よかった探し


「・・・・・それ、やめろ」
傍らを歩くナルトがぼそっと呟き、サイは怪訝そうに振り返る。
「えっ?」
「その作り笑顔だよ!!いつもいつも、にこにこしてればいいってもんじゃねーやい。普通にしてろっての」
仲間達とうち解けようと努力しているのは分かるが、いつでもどこでも同じように微笑まれては不自然きわまりない。
ナルトが任務中に転んで膝を打ち、痛そうに顔をしかめて入れもサイは心配するでもなく笑っている。
からかっているわけでなく、ナルト達の前ではそれ以外の表情は作らないようにしているらしい。
感情のないサイの貼り付けたような笑顔を見ていると、人形を相手に会話しているようで気味が悪かった。

「笑うのは楽しいときや嬉しいときだけでいいんだよ」
「たとえば?」
「えーと、俺だったら一楽のラーメンを食べたときとか、面白い
TVを見たときとか、大事に育てた花が咲いたときとか・・・嬉しいけど」
「・・・なるほど」
筆を懐から出したサイは、律儀にナルトの言葉をメモして聞き入っている。
「でもやっぱり一番はサクラちゃんをぎゅーっとしたときかなぁ。柔らかくていい匂いがして、最高に幸せ〜って感じ。一緒にいるだけで十分幸せだけどねー」
頬をかきながら、サクラの肌の感触を思い出したナルトは自然と顔を綻ばせた。
「まぁ、嬉しいと思うことなんて人それぞれだから、サイも自分で・・・・・あれ、サイ?」
ふと気づくと、目の前にいたはずのサイが忽然と消え、ナルトはきょろきょろと周囲を見回した。
まるで気配を感じさせないところをみると、すでにこの界隈にはいないようだ。
任務終了後、サイの方から一緒に帰ろうと言いだしたはずだが、彼の行動はナルトには全く理解不能だった。

 

 

「ナルトったら、何もないところで転んで半べそかいてるのよー。全く、いつまでたっても子供よね」
「おっちょこちょいだからね。もともと忍者に向いてないっていうか・・・・」
いのの花屋の前で立ち話をするサクラは、明るい笑い声をたてる。
いろいろとトラブルはあるが、七班の活動が再開したのはサクラにとって何より嬉しい出来事だ。
そのまま会話を弾ませていたサクラだったが、いのの視線が動いたのを追って、その方角へと目をやる。
「あれ、あんたの班の美少年くんじゃない?」
「・・・本当だ」
路地から出てきたサイが、何かを捜すようにして首を動かして歩いていた。
そして、並んで立ついのとサクラに気づくと、真っ直ぐに彼女達の方へと足を向ける。

「サイ、どうし・・・・」
全てを言い終わらないうちに、一歩前へ進んだサクラはサイに抱き竦められた。
突然の抱擁に驚いたいのは目を大きく見開き、往来の人々もちらちらと二人に視線を向けている。
一瞬、頭の中が真っ白になったサクラが突き飛ばしたサイに回し蹴りをヒットさせたのは、僅か3秒後のことだ。
「ち、痴漢ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
条件反射で絶叫したサクラは、地面に倒れ込んだサイを怒りの形相で睨み付ける。
「な、な、何するのよ突然!!!」
「・・・・・変だな。全然嬉しくない」

 

 

 

事情を聞いたサクラは、すぐに態度を軟化させてサイを町へと連れ出した。
短気な分、サクラの怒りは持続性がないのが特徴だ。
「馬鹿ねぇ。何を嬉しいと思うかなんて人それぞれなんだから、ナルトと同じことをしたって同じ気持ちになるわけないじゃない」
「そうですか」
少しばかり肩を落としたサイは、サクラの顔、そして机に置かれたあんみつを交互に見やる。
「それで、これは一体・・・・」
「ここの白玉クリームあんみつは絶品なのよ。ちなみに私が幸せ〜って思うのは、今のところこれを食べてるときかしら」
「はあ」
甘味処は若い女性達で賑わっており、サイは珍しそうに店の内装を見つめる。
体重を気にしながらも、こうした場所に通う女性の心理はサイには不可解きわまりない。
おそらく、男には一生分からないものかもしれなかった。

「どう?」
サイがあんみつを食べ始めると、サクラは期待を込めて訊ねる。
「・・・・・甘い」
「そうじゃなくて、美味しいとか、不味いとか」
「よく分からない」
「・・・そう」
サイは無表情のまま黙々とあんみつを食べ続けている。
がっかりとしたサクラだったが、今までサイが何かを食べて「美味い」等の言葉を発したのを見たことが無く、味覚面で喜ばせるのは諦めた方がよさそうだった。

 

サクラが次に入ったのは、木ノ葉隠れの里で一番大きな映画館だ。
巷で一番評判になっている映画を見たのだが、男女の悲恋を描いた作品で、映画館から出る頃にはサクラの目は涙で真っ赤になっていた。
楽しい気分にさせるはずが、悲しい気持ちになってしまっただろうかと反省してサイを見やると、何故か彼は少しだけ嬉しそうにしている。
「・・・サイ、面白かったの?」
「ええ。恋人と別れて泣く主人公の顔が猿にそっくりでとても良かったですよ」
「・・・そう」
随分とサディスティックな楽しみ方だと思ったサクラだが、サイが満足しているのだからいいのだろうか。
見上げると、空には星が瞬き春野家の門限が近づいていた。

「今度はナルトも連れて、3人で遊びましょうよ。まだまだ楽しいところは沢山あるから。案内してあげる」
「はい」
サクラが傍らにあったサイの掌を握って言うと、その笑顔に釣られて彼は少しだけ口元を緩める。
「・・・・何ですか?」
「あ、ううん、別に」
呆けたようにサイの顔を凝視していたサクラは、はっとして目をそらした。
サイの微笑が、いつもの作り笑いとは違ったような気がしたのだが、見間違いかもしれない。
「じゃあ、また明日ね」

 

 

手を振りながら去っていくサクラを見守るサイには、まだ心から笑うということがよく分からない。
だけれど、サクラが後姿が遠ざかるのを見ていると、妙に胸が痛いような気がする。
これが「寂しい」「悲しい」といわれる感情ならば、サクラといるときの気持ちは、その逆の「楽しい」「嬉しい」というものなのかもしれなかった。


あとがき??
サイが苦手なので、最初で最後のサイサクー。
気が向いたら、『チキタ★
GUGU』のパイエっぽいサイを書きたいですが・・・・。死にネタになってしまう。
よかった探しは、ポリアンナ?
ナルト愛のせいか、自然とナルサクが入っているのが凄い。普段からぎゅーっとしているようです。
恋人関係じゃなくても、サクラは普通にナルトの家に泊まったり、一緒に風呂に入っている設定なんですよ。うちのナルサクは。


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