王様のように考える 1


スーパーが特売日だったため、食料品を買いすぎてしまった。
食い扶持が一人と一匹増えたせいか、今までは適当に食べたり食べなかったりという生活だったサスケも、毎日3食きちんと取っている。
料理の腕もさらに向上し、主夫らしさが増していく自分が少々悲しい。
こんなことなら荷物持ちとしてサクラも連れて来るのだったと両手の買い物袋を見たとき、ふと視界の隅に桃色のものが入る。
つられるように振り替えると、そこにいたのは案の定サクラだった。
よほど気に入っていたのか、今では魔法ではなく美容院で髪の色をピンクに変えているサクラだが、手元のソフトクリームに夢中でサスケに気づく気配もない。
彼女だけならばすぐに声をかけたかもしれないが、気になったのはサクラの傍らに立つカカシの存在だ。
そして、二人は妙に親しげな様子で話し込んでいる。
あの様子から察するに、サクラはソフトクリームを買い与えられて懐柔されたのだろう。
「あっ」
面白くない気持ちで話し込む二人を眺めていたサスケだが、カカシの手がサクラの肩に置かれたのを見たとき、我慢の限界を超えた。

「幼女に手を出すな!この変態がーー!!」
「えっ・・・」
カカシが視線を上げた瞬間、駆け出したサスケの飛び蹴りが見事にその顔面にヒットし、彼はまるでスローモーションのようにゆっくりと地面に倒れこんでいく。
キックボクシングの試合で選手がノックアウトされた光景を目の当たりにしたかのようだ。
「キッ、キャーー!!」
頭に血が上っていたサスケは、サクラの叫び声で我に返った。
食べかけのソフトクリームを放り出したサクラは、ぴくりとも動かないカカシの体を必死にゆすっている。
「ちょっ、パパ、生きてる!?すっごい音してたけど」
「・・・・・・・・・パパ?」
仰向けにしたカカシは白目をむいていたが、よくよく見ると黒い外套を羽織った服装以外に普段と違う部分がいくつかあった。
左目を隠す眼帯が無く、怪しげなマスクもつけていない。
そのカカシにすがりつくサクラはなおも悲痛な声をあげている。
「サクラの、パパ?それが?」
「そうよ、私のお父さんよ!魔法の国から私に会いに来てくれたの!!」

 

 

 

穴があったら入りたい。
サスケはこのとき心の底からそう思った。

「いやー、初対面の彼女の父親に、飛び蹴りはないよね、飛び蹴りは」
「本当に。いったい、若者のモラルはどうなっているのか」
「・・・・だから、謝っただろう。こうして何度も何度も」
平身低頭でわびを入れていたサスケは、時間がたつにつれ段々と機嫌が悪くなっていく。
あれからすぐに目を覚ましたサクラの父親を連れて家に帰ったのだが、少し意識がとんだだけで外傷はないらしい。
「大体、何でお前が当然のようにうちにあがりこんで茶を飲んでいるんだ!」
サクラの父と並んで双子のように同じ動作で湯のみを持つのは、近頃サスケの自宅を休憩所のように利用しているカカシだ。
一目見て何故だか意気投合した二人は、先ほどから息のあった様子でサスケをなじり続けている。

「逆ギレはいけないなぁ」
「悪いのは誰かな。首の骨が折れたかと思ったんだけど」
「くっ・・・・」
「もうそのへんにしておいてあげてよ。大事なかったんだし」
大きな怪我はなかったものの痛い思いをしたのは確かため、それまで傍観していたサクラもようやくサスケに助け舟を出す。
足をぶらぶらとさせて椅子に座るサクラを見るサスケの目は多少恨みがましいものになっていた。
「お前、何で自分の父親とカカシが似てるってこと今まで言わなかったんだ」
「えっ、似てるって?」
「そっくりだろうが」
サクラが顔を向けると、カカシと彼女の父親は同時に片手を振った。
見事にシンクロしている。
「間違えるほどでもないし。私のパパの方が断然格好いいじゃない」
「・・・・・・」
身内贔屓にもほどがあると思ったが、どうやら本気で言っているようだから、言葉は呑み込んでおいた。

 

「で、こっちに来た理由は何なの。私に会いに来たってだけじゃないんでしょう」
「ああ、そうそう。迎えに来たんだよ、お前を」
「はあ!?」
サクラよりも早く、サスケは素っ頓狂な声で応える。
サクラも驚いているようだったが、その顔は父親と目線を合わせるなり、すぐに伏せられた。
その仕草に、サスケはふと不安を覚える。
「お前だって分かってるだろう。壷が壊れた今、これから自分がどうなるか」
「・・・・」
「話が見えないんだけど。何のことを言ってるの?」
サクラとその父親の顔を窺ったカカシは、サスケの気持ちを代弁するように合いの手を入れた。

「私達精霊の魂は本来魔法の国にあるべきもので、この地上に肉体を留めるために神と契約をしているんだ。我が娘の場合は壷が依り代だった。だけれど、それが先日壊れてしまっただろう。つまり、契約が破棄されたということ」
壷の消滅を示すかのように、サクラの父はパンッと手を打つ。
彼はにっこりと微笑んでいたが、その口から出る言葉はひどく残酷なものだった。
「このまま帰らないと、魔法の国からの力の供給を止められた娘は寿命が減って死んでしまうんだ」


あとがき??
続きが読みたいという方がいたので書いてみました。
大体、以前考えた通りの展開・・・のはずですが、カカサク要素は殆ど無いですよ。


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