前略、おふくろ様


「男の人は、お母さんと似た人を好きになるんだってー」

 

サスケの顔を眺めていたサクラは、いのから聞いた言葉をふと思い出した。
今、彼女はうちはの家を訪れ、風邪で任務を休んだサスケを看病している最中だ。
それどころではないと分かっているが、一度気になってしまうとどうにも頭から離れていかない。
「サスケくん、お母さんの写真ってこの部屋にないの?」
「・・・・はあ?」
出し抜けに訊ねると、氷嚢をおでこに乗せて横になっていたサスケは怪訝そうにサクラを見やった。
「何なんだ、突然」
「お願いー、ちょっとだけ見せて。ちゃんとお粥作ってあげるし、汗かいた服も洗濯するから」
「・・・・・・・」
頼んで来てもらったわけではないが、熱があるせいか何をするのも億劫で、サクラの存在は意外にも重宝している。
両手を合わせて頼まれれば、どうにも断りにくかった。

「・・・あそこの棚の、赤い背表紙のやつだ」
「有り難うーv」
立ち上がったサクラは、早速本棚の隅に入っていた赤い背表紙のアルバムを手にとり、表紙を開いてみる。
そして、最初の1ページ目を見た瞬間に、サクラは頭に巨大な石が落ちてきたような衝撃を受けてしまった。
幼い頃のサスケと共に写っているのは、間違いなく彼の母親だ。
微笑みを浮かべる黒髪の女性は超が付くほどの美女で、いくら見つめてもサクラと似たところなど一つもない。
唯一の共通点は性別が女ということくらいだ。
サスケの伴侶を選ぶ基準が母親だとすれば、サクラが乗り越えなければならないハードルはあまりに高すぎた。
「・・・・・」
暗い面持ちで閉じたアルバムを本棚に戻すと、サスケはさらに困惑した表情になった。
「どうした?」
「ううん、ごめんね、急に写真が見たいなんて言って。ちょっとキッチン借りるから」
サスケの粥を作るため、サクラはふらふらとした足取りで部屋を出ていく。
こうなったら家事の面でアピールするしかないと思ったのだが、肝心のお粥の味付けを失敗するとは、もはやフォローのしようがなかった。

 

 

「ちょ、ちょっと変わった見かけだけど、食べられないことはないのよ。いろんなもの沢山入れたし、栄養はあるの、栄養は」
愛想笑いを浮かべるサクラは、奇妙な香りのする粥の入った椀をサスケに手渡す。
見かけはかなり悪いが、味は美味くもなく、不味くもなく。
ただ、懐かしい感じがした。
無意識にサクラの顔を凝視していたらしく、彼女は不思議そうにサスケの瞳を見つめ返した。
「・・・・何?」
「別に」
意外にもサスケは文句も言わず粥を食べ続ける。
熱で体力が低下しているため、そうした気力もないのかもしれない。
赤い背表紙のアルバムへと目を向けたサクラは、知らずに小さなため息をついた。

「・・・髪、黒くしてみようかなぁ。似合うと思う?」
「やめておけ」
言下に否定され、サクラはさらにしょんぼりと肩を落とす。
確かに、髪型だけ近づけても、さして見かけは変わらないだろう。
「俺は今の色の方がいい」
あまりにさりげない物言いに、危うく聞き逃すところだった。
「えっ」と顔を上げても、サスケは黙々と粥を食べるばかりで、空耳だったのかとさえ思ってしまう。
口元を緩ませたサクラは、サスケに向かって笑顔で手を差し出した。
「サスケくん、おかわりは?」
「・・・・ん」

 

 

 

(数年前、うちは家の食卓)

 

「母さん、これ・・・・砂糖と塩、間違えたんじゃないの」
一口食べるなり、サスケは顔をしかめて舌を出した。
「あら、そう?ごめんね〜」
悪びれもせず謝る母は、にこにこと笑顔のままだ。
父が家にいるときは料理の本を眺めながら丁寧に作るらしいが、任務で不在のときはかなり適当な料理が出てくる。
「栄養はあるのよ、栄養は」
「・・・・」
そう言われても、ジャガイモやタマネギがゴロゴロとほぼ原型の形のまま入っているスープはけして美味いとはいえない。
外では大和撫子で通っている母だが、実はかなりおおざっぱな性格なのだ。
「イタチを見なさい。ちゃんと文句言わずに食べてるじゃないの」
傍らを見ると、確かに兄のイタチは平気でスープを啜っている。
「兄さん、平気なの?」
「慣れた」


あとがき??
サスケといるときのサクラは楽観的な性格なことが多いです。
サクラが落ち込んでいることを知らず、母と似てるかも、とか思っている坊ちゃん。
全体的にうちのサスケは、サクラのピンクの髪を気に入ってる設定のようですよ。


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