる。
だが、これではっきりと分かってしまった。
言葉でなにを言われるよりも、あの顔を見てしまえば、もはや納得するしかない。
おそらくナルトにとってサクラだけは、他の誰とも違う、特別な人なのだ。
「あ、やっぱりここにいたんだー。捜してたんだよ」
「夕飯まだよね。美味しいパスタの店があるから、3人で一緒にどう?」
店内に入ってきた二人は、彼女の姿を見るなりにこやかな顔で言った。
もちろん、彼女には断る理由はない。
明日里を離れると決めたことは、その食事の席で言えばいいと思った。未練がないといえば嘘になるが、勝ち目がないとはっきりしたのだから、いつまでも留まっている意味はない。
そして、恋のライバルと思わなければ、サクラとはいい友達になれそうだ。
次は、故郷の友達を連れて里に遊びにきてもいいだろう。
失恋の痛手は大きくとも、そう考えると少しは気持ちが前向きになりそうだった。
あとがき??
祭り、終了です!!
ご愛読有難うございました。