あさっての方向。 1


耳についた鈴の音に反応し、サクラは無意識に振り返っていた。
商店街には似つかわしくない、従者を連れたいかにも身分のある麗人が物珍しそうに周囲をうかがって歩いている。
まるでどこかの国からやってきた姫君がお忍びで町を散策しているといった風だ。
流れるような黒髪に目を奪われたサクラだったが、美しいのは髪だけではなかった。
黒曜石を思わせる瞳はくっきりと二重まぶたで、鼻筋も通り、肌は雪のように白い。
そして、近くにいればおのずと頭を下げてしまいそうな気品というものが彼女からは感じられた。

「綺麗な人・・・・」
人ごみの中に彼女の姿が消えると、自然と呟きがもれる。
年はサクラとそう変わらないように見えた。
生まれつきああした顔立ちの少女がいるのかと思うと非常に羨ましかったが、サクラの身近にも、同じように飛びぬけて整った容姿の人間がいる。
性別は違うが、サクラが羨望の眼差しを向けてしまうという点では共通した存在かもしれない。

 

 

 

「サクラ」
資料室の扉を開けて少しも行かないうちに、背後から声をかけられた。
待ち合わせをしていたのだからそこに彼がいるのは当然なのだが、喜びで顔が綻んでしまう。
名前を呼ばれるだけで、胸がどきどきして、たまらなく嬉しい。
サクラにこうした感情をくれるのは広い世界で彼だけだ。
「久しぶりだね、サスケくん」
「・・・そうだな」
サクラはにこにこ顔で駆け寄ったが、視線をそらした彼は実にそっけない。
目があったのは、ほんの2、3秒だ。
普通の少女ならば少しばかり落ち込むかもしれないが、サクラはそんなことには慣れっこだった。
「サスケくんも来たばかりなのね。ちょっと遅くなったと思ったけど、待たせなくて良かった」
「ああ」
すたすたと先に歩き出したサスケにくっついて、サクラは閲覧室へと入っていく。
彼に資料をまとめる手伝いをして欲しいと連絡をもらったのは、昨日の夜のことだ。
急な話だったが、サスケが困っているのだと知れば、サクラが無視できるはずがない。

 

「でも、サスケくんがこんなに仕事ためるなんて、ちょっと意外。締め切りの三日前くらいには提出しているのかと思った」
席に着くなり黙々とペンを走らせるサスケに、サクラはこそこそと小声で話しかける。
「そうか・・・・」
「うん」
ナルトならば宿題が終わらず手伝ったことが多々あるが、サスケは何事もきちんと計画的に済ませていた記憶がある。
ふと視線を上げると、部屋にいる者のほとんどが自分達、正確にはサスケの行動をちらちらと盗み見ていた。
その整った顔立ち以上に、うちは家の生き残りであるサスケは常に人目を引く存在だ。
里のどこにいても、誰かが彼を気にしている。
いつでも毅然としていて、愛想がないように見える態度は、サスケにとって己を保つために必要なことなのだろう。
平凡な家に生まれて、平凡に育てられて、平凡な才能しか持たないサクラとはまるで違っていた。

「・・・サスケくんの願いって、一族の再興でしょう」
「ああ」
「じゃあ、子供5人くらい産んだら、私のこと好きになってくれる?」
少しばかり首を傾げて訊ねてみると、顔を上げたサスケは呆れとも照れとも取れる曖昧な表情をした。
くすくすと笑みをこぼしたサクラは、片手を振って自分の発言を打ち消す。
「冗談よ」

うちは家の人間にのみ現れる写輪眼は里の宝ともいえる貴重な血継限界だ。
そして同じ隠れ里の名門である日向家とは違い、うちは家は今ではサスケしか残っていない。
財力のある商家の娘か、血筋の正しい姫君か、遠くない未来に彼が伴侶に選ぶのはそういった女性に違いない。
だからサクラはアカデミーにいた頃のように、サスケを追い掛け回すのは止めた。
好きという気持ちだけではどうしようもないこともある。
優先すべきなのは彼の幸せだ。

 

 

 

「何だー、サスケくんとは別に付き合ってるわけじゃないんだ」
「違うよ」
来客用の椅子に腰掛けるサクラは、いのが手入れをしている花を眺めながら言う。

サスケに浮いた噂がないせいか、誤解している者もいるようだが、二人はとくに親しく交際しているというわけではない。
「私が師匠の下で働くようになってから、会う機会も減ったしね。今日みたいにサスケくんの仕事を手伝うことはたまにあるけど」
「ふーん・・・・」
どうも納得いかないといった風に振り向いたいのは、サクラの足元にある鉢を指差した。
「ちょっと、それ取って」
「お客を使うの?」
「何言ってるのよ。暇なときに来ては、好き勝手喋って帰っちゃうくせに。そんなのお客と言いません」
「もーー」
ぶつぶつと文句を言いながらも、椅子から立ち上がったサクラは店番をするいのの手伝いを始める。
どうやら今日は誰かのために働くことに縁があるようだ。

チャクラを使って怪力を引き出せるサクラも、普段は非力な少女でしかない。
鉢をいくつか運び終えて一息ついたサクラは、誰かが店に入ってきた気配に、いのとほぼ同時に振り返った。
「おーい、いの・・・・ん、サクラもいたのか」
「シカマル」
「あんたが店に顔を見せるなんて珍しいわねー。どうしたの」
いのは明るく笑ってシカマルに歩み寄ったが、彼は何故かばつが悪そうな顔でサクラを見ている。
「ああ・・・、これ、お前もう見たかと思ってよ」
「何?」
「商店街で配られてた号外の瓦版。ビッグニュースだ」

 

シカマルの持ってきた瓦版を一緒に眺めたいのとサクラは、あんぐりと口をあけたまま、絶句した。
そこに載っていたのは、つい先ほどまでサクラが会っていたサスケの写真だ。
そして、彼と菜の国の姫君との婚約が決まったと大きく書いてある。
菜の国は火の国と最も親交の深い国の一つで、国主と綱手は個人的にも親交が深いらしい。
いのが気遣わしげに傍らを見たが、サクラはサスケの隣にある姫君の写真を凝視していた。
鈴のついた簪を髪に挿した黒髪の姫君はサクラが今朝、商店街で見かけた美少女に間違いない。
そしてサスケと並んでも全く見劣りしない姫君は、写真よりも実物の方がずっと綺麗だった。


あとがき??
次、サスケ視点。こっちが書きたくて出来た話だと思う。
ちなみに、タイトルの作品は漫画もアニメも見たことないです。


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