愛犬ラブストーリー
「最近、サスケくんとラブラブだねって、よく人から言われるの」
「ふーん。良かったじゃん」
「良くないーー」
茶をすするカカシを横目に、サクラは不満げな声をあげる。
「全然ラブラブじゃないんだもん。しかも、私のライバルは人間じゃないのよ」
怒気混じりに言うと、サクラはあんみつの寒天を口いっぱいに頬張った。
サクラに相談役として呼び出されたものの、若い女性の集まる甘味屋でカカシの注文できる物はなく、彼は二度目の茶のお代わりを頼んでいる。サクラが言っているライバルとは、近頃サスケが飼いだした雌の子犬のことだ。
赤毛の少し入ったその雑種の犬を、サスケがことさら大事にしているのだという。
「「可愛い」とか「賢い」とか、いつも話しかけているの。私だってそんなこと言われたことないのに!」
つんとした口調のサクラに、カカシは苦笑を漏らす。「犬に焼き餅やいてどうするんだよ」
「だってさ、サスケくん、最近変なのよ。何か言いたげな顔をしてこっち見てるんだけど、私と目が合うとすぐに顔を背けるの。何か隠し事でもしているみたい・・・・」
「サスケといえばー、特使の件はもう聞いた?」
「え、何?」
初めて聞く言葉に、サクラはスプーンの動きを止める。
「サスケの奴、特使として風の国に派遣されるんだよ。一度行ったらたぶん3年は里に戻ってこられないね」
「な、な、何それーーー!!!!」
サクラが絶叫した直後に、カカシは慌ててその口元を手で押さえる。
だが時はすでに遅く、甘味屋にいる人々の視線は二人に向かって痛いほど注がれていた。
「う・・うう・・・・。ひどい。もう4年もお付き合いをしているのに、私に何も話してくれないなんて」
「もう泣くなって」
肩を落として歩くサクラの背中を、カカシは優しく叩く。
「私は捨てられるんだわ。だから何も言ってくれないのよ」
「でも、何か言いたげだったんだろ。それが特使の件なんじゃないか」
「別れ話かもしれないじゃない」
カカシが何を言っても、サクラは悪い方へ、悪い方へと考えてしまう。
カカシが必死にサクラを励ます中、近道をしようと公園を横切ったときだった。「サスケくんの匂いがする・・・」
「へ?」
「こっちだわ」
カカシの存在などまるで忘れたように、サクラは走り出した。
「犬みたいな子だなぁ」
半信半疑のまま追いかけたカカシだが、はたして、そこにサスケはいた。
驚きに目を見張るカカシの横で、サクラは彼に気配を消すよう促している。
散歩の途中なのか、子犬を連れたサスケは人気のない林の中でしゃがみこんでいた。
「風の国に一緒に行かないか・・・・・・風の国に行こう・・・・・黙って俺に付いてこい・・・ずっと一緒にいたい・・・」
ぶつぶつと繰り返すサスケは、ひどく真面目な表情で子犬と向かい合っている。
植え込みに隠れ、様子を窺っているカカシとサクラに気づいた様子はない。
「何やってんだ、あいつ」
「ほら、言ったでしょう。私よりあの犬とラブラブなのよ。サスケくんは本気であの犬を愛しているのよ」
「いや、それは本当にまずいんじゃ・・・」
カカシがことを真剣に考え始めたとき、二人は信じられない台詞を耳にした。
「結婚しよう」言ったそばから、子犬を見つめるサスケの顔は真っ赤に染まっている。
暫しの間目が点になっていたサクラだが、考えるよりも先に体が動いていた。
「駄目よ、サスケくん!犬と結婚なんて!!」
怒鳴り声と共に突然現れたサクラに、サスケは目を丸くする。
「お前、どこから・・・」
「サスケくん、結婚なら私としましょう!絶対絶対、幸せにするから。私、風の国で頑張って専業主婦をするわ」
駆け出してサスケの胸倉を掴んだサクラは、必死の形相で彼に詰め寄る。
目を血走らせるその勢いに呑まれたのか、サスケは無意識のうちに何度も首を縦に動かしていた。
「あーあ、サクラってば。逆プロポーズしちゃって・・・、ん?」
足下に近づいてきた子犬が小さく鳴いたのを聞いて、カカシはもう一度繰り返す。
「サクラ」
すると、子犬は嬉しそうに鳴き声をあげた。
すぐにぴんと来たカカシは、人懐こいその子犬を抱え上げる。
「なんだ、お前の名前、サクラっていうのか」
慣れた様子で体をさすると、子犬は気持ちがよさそうに尻尾を振り始めた。
子犬の愛くるしい緑の瞳は、誰かのものと同じ色だ。「本当に素直じゃない奴だなぁ・・・」
呟いた瞬間、カカシは思わず破顔していた。
先ほどのサスケの妙な言葉の数々は、犬のサクラを本物のサクラに見立てて練習をしていたのだろう。
今までも、本人を前にして言えないことを、全部犬の方に言っていたのかもしれない。
サクラが周りから「サスケとラブラブ」としきりに言われていたのも、みんな彼の愛犬の名前を知ってのことに違いなかった。
あとがき??
サスケとサクラは18歳くらいです。
うちのサスケは天の邪鬼なので、どうもすみません。