痛み


サクラが泣いている。
怪我をした自分を見て、いつもサクラの方が泣く。
不思議だと思った。
痛みを感じているのは自分なのに。

 

「もう無茶しないで」

怪我の治療をしながら、サクラは涙で訴えた。
無理なことを言う。
復讐者である自分は、この命を引き換えにしてでも倒さなければならない相手がいる。
奴に五体満足で勝てると思うほど、慢心してはいない。
強さを手に入れるためならば、この身全てを引き換えにする覚悟もある。
無言のままの自分に、サクラの顔は一層悲しげに歪んだ。

昔、父さんと母さんは目の前で死んだ。
自分は何もできなかった。
近くにいる人間を敵の攻撃から無意識にかばってしまうのは、そのときの後悔からだ。
自分さえ傷つけばそれでいいと思っていた。

 

 

下忍の仕事に、生死にかかわる任務が入ることは滅多にない。
そのはずだったのに、これは何の冗談だろう。
守る側と守られる側。
怪我をするものと、無傷のもの。
立場は一瞬にして逆転した。

「サスケ!!手を離せ!」

叫ばれて初めて、自分はサクラを抱えたまま呆然と立ち尽くしていたのだと分かる。
出血のため、真っ青な顔のサクラ。
広がっていく血溜まり。
固く閉じられた瞼。
体の突き刺さったままのクナイ。
確かに現実なのに、いやな夢を見ているようだった。

幸い急所は外れ、命に別状はない。
見ればすぐに分かることだ。
それなのに、流れる血を見た瞬間、全身の体温が一気に冷めたことを感じた。

 

別件の任務の最中、森で偶然出くわした野盗。
全員捕獲できたというのに、罪悪感が心を苛む。
盾になったサクラのおかげで、自分は無傷のまま。
そして、カカシに背負われたサクラは苦しげな息を繰り返している。

考えもしなかった。
自分が傷つくよりも、何倍も苦しいだなんて。

 

 

 

病院の寝台に横たわるサクラはまだ目を開けない。
そんなはずはないと知りつつも、ある予感が頭を掠める。
もし、このまま目覚めなかったら・・・。
それはどんな強敵を前にしたときよりも、強い恐怖だった。

病院の消灯時間はとっくに過ぎている。
カカシとナルトも帰った。
看護婦に怒られてもここに留まっているのは、サクラが気づいたとき、最初に目に映る人間でいたかったからだ。
サクラが自分にしてくれていたように。

サクラはいつも、こんな思いをしていたのだろか。
何もできない自分が歯がゆくて、泣きたくなる。
月明かりに白い横顔を眺めつつ、サクラの涙を思い出す。
あれは忠告を無視されたからというより、不甲斐ない自分に対する悔し涙だったのかもしれない。
静寂の中、つらつらと考えていると、ようやく彼女の覚醒のときがやってきた。

 

ぼんやりと視線をさまよわせていたサクラは、気配に気づいたのか、自分のいる窓際へと顔を向ける。
安堵の気持ちは掻き消え、すぐに怒りが心を支配していった。

「無茶はするな」

口に出してから気づく。
つい先日、同じ言葉を聞いた。
彼女の声で。
似たようなことを考えていたのか、かすかに微笑んだサクラから自分は目線を逸らした。

 

「ごめん」

彼女の気持ちは分かったけれど、それでも立ち止まるわけにいかないから。


あとがき??
ない。


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