リアル抱き枕
何か柔らかいものに額に触れていた。
目を開けると人の腕がすぐ間近にあり、フローラルな香りが鼻につく。
「・・・・またか」
うんざりとした口調だった。
最初はいちいち驚いていたが、慣れてしまった自分が怖い。「何なんだ、一体・・・」
絡まる腕をどけて布団から身を起こすと、すやすやと寝息を立てる彼女を見下ろして呟く。
安心しきった寝顔が憎らしい。
毎朝彼女が起きないよう、細心の注意を払って部屋まで運ぶ身にもなって欲しかった。
久々の国外での任務、途中で立ち寄った宿場町は有名な温泉地だ。
宿はそれぞれに個室が与えられ、夕食は懐石料理。
暫く逗留したいなどと考える7班の面々だがそういうわけにもいかない。
交通費&宿泊費は里に戻ってすぐ精算することとなっている。
「次はプライベートで来てもいいかもねぇ・・・」
月明かりの露天風呂を満喫したカカシは、部屋に戻るなりTVのリモコンを持って敷いてある布団に潜り込む。
妙に生暖かかった。
「ん?」
湯たんぽや電気毛布がサービスでついているのかと思い、布団の中を覗いたカカシは仰天する。
四つの光る眼が、カカシをじっと見据えていた。
「座敷わらし!!!」
カカシが慌てて飛びずさると、布団がまくれてその正体がはっきりとする。
布団の隅で丸くなっているのは、浴衣姿のサスケとナルトだ。「お前達、何でこんなところに・・・・・」
「うちの部屋、妙にリアルな幽霊の掛け軸がかかっていて怖いってばよ。一人じゃ寝られないって」
しくしくと涙するナルトは必死な様子で訴える。
怯えるナルトが密かにカカシの部屋へ侵入すると、あとからサスケが入ってきたとのことだった。
「え、サスケもなの?」
「俺のところに幽霊の掛け軸はない」
「・・・・え、じゃあ」
「幽霊より厄介なものが来る」
苦い顔で語るサスケの顔を、カカシとナルトは不思議そうに見つめる。
「何?」
「サクラ」
庭にある鹿威しが闇夜に響いた。
視線を合わせたナルトとカカシは、改めてサスケへと顔を向ける。
「・・・・えーと、サクラが部屋に忍んでくるから厄介だって?」
「そうだ。里を出てから毎日毎日、どうやって入ってくるのか、目が覚めると隣りにサクラがいる」
「羨ましいじゃん!!!」
ナルトは間髪入れずに叫んでいた。
「どこが厄介なんだよ、俺と部屋代われっての!!」
「それは嫌だ」
「何だ、それ!」
揉み合うナルト達を横目に、そっと扉へと向かうカカシを二人が掴まえる。
「どこへ行く?」
「・・・厠」
「嘘だ!!サスケの部屋でサクラちゃんを待ち受ける気だってばよ!!」
三人が口論を続ける中、部屋の扉が唐突に開かれた。
そこに立っていたのは、寝ぼけ眼で足元をふらつかせるサクラだ。
「さ、サクラちゃん?」
「・・・・・」
ナルトの呼び掛けは聞こえていないのか、彼らの顔を見回したサクラは、のろのろと歩みを進める。
足を縺れさせたサクラがばったりと倒れ、眠りについたのはサスケが座る場所のすぐ手前だ。
サスケの話によればこれらは全て無意識の行動で、翌朝になれば全て忘れているのだという。「サクラってば、夢遊病だったのかー」
「っていうか、何でサスケを捜して歩くわけ?」
「俺が知るか」
熟睡するサクラに着ていた羽織をかけると、サスケは二人を上目遣いに見る。
「あんまり見るなよ」
そう言われても、浴衣の裾からのぞく太股や二の腕にどうにも目がいってしまうカカシとナルトだった。
「いのー、私、次の任務では抱き枕も一緒に持っていくわ」
里に戻るなり、いのの花屋に向かったサクラは肩を落として呟く。
「え、あんな大きいものを!?かさばるじゃない」
「でも、隣りにないと夜中にあれを捜してうろうろ歩いちゃうみたいなのよ。先生に注意されちゃった」
「へぇー」
サクラが言う抱き枕とは、去年いのが彼女の誕生日にプレゼントして、大変喜ばれたものだ。
特注品で、等身大のサスケの形をしている。「あれがあると本当にぐっすり眠れるのよ。だから旅先では寝覚めが悪くて・・・」
「じゃあ、同じ班なんだし、枕じゃなくて本物と寝たらいいじゃない」
「いやだ、いのったらー」
いのの冷やかしにサクラは笑って答える。
うろついていたばかりか、毎日サスケの寝床にもぐり込んでいたことが分かればサクラは卒倒していたはずだった。
あとがき??
いくら好きでも等身大の抱き枕はどうかと・・・・。
リクエストは「サスサク+カカシ&ナルト(7班でサスサクが二人を巻き込むギャグ系)」。
最初はイタチ兄も登場してしっちゃかめっちゃかな話だったんですが、収集がつかなくなったので、兄に退場してもらったら凄くシンプルな話になってしまいました。
個人的に、先生の布団に入り込んでいるナルト&サスケがツボでした。沖乃様、長々とお待たせして申し訳ございませんでした!