サクサク 0


突然降り出した雨に、サクモは慌てて近くの雑貨屋へと避難した。
すぐそばの茶店が目的地なのだが、傘なしだと確実にびしょ濡れになる雨量だ。
その雑貨屋は女性客目当ての商品しか置いておらず、一見して傘もピンクや黄色の水玉と、派手なものばかり。
そうしたわけで、サクモは手っ取り早く傘を持つ女性客をナンパすることにした。
お礼は茶店での飲食代、話が合うようなら連絡先を聞いて今後もお付き合いをすればいい。
濡れずに茶店にたどり着けて恋人もゲットできれば、まさに一石二鳥だ。
妻に先立たれて以来、息子と二人暮しのサクモは複数の女性とお付き合いをしていたが文句を言う人間もいない。
全く自由な身の上だった。

雨が降ることを予測していたのか、店先に出された20%OFFの傘にさっそく女性客が群がり始める。
値踏みをするように彼女達を観察する中、サクモが目をつけたのはまだ十代半ばと思われる桃色の髪の少女だ。
店員と何か談笑するその表情が、死んだ妻によく似ている気がする。
少女よりサクモと釣り合う年齢の女性客は他にもいるが、目が合ってしまうと、彼女以外に声をかけるなど考えられなくなった。
吸い寄せられるように少女に近づくと、サクモは人の良い笑みを浮かべながら言う。

 

「お嬢さん、少々お時間を頂けますか?」
「ええ」
思いがけず、彼女はにっこりと笑顔で応えてくれた。
その目を見れば、相手が自分をどう思っているのか、おおよそ見当がつく。
一目で好印象を抱いたのは、お互い様なようだ。
「傘、ないんですよね」
「ああ」
「実は、あなたが店に入ってきたときからずっと見ていたんです。傘を探していたようだけどあなたに似合うものはなさそうだし、私が店を出る前に声をかけようと思っていたんですよ」

話すうちに、何人かの客が彼らのいる通路の端を通っていく。
誰もいなければ、思わず抱きしめたくなるほど愛らしい微笑みだ。
息子よりも随分と年下と思われる少女に、サクモはすっかり心を奪われてしまった。

 

 

 

「こっちこっちーって、何で親父とサクラが一緒に来るわけ?まだ紹介する前なのに」
サクモが少女を伴って茶店に入ると、待ち構えていたカカシが手を上げた姿勢のまま顔をしかめる。
「え、お前の知り合いなのか?」
「知り合いっていうか、何ていうか・・・。サクラ、こっちおいで」
カカシに手招きをされたサクラは、促されるままカカシの隣りの席へと向かう。
そして、改めてサクモに対して頭をさげた。
「はじめまして、お父様」
「・・・・お父様!?」
何が起きたか分からず混乱するサクモに、カカシはゆっくりとした口調で事情を説明し始めた。
「この子は“春野サクラ”。いや、昨日入籍したから“はたけサクラ”か。俺の嫁さんだよ。明日からうちで一緒に住むからよろしくね」
「よ、嫁さんって・・・・ええ!!?」
気が動転しているサクモの様子に、サクラはそっとカカシに耳打ちする。

「ちょっと、先生、私のことお父様に何も話していなかったの?」
「うん」
「な、何でよ!!!」
「いろいろ理由があってね。でも、明日の式の前にはと思ってこうして紹介したんだからいいじゃない」
こそこそと話すカカシとサクラを見ながら、サクモは息子にはめられたことを知った。
彼とカカシの女性の好みは、何故か昔から共通している。
サクラの存在を事前に察知していれば、息子の恋人だろうと何だろうと絶対に口説き落としていたはずだ。
それが入籍済みで式を待つだけとは、泣くに泣けない。

 

「すみません、お父様。何だか話の行き違いがあったみたいで。驚かせちゃいましたよね・・・」
「いや、君が謝らなくてもいいよ」
引きつったサクモの顔を見て勘違いしたのか、しょんぼりと肩を落とすサクラを彼は名残惜しそうに見つめている。
小柄で細い手足、柔らかい桃色の髪に気の強そうな緑の瞳、見れば見るほど好みのタイプだ。
じろりとカカシを睨むと、そ知らぬ顔で口笛を吹いているのがさらに憎らしかった。

「あの、お父様・・・」
「ん?」
「私、話に聞いていただけでしたけれど、すぐにカカシ先生のお父様って分かったんです。お父様も私のことを知っているとばかり思っていたから、馴れ馴れしく話したりしてごめんなさい」
上目遣いのサクラにおずおずと言われ、こらえることなど出来るはずがない。
これは運命だ。
結ばれるべき二人が舅、嫁として出会ってしまった悲劇。
互いに惹かれあっているというのに、このままで終わらせてはいけない。

 

 

「サクラ」
腕を引かれたサクラは、倒れこむようにしてサクモに抱きしめられる。
「俺は障害なんかに負けない。幸せな家庭を築くために、明日から二人で頑張ろう」
「は、はい」
サクラは単純に自分を家族として受け入れてもらえたと思ったのだが、横で見ていたカカシには完全にプロポーズの言葉に聞こえた。
「ちょっと、何やってんだよエロ親父が!!離れろ!!!」
そこが茶店であることを忘れて大声を出すと、カカシはサクラの体をサクモから強引に引き剥がす。

サクラをしっかりと抱えて自分を見据えるカカシは、サクモにとって随分と大きな障害だ。
だが、彼は主に任務で家を留守にし、現役を引退したサクモは専業主婦となるサクラと二人きりになれる。
そこに愛が芽生えないとは、誰にも言い切れなかった。


あとがき??
傘がない=女を引っ掛けよう、という思考のサクモさんが大好きです。
縹さんから頂いたサクモイラストが素敵で、さっそくこんな
SSが出来ました。シリーズ化すると思います。
二人の出会い話は縹さんに捧げさせて頂きます。有難うございました。


駄文に戻る