初デート


「ねぇねぇ、サスケくんv映画のチケットもらったんだけど、今度の日曜に行かない?」

満面の笑みで訊ねるサクラを、カカシとナルトは冷やかすように見ている。
結果は、彼らにも、サクラにも、分かっているのだ。
任務終了後、毎日のようにサスケを誘っているサクラだが勝率は果てしなくゼロに近い。
断られることを承知でサスケに声をかけるのは、サクラにとってすでに日課となっていることだった。

 

「何時だ」
荷物をまとめて帰り支度をしていたサスケは、振り向くことなく訊ねる。
「え、何が?」
「だから、何時からやるんだ。その映画は」
顔を上げたサスケの問いに、サクラも、その後ろにいた二人組も呆気にとられる。

「え、えええ、ええーーーーー!!!?」
一瞬の沈黙のあと、サクラは1メートルほど飛び上がって絶叫した。
そのまま後退りしたサクラを、サスケは怪訝な顔で見つめる。
「何だよ」
「い、一緒に映画を観に行こうって言ったのよ、私と!」
「ちゃんと聞こえている」
ゆっくりとした口調で念を押すサクラに、サスケは眉を寄せて答えた。
動揺しているのはサクラだけでなく、話を聞いていた二人も同じだ。

「おい、どういう風の吹き回しだよ!!」
「そうそう、今まで散々冷たくあしらっておいて」
詰め寄ったカカシとナルトの手をサスケは乱暴に振り払う。
「いくら断っても付きまとわれるなら、同じことだ」

「嬉しいーーーーvv私の気持ちがようやく通じたのねv」
カカシ達を押しのけたサクラはサスケに飛びついて有頂天だ。
サスケはひどく迷惑そうな顔をしているのだが、そのようなことは気にならない。
そして、外野の二人が忌々しそうに彼らを眺めているのも、全く関係ないことだった。

 

 

 

 

「えへへ、1時間前はちょっと早すぎかしら」
晴天の日曜日、精一杯おめかしをしたサクラは、弾む足取りで待ち合わせ場所に向かう。
優美な噴水があることで有名なその公園は、恋人達のデートの集合場所としてよく知られていた。
映画館にも近く、その後に食事をするにも雰囲気のいい店がそろっていて都合がいい。

前日の夜、緊張で眠れなかったサクラは時間に遅れないよう、十分に余裕を持って家を出ている。
だから、考えもしなかった。
二時間後、自分が全身びしょぬれ状態で公園を彷徨うことになるとは。

 

 

「クシュン!!」

派手なクシャミをしたサクラは、小さく身震いをする。
髪の先からは水がしたたり落ち、朝早くからセットした意味はまるでなかった。
つい先ほど、ボール遊びをしていた子供達にぶつかり、噴水に突き落とされたのだ。
その前は道を聞かれた老人に掴まり、その前は迷子の子供に掴まり、同じようなことの繰り返し。
とどめが、この噴水突き飛ばし事件だった。
一人二人ならともかく、集団で押し寄せられてはサクラでも支えきれない。

靴にたまった水の感覚が気持ちが悪いと思いながらも、サクラはその場所に向かって歩き続ける。
腕時計はもう見たくもなかった。
今回のデートにけして乗り気でなかった彼が、こんな時間まで待っているはずがないことを、サクラは十分に知っている。
もし、現場にいたところで、この姿では映画などとても無理だ。
周りの目も気になったが、サクラはただひたすら待ち合わせ場所の時計台を目指していた。

 

「うう。サクラちゃん、可哀相・・・・」
公園の木陰からサクラを見つめるナルトは、涙を拭いながら嗚咽を漏らしている。
「カカシ先生、やりすぎたんじゃないの」
「何言ってるんだ。確かにデートの妨害工作はしたけれど、最後の噴水の子供は俺じゃないぞ。ただの事故だ」
「本当―??」
カカシを疑わしい目で見ているナルトには、自分が共犯であるという自覚は全くない。
用心深いサスケよりもサクラをターゲットに選んだ二人だったが、好意を寄せる相手を罠に陥れるには並々ならぬ決意が必要だった。

 

 

 

まるで不幸のどん底に落とされたようなサクラだったが、奇跡は起きた。
目の前の光景が信じられず、サクラは何度も瞬きを繰り返す。
だが、本物だ
サスケが、時計台の前で立っている。
呆然と立ちつくすサクラに気づいたのか、彼女の視線の先のサスケが振り返った。

ような気がした。

 

「え!?」
あっという間に姿を消してしまったサスケに、サクラは目の周りを強く擦った。
「ま、幻?」
よろよろと歩くサクラは、何とかサスケが立っていたと思われる場所までたどり着く。
だが、すでにサスケの気配はどこにもない。
もともと幻影だったのか、サクラが濡れ鼠で来たのを見て帰ってしまったのか。

いろいろと考えを巡らせる中、こらえていた涙が零れそうになり、サクラは唇を噛みしめた。
遅れてしまった自分が悪い。
今まで気にならなかった人々の視線も、突き刺さるように感じられる。
この場から、いや、この世から、すぐにも消えてしまいたかった。

 

 

俯いていたサクラの頭に、タオルがかけられたのは涙が出る直前のことだ。
背後の気配には、覚えがある。

「サスケくん?」
「映画は無理だな」
振り向いたサクラに、サスケは断定的に言った。
サクラは一瞬垣間見たサスケが目の錯覚ではなかったと悟る。
「どこに行ってたの」
「あそこだ」
サスケが指差したのは、公園を出てすぐにある雑貨店。
タオルが妙にポップな柄なのは、急いで買って戻ってきたせいだろう。

「怒ってないの」
「そんな格好で現れたら、怒れない」
「こんなに遅れたのに?」
「事情があったんだろ」
サスケの声に怒りはなく、ただ、サクラをじっと見据えている。
「カカシが遅れてくることを知っているのに、お前は毎日時間通りに来る。理由もなく遅刻はしないな」

 

 

「何か、よけいにラブラブになっている気がするんだけど・・・・」
サスケに泣きついたサクラを遠目に眺め、ナルトは愕然と呟く。
「まさか、サスケが待ってるとはなぁ。真面目なサクラが遅刻なんかしたから、意外と心配してたのかもね」
「なんか、もう、妨害するより他に可愛い彼女を見付けた方が良い気がしてきた」
しくしくと涙するナルトに、どうしたものかと悩むカカシだった。


あとがき??
突発で考えていたんだけど、間にいろいろ書いていたらえらい時間がかかった話。
やっぱり私にサスサクは向いていないのね。サクサスだし。
というか、誰なんだ、この人達は・・・・。


駄文に戻る