みるく
「はい、任務完了」
毎日、担任であるカカシのこの言葉で下忍達は銘々思う場所へと散っていく。
ナルトはいつものように、イルカを待ち伏せてラーメンをおごってもらうようだ。
そして、サクラはといえば、帰路に就くサスケの後ろをぴったりとマークするように歩いている。
どこかに誘うということもなく、ただ後ろにいるサクラに、サスケは立ち止まって訊ねた。「何か、用か?」
「ううん、帰る方向が一緒なだけよ」
サクラの返答に、サスケはさらに怪訝な表情になる。
彼女の家は正反対の方角にあるはずだ。
だが、全くの嘘にしてはサクラの声に淀みがない。「私が下忍になれたら、両親が何でも好きなもの買ってくれるって言ったの。だから、私さっそくおねだりしてみたのよ」
「・・・・何を?」
「サスケくんの家の、隣のマンション」
嫌な予感はしていた。
ただでさえ付きまとわれているのだ。
それが、隣の家に住むようになったとしたら。
結果は考えずとも分かるというものだった。「いただきまーーすv」
両手を合わせて言うと、サクラはサスケの手料理を当然のように頬張る。
テーブルには彼女が持ってきた焼き魚もあるが、墨のように焦げて食べられたものではない。
朝と夜、食事の時間になるたびに現れるサクラにサスケの怒りは限界に近づいていた。
「お前―、たまには自分の家で飯を食え!」
「・・・だって、私、料理なんてしたことないんだもの。家賃も高くて生活費ギリギリだし、飢え死にしたらどうするのよ」
「俺の知ったことか!」
「サスケくんの鬼―」
しくしくと泣きマネをしながら、サクラはなおも口を動かしている。「実家に帰ればいいだろう」
「でも、サスケくんの料理、お母さんのより美味しいのよ。今すぐお嫁に行けるわ」
「誰が行くか!!」
思わず声を荒げて反発するサスケに、サクラは笑い声を立てる。
「そうよね。サスケくんは私がお婿に貰うんだものね」
「・・・・」
楽しげに食事を続けるサクラはリモコンを使ってTVのスイッチを勝手に入れている。
愛用の箸や茶碗も持ち込み、もはや自分の家同然のくつろぎようだ。
サクラのこの自信は一体どこから来るのかと、心底不思議に思ったサスケだった。
「お前、誰かと同棲でもしているの?」
唐突に聞こえた声に、サスケはぎくりとして振り返る。
夕食の材料の買い出しに行った帰り道だった。
いつから見ていたのか、笑顔で背後に立つカカシを無視したサスケはすたすたと急ぎ足で歩き始める。
「一人分にしては、量が多いよねぇ」
「気のせいだ」
「持つの、手伝おうか?」
「いらない」
何とか振り切ろうと歩くサスケの心情を知ってか知らずか、カカシは面白そうに彼のあとを付いて歩く。
そうなると、いくら人通りが多かろうと上忍をまくことは不可能に近い。「誰か家に来るの?お前に客なんて珍しいな」
「誰も来ない」
「分かった、何か動物を飼い始めたんだろう。そうに決まっている!」
「五月蠅い」
喧嘩のように言い合ううちに、二人はいつの間にかサスケの家のすぐ前までやってきていた。
何とかカカシの興味を逸らそうとするサスケだったが、後の祭りだ。
先に家に入り込み、窓から顔を出したサクラはサスケ達に向かって手を振っている。「サスケくーん、ご飯まだー?お腹すいたー」
「・・・・随分と大きなペットだね」
窓を見上げるカカシは、サスケの肩を叩きながら言う。
俯くサスケはあえて否定しなかった。
餌を求めてさえずるサクラが、カカシの言葉どおり、主人の帰りを待つペットそのものに見えたからだ。
「・・・・増えてる」
呆然と呟くサスケを気にせず、カカシとサクラはテーブルに皿やフォークを並べている。
この日、一人分のはずの夕食はいつの間にか三人分になっていた。
サスケの目に、彼らの姿が飼い犬二匹に見えるのは気のせいではないだろう。「酒はないの、酒は?」
「あるか!!勝手に冷蔵庫を開けるな!!」
「これ、美味しい〜」
「サクラ、つまみ食いをするな!!」
周りをうろつくカカシとサクラにサスケはいちいち目くじらを立てている。
テーブルの上に置かれたのは、サスケ手作りのパスタ二種類とサラダとスープだ。
「いただきます」の声と同時に始まった食事だが、サスケだけは一人で仏頂面をしていた。「本当に美味いな〜」
「でしょーv」
「食ったらさっさと帰れ」
料理の腕を素直に褒めるカカシとサクラだったが、サスケは取り付く島もない。
だがそこは同じ班の仲間、サスケが非難めいた視線で見ていても二人とも気にせずパスタをぱくついていた。
「でも、サクラが一人暮らしをしていたなんて、知らなかったなぁ」
「言っていなかった?」
「うん。でもさ、それなら帰りがちょっと遅くなっても誰も怒らないよねー」
言いながら、カカシは隣りに座るサクラの頭にポンと手を置く。
「何のこと?」
「これからうちに来ない?美味しいデザート用意してあげるから」向かいの席にいるサスケが右眉を上げたが、サクラは気軽に「いいよー」と返事をしていた。
サクラの食べるスピードから考えて、この家を出るのは8時すぎになることは確実だ。
それから、若い娘が一人暮らしの男の家に行く。
問題なのではないだろうかと考えるサスケだったが、当の本人はにこにこ顔でカカシに話しかけている。「デザートって、何?」
「何でもいいよ」
「わーいv」
「待て」
すっかりその気になったサクラを見たサスケは、つい口を挟んだ。
「サクラ、腹一杯だろ」
「うん」
「それなら別に、カカシの家に行かなくていいんじゃないか」
「デザートは別腹よー」
明るく笑うサクラの傍らで、カカシは頷きながら彼女の肩に手を置いた。
フォークを持つサスケの手に力がこもるがサクラは険悪な空気には気づかない。「先生の家って、実は行くの初めてなのよね」
「何なら、泊まっていってもいいよ」
「えー」
「大丈夫。俺は百戦錬磨のつわものだから。手取り尻取り、いや、手取り足取り教えてあげるから」
「何を?」
箸を銜えるサクラは不思議そうにカカシを見ている。
こうも下心が丸出しになれば、サスケとしても遠慮する必要はなかった。
「お前、もう食べ終わっているだろう。出て行け!!!」
「え、ちょっと・・・・」
立ち上がったサスケは、座っているカカシを無理やり引っ張って連れ出そうとする。
慌てたサクラは食べかけのパスタはそのままであとを追おうとしたが、その瞬間にサスケに睨まれた。
「サクラ、お前は残れ!うちの冷蔵庫にある牛乳、好きなだけ飲ませてやるから」
「・・・牛乳」
サスケの家にデザートの代わりとなる甘いお菓子やジュール類はない。
それでつい出た言葉だったが、案の定、サクラは顔をしかめている。
同じ班の仲間として、彼女の貞操を守るためにはもはや手段を選んでいられなかった。「今夜、うちに泊まっていいぞ」
サスケの口から出た値千金の一言に、サクラの体が反応をしめす。
「俺のベッドで・・・・・腕枕付きだ」
とどめとばかりに矢継ぎ早に言うと、サクラはすぐさま瞳を輝かせてサスケに飛びついてきた。
その頭からは、カカシのこともデザートのことも、すっかり消え去っている。「嬉しいーーーーvようやく私の気持ちが通じたのねvv」
「ということだ。邪魔者はさっさと消えろ、このエロじじい」
蹴り付きでカカシを玄関の外へと押し出すと、サスケは彼に冷笑を向けてから扉を閉める。
非常に屈辱的なことだったが、サクラの気持ちがサスケのところにあるのだから仕方がない。
次の任務で、サスケをしごきまくることをカカシは胸に固く誓っていた。
「サスケくんー、ご飯食べ終わったし、さっそくシャワー浴びて寝ましょうか!」
「ふざけるな」
サスケはいそいそと寝室に向かおうとするサクラの襟首を掴まえて制止する。
「お前は、その警戒心のなさをどうにかしろ!!!一応、年頃の女だろう!」
「キャーー!!!」
強引に抱えられたサクラは先ほどのカカシ同様、家の外へと乱暴に放り出された。
サクラが持参していた食器類も一緒だ。「もう来るなよ」
「ひどいー!サスケくんの嘘つきー、馬鹿ーー!!」
サクラが何と言って扉を叩いても、開かれることはない。
涙のサクラがすごすごと自宅へと歩き出すと、扉を背に立つサスケは大きくため息をついた。
こうした騒動があれば、数日は姿を見せないと思ったサスケだったが、それは甘かった。
翌朝、サクラはしっかりとうちは家の朝食の席に座っている。
今までと変わったことと言えば、自分が食べる分のパンを持ってきたことだろうか。「お前な・・・」
「牛乳、好きなだけ飲ませてくれるって言ったじゃないの。パンはあるから平気よ」
悪びれもせずに言うサクラに、サスケは焼いたばかりの卵とベーコンがのった皿を手渡す。
「あっためるか」
「えっ?」
「牛乳」
いいわけ(あとがき)??
わいぼさんへの捧げ物で、のだめ風サスサク。
去年書くと言ったのに、今までかかってしまいました。ごめんなさい、ごめんなさい。
のだめでサスサクは今まで何度もネタに使ってきたので、いいものがチョイスできなかったのです。
そうこうしているうちに、時間が経ち・・・・・。
これは気が向くのを待っていたらいつまで経っても終わらないと気づき、慌てて完成させて頂きました。大恩あるわいぼさんにこんなお返ししか出来ずに申し訳ないです。
うちのサイトが存続しているのは、半分以上わいぼさんのおかげです。
のだめ=千秋先輩に餌付けされるのだめ、というのが第一に頭に浮かびこんな話になりました。
・・・・カカシ先生はミルヒー?
そういえば、何でミルヒーはのだめを気に入っているんでしょうね?はて。
サスケがどんなところに住んでいるのか分からないので、MY設定ですみません。わいぼさんには長々とお待たせして、本当に申し訳ございませんでした。
これからも仲良くしてくださると嬉しいです。