子供の約束


演習場で、幼い子供が大きな声で泣き叫んでいた。
弱り切ったカカシとナルトは、顔を見合わせてため息を付く。
新しい術の練習をしていたときの事故だったのだ。
印の組み方一つで、術は様々な形に変化してしまう。
そのとき7班が挑戦していたのは、対象者の時がゆっくりと進むようになるという“ノロノロの術”だった。

「まさか記憶まで退行しちゃうとはねぇ・・・」
カカシは大泣きする子供の頭にぽんと手を置く。
それは3、4歳の年齢になったサスケだ。
失敗した術の影響で幼い姿になったサスケだが、チャクラを使い切れば術も切れる。
元の姿に戻るのは、3時間ほど後だろうか。
「先生、もっと早く何とかならないの」
「無茶言うなよー。一度発動した術は取り返しが付かないんだよ。記憶があれば別だけど、今のサスケはただの幼稚園児だし」
「兄ちゃんーー」
いきなり知らない人間に囲まれてパニックを起こしているのかサスケはずっと泣き続けている。

 

「あのさ、さっきからずっと兄ちゃん、兄ちゃんって言ってるけど、先生、サスケの兄ちゃんってどんな奴か知ってる?」
「・・・ああ」
「じゃあ、手っ取り早くその人に変化してよ。それならサスケも安心するだろ」
「ええーー、俺がイタチに!!?」
渋ったカカシだが、背に腹は替えられない。
カカシは記憶をたどり、昔のイタチの姿に嫌々ながら変化する。

「はーい。お兄ちゃん来たから、もう泣くなよー」
「・・・・」
その声を耳にするなりぴたりと泣きやんだサスケだが、にこにこ顔のカカシを見ると瞳を潤ませていく。
「そんなに優しくないーーー」
再び大音声を上げ始めたサスケに、カカシとナルトはげんなりと肩を落とす。
「どうしろってんだ・・・・」

 

「あー、まだ泣かしてる。何とかしておいてって言ったのに!!」
「そんなこと言ったって」
買い物袋を片手に走ってきたサクラを、カカシ達は困り顔で見つめる。
「小さいけどえらい強情だぞ。サスケなだけあって」
「何言ってるのよ」
しゃがみ込んだサクラが頭を撫でると、サスケは目を擦りながら顔を上げた。
「男の子なのに、泣いてばかりいたら恥ずかしいよ。ほら、蛙さんも笑ってる」
パペットを操るサクラは、サスケの顔の前で人形の口をぱくぱくとさせる。
「ね!」
「・・・・」

人形に興味を引かれたのか、急に大人しくなったサスケは手を伸ばして蛙に触り始める。
「良い子、良い子」
にっこりと微笑んだサクラは、サスケに飴玉を一つ差し出した。
“子供をなだめるには玩具とお菓子が一番!”ということで買い出しに行かされたのだが、サスケが笑顔を見せたのは飴玉のせいなのか、サクラのあやし方が上手かったのか、定かではなかった。

 

 

 

「・・・何だか、すっかりサクラに懐いちゃったよなぁ」
「羨ましい、いや、生意気な奴だ」
我が物顔でサクラの膝の上に座っているサスケに、カカシとナルトはやっかみ半分の野次を飛ばす。
昼食時、近くのレストランに入った7班だったが、サスケは用意された子供用の椅子ではなく彼女の膝を選んだ。
お子さまランチを美味しそうに食べるサスケを、サクラは後ろから覗き込む。

「こんなに可愛い子いないわよ、ねー。大きくなったら私をお嫁さんにしてね」
「ん」
もぐもぐと口を動かすサスケはフォークでハンバーグを突きながらしっかりと頷いている。
「あ、どさくさに紛れて!!サスケ、大きくなったら俺に蟹をご馳走しろよ」
「ん」
食べることに夢中なのか、ナルトの横やりにもサスケは素直に返事を返す。
「おいおい、サスケで遊ぶなって。そろそろ時間だぞー」

 

カカシのその言葉は非常にタイミングが良かった。
カカシが言い終えるかどうかというときに、サクラの膝への負担は倍になる。
眼前にいるのは、4歳児ではなく、12歳の少年サスケだ。
「おー、わりと早かったな」
「お子さまランチ、まだ半分残ってるってばよ」
「・・・・お、重い」
銘々、好き勝手なことを言い合う中、サスケは黙って立ち上がる。

「あ、サスケくん!」
「放っておけって」
出口に向かったサスケを追いかけようとしたサクラだが、カカシに止められた。
コーヒーをすすったカカシはしたり顔でサスケの心情を代弁する。
「小さかったときの記憶、しっかり残ってるみたいだ。サクラにずっとおんぶに抱っこだったから恥ずかしいんだろ」

 

 

 

一抹の不安を抱いていたサクラだが、翌朝の任務にサスケはちゃんとやってきた。
そして、何故か蟹の入った発泡スチロールの箱をナルトに手渡す。

「え、何、これ?」
「・・・・お前が言ったんだろ」
考え込んだナルトは、ようやくレストランでの自分の発言を思い出す。
「あー、大きくなったら蟹をご馳走しろって言ったやつ!って、お前、真面目だなぁーー」
蟹をしげしげと眺めながら、ナルトは呆れたように言う。
「俺は約束は守るんだ」
「サスケくんってば、いい人ねー」
くすくす笑いのサクラを、サスケは無言のまま見据える。
おそらく、彼女はサスケが念を押すように言った相手が自分だと気づいていないのだろう。

「そうだ。サスケくん、これ気に入っていたみたいだから持ってきたけど、いる?」
蛙のパペットを手に付け、口をぱくぱくとさせたサクラにサスケは目くじらを立てる。
「いらん!!」


あとがき??
うーん。サスケのモデルはとことん千秋先輩ですね。(のだめ)パペットは手を中に入れて動かす人形のこと。
ノロノロの術とかは、今のワンピースの展開を見ていて、何となく。
余談ですが、小さいときのサスケの服は体に合わせて縮んでいました。理由は聞かないように。
ただ、サクラの膝の上に乗るちっちゃいサスケを書きたかっただけでした。
サクラは分かっていないようですが、約束は守ってくれるそうです。良かったな。


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