ギブ・ミー・チョコレート


任務の帰り道、商店街で女性達が群がる店へと目をやったサスケは、その看板の文字を見るなり眉間にしわを寄せる。
『バレンタインデーに愛のプレゼント』。
菓子会社の宣伝に騙されているだけの行事に、サスケは全く興味が無い。
山のようにチョコレートを渡される
214日は彼にとって地獄の記念日だ。
「甘い物が苦手」と正直に言って引き下がる相手ならばまだいいが、粘り強く家に押しかけてくる少女達はなかなか諦めない。
その典型的な例が、同じ班で活動するサクラだった。

「チィッ・・・」
舌打ちをするサスケは、頭をかきながら大きなため息をつく。
チョコレートをもらう前に受け取らないと宣言するのも、自意識過剰だと思われて嫌だ。
かといって、毎年の決まりごとのようにチョコレートを持ってくるサクラならば、今年も用意するに決まっている。
どう言えば彼女を傷つけずに、そしてチョコレートを食べずにすむか、それが問題だった。

 

 

 

「おはようーー、サスケくんv」
「・・・・おはよう」
結局、当日の朝までよい解決策の思い浮かばなかったサスケは、びくびくとした様子でサクラに挨拶を返す。
「今日は天気がいいわねー。雨が続いたから嬉しくなっちゃう」
「・・・・そうだな」
にこにこ顔のサクラに返事をしながら、サスケは怪訝な表情になった。
いつもならば、朝から熱心なチョコレート攻撃が始まるというのに、世間話をするサクラはその素振りを一切見せない。
7班で行動し、そばにいる時間が多いとはいえ、二人きりになれる時間は限られていた。
てっきり、ナルトとカカシのいないうちに渡されると思って身構えていたサスケにすれば、拍子抜けだ。

暫くしてナルトが現れ、少々遅刻をしてカカシがやってきても、まだサクラはバレンタインの話を切り出さなかった。
義理チョコを含めて皆に手渡すつもりかもしれないというサスケの予想は再び外れる。
しかし、ナルトは意外にもこの日が何の日なのかをきちんと記憶していたらしい。
「サクラちゃん、今日はバレンタインデーだってばよ。チョコ頂戴――」
「・・・・ああ、そうね」
ナルトの無邪気な催促にサクラは小さく声を出し、脇にいるサスケは心の中で「ナイス!」と頷く。
これでようやく任務に集中できると思ったのだが、鞄からチョコレートらしき包みを出したサクラは、サスケではなくナルトにそれを差し出した。

「あげる」
「有難うーーーーー!!!」
「ずるーい!サクラ、俺には?」
「他は持ってきてないわよ。カカシ先生、甘いもの嫌いでしょう」
ぷいと横を向いたサクラは、サスケと視線が合うとにっこりと微笑んだ。
妙に親しげな笑みのように思えたが、動揺するサスケには彼女の想いは伝わらない。
「一生大事にするってばよー!!!」
「腐るわよ。早く食べた方がいいわ」
「ナルト、俺が代わりに食ってやるって」
肩を落とすカカシと浮かれるナルト、そしてサクラの会話を聞きながら、サスケはショックを受けている自分に驚く。
もともと断るつもりだったのだからこれで良いのだ。
だが、チョコレートが準備してあって受け取らないのと、もともとないのとでは大きな違いだった。

 

 

そのまま任務は滞りなく終わり、帰り際にようやくサクラがサスケに駆け寄ってくる。
少々期待したサスケだったが、用件はチョコレートとは関係がないものだった。
「サスケくん、どこか寄って帰るのー?」
「ああ、手裏剣とクナイを研ぎに出しているから、それを受け取って買い物をしてから帰る」
「そっか。でも、今日夜遅くなると雨が降るみたいだから、気をつけてね。じゃあ、また明日」
手を振ったサクラは、笑みを浮かべてその場から立ち去る。
帰る方向が一緒なため、ナルトと肩を並べて歩くその姿は非常に仲の良いカップルといった感じだ。
これで良かったと思うのに、サスケの心には冷たい風が吹きぬけていく。

「サスケくーーーん!!」
どこかで様子を窺っていたのか、サスケが足を踏み出すのと同時に大きな紙袋を持ったいのが近寄ってきた。
「仕事終わるの待ってたわよー。サクラからどんなチョコレートをもらったか知らないけど、負けないわー」
「・・・・もらってない」
「えっ?」
「サクラはナルトにチョコを渡していた。俺にはなかった」
「いやだー、そんな嘘ついたって駄目よーー」
本気にしないいのは笑い飛ばしたが、真顔のサスケを見るうちに、段々と神妙な顔つきになる。
「・・・ええっ、本当に?」
サスケが頷くと、いのも意外に思ったのか腕を組んで考え出した。
「そんなの普通じゃないわよ。サスケくん、何かサクラを怒らせることしたのー」
「別に・・・」

サスケがサクラに対してそっけないのはいつものことで、彼女もそれを気にしている風ではなかった。
しいてあげるとしたら、先週、サクラが勝手に合鍵を作ってうちはの家に上がりこんだことだろうか。
しかりつけたが、不法侵入をしたのだからそれは当然のはずだ。
「あー、じゃあ、本当にサスケくんからナルトに乗り換えたのかしらー。サクラってば、ナルトの家にもよく入り浸ってるしねー」
いのの何気ない一言がサスケの胸に突き刺さる。
チョコレート一つで大げさだ。
しかし、昨日まではサクラにどう弁解するかを考えていたというのに、自分が傷つくことになるとは、全く人生何が起こるか分からなかった。

 

 

 

「サスケくんってば、遅いわねー。買い物って、どこまで行ったのかしら・・・」
キッチンにある椅子に座り、足をぶらつかせるサクラは口を尖らせて呟く。
彼女の目の前には、完成したばかりの特大チョコレートケーキが置かれていた。
分量がよく分からなかったため、買いすぎたチョコレートの残りはナルトに渡し、サスケが帰る前に何とか完成させたのだ。
勝手にうちはの家に入り込んだことを再び怒られるだろうが、任務に持っていけない大きさなのだから仕方がない。
それに、サスケの家で作ってしまえば、受け取る受け取らないの問題ではなく、サクラが置いて帰ればすむことだ。

「えへへー、愛情たっぷり。サスケくん、喜んでくれるかなー」
鼻歌を歌うサクラは、家に近づきつつあるサスケが自分のために気落ちしていることなど、知るはずもない。
サスケがケーキを食べてくれるかどうかということで、彼女の頭はいっぱいだった。


あとがき??
良かったのか、良くなかったのか、分からない坊ちゃん。
頑張って食べてくれ!
ちなみにナルトがもらったのは、湯煎で溶かす前の割りチョコです。
そんなもので大喜びのナルト・・・・。(涙)
元ネタは『うる星やつら』、のつもり。


駄文に戻る