砂の下の夢


一人の少女を、菜の国まで送り届けるという任務だった。
そこには彼女の婚約者がおり、ついたらすぐに結婚式が行われるそうだ。
サクラは幸せな花嫁の姿を想像していたのだが、彼女は何故か俯いてばかりで、口数も少ない。
金糸のような髪と白い肌の美少女でも、浮かない表情のままでは美しさも色褪せてしまう。
他人のことに興味がないサスケと違い、人を気遣う性格のサクラはどうにも放っておけなかった。

 

 

「スミレさん、旦那様になる方は、どんな人なんですか?」
自分より一つ年上だという彼女に、サクラは何かと声をかける。
スミレという名前は、紫色のその瞳から名付けたものだろう。
サクラの目を見詰め返す彼女は、一層悲しげな顔になってしまった。
「知りません」
「え!?」
「見たこともない人です。他に6人の奥様がいらして、私は7番目なんだそうです」
「な、7人!」

仰天したサクラだが、彼女達の国では一夫多妻が普通だ。
それにしても、7人は多い。
「そんなにいても、まだ妻が欲しいものなのか・・・」
感心したように言うサスケに、彼女は静かに笑う。
「お金持ちの方なんですよ。私より、30歳年上です」
確かに、それだけの妻を養えるならば、相当財力を持った人間なのだろう。
だが、彼女が少しも幸せに見えない理由はこれではっきりとした。

 

 

 

辛抱強く聞き出したところによると、スミレの両親は幼い彼女を残して病死し、叔父夫婦に育てられたそうだ。
縁談話を持ちかけられて、スミレが断れなかったのは彼らへの恩があるため。
密かに片思いをしている幼なじみがいたが、諦めるしかなかった。
彼が行商の仕事をしており、現在は卯の国に滞在しているのだという。

 

 

「何で、告白しなかったのかな・・・・」
獣避けの焚き火に薪を足し、サクラはぽつりと呟く。
月明かりの下、シェラフで寝ているスミレを眺めるサクラは、すっかり彼女に同情していた。
自分ならば、他に好きな人間がいるのに黙って嫁に行くなど、考えられない。
しかも、7番目の妻だ。

「自分に自信がないからだろ」
「でも、こんなに綺麗なのに・・・・」
「容姿は関係ない。相手を思う自分の気持ちに、自信がないんだ」
目を伏せるサスケは、クナイの一本一本に磨きをかけている。
サクラが話しかけなければ滅多に口を開かないが、彼はときどき的を射たことを言う。
「なるほど・・・・」

難しい顔で考えていたサクラは、傍らに座るサスケにぴったりと身を寄せた。
「私はサスケくんへの気持ち、誰にも負けない自信があるわよv」
「・・・くっつくな」
不満げなことを言っても、彼から避けることはしない。
「お前、またお節介なこと考えているだろう」
「エヘヘー」
満面の笑みを浮かべるサクラに、サスケは小さくため息を付く。
サクラは困っている人間を捨て置けない性分だ。
そして彼女が動くと大抵サスケも巻き込まれるのだが、不快に思ったことは一度もなかった。

 

 

 

『卯の国で内乱!民間人に死傷者多数』

 

「こ、これは・・・・」
「食料の補充のために寄った村で配られていた号外よ」
サクラからその印刷物を受け取ったスミレは、その場で卒倒しそうになった。
卯の国、スミレの思い人が滞在している国だ。
彼が死んだとは決まっていない。
だが、町が焼き払われたという記事を読むと、絶望的な気持ちで涙が溢れだしてきた。

「落ち着いて、スミレさん!」
座り込むスミレに、サクラは強い口調で話しかける。
彼らがいるのは、丁度街道の分かれ道だ。
右に行けば、スミレが当初目指していた菜の国がある。
そして、左に行けば、町が火の海となっている混乱の卯の国だった。
「どっちに行きたい?」

 

サクラの言葉が、スミレの頭の中でリフレインする。
どっちに行きたいか。
そんなことは、最初から決まっていた。
彼に、彼に会いたい。
世話になった叔父夫婦のことも、見たこともない婚約者のことも、すでに頭になかった。

焼けた町に行けば自分の身も危うくなるかもしれない。
そうした危機感よりも、彼を恋い慕う気持ちが勝っていた。
今、まさに彼が死の床で苦しんでいるかと思うと、胸が苦しくてたまらなくなる。

 

「卯の国に・・・」

 

 

 

スミレの思い人は卯の国から帰ってすぐに、彼女にプロポーズをするつもりだったそうだ。
突然現れた彼女に驚きはしたももの、もちろん迷惑と思うはずがない。
卯の国の内乱はサクラの狂言だったが、そのことを知ってもスミレは怒らなかった。
彼女が決意を促さなければ一生後悔して過ごしていたことだろう。

 

「来月、結婚だって」
「そうか・・・・」
送られてきた式の案内状をサクラは羨ましそうに眺める。
スミレの縁談は破談になったが、叔父夫婦は幼なじみとの結婚を喜んでいるそうだ。
財産のある家に嫁げば幸せになると思っていただけで、他に思い人がいるならば無理強いをするつもりはなかった。
彼女がもっと早く勇気を出していたら、こうした面倒なことにはならなかったかもしれない。

「サスケくんは、自信ある?私への気持ち」
「さあ」
素っ気ないサスケの返答に、サクラは頬を膨らませる。
先程から任務の報告書を作成しているサスケはサクラを全く見ていない。
「じゃあ、私のことどれくらい好き?」
「トマトの次」

即答だった。
トマトがサスケの好物だということは知っているが、それでは何番目かも不明だ。
面白くない気持ちで顔をそむけたサクラを見て、サスケは少し笑ったようだった。
「人間ではお前が一番だ」


あとがき??
あの、恋人設定なので、もっとラブラブの予定だったんです・・・・。
何でこんなにプラトニックなんだーーー。
おのれ、サスケ!!もはやこれはサスケマジックと言っていい。
彼が絡むと、年齢をあげても中学生的恋愛物語になります。
ちなみに、元ネタは
TONO先生の『砂の下の夢』、3話目の話。ほぼそのまんまです。
何でこの話をサスサクで書きたいと思ったんだろうな・・・。
自分ではあまり書けませんが、将来、大人版サスケ&サクラが二人で任務を遂行していたら素敵ですねぇ。


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