四枚目の葉っぱ
五月晴れの休日。
河川敷の原っぱで、サクラは必死に地面を這っている。
彼女は探し物をしていた。
遺失物ではなく、あるかどうか分からないものだ。
日が高くなる前に見付けたいと思っていたそれは、3時間ほど経過してようやく発見することが出来た。「サスケくん!」
嬉々として振り向いたサクラは、ぎくりとして動きを止める。
後方にいるサスケは草原の上に横になり、目を瞑っていた。
最後に言葉を交わしたのは、いつのことだったか。
雲の中に入った太陽と、翳った空。
それだけのことに、不安になる。
警戒心の強い彼が人前で無防備になるのは、今まで怪我か病気のときだけだった。
頬に触れようとしたサクラの手は、その直前で阻まれる。
真っ直ぐに自分を見据えてくる黒い瞳に、サクラは自然と安堵の笑みを浮かべた。「・・・死んでるのかと思った」
「人はそう簡単には死ねない」
つまらなそうに言うと、サスケは半身を起こしてサクラへと向き直る。
「何だ」
「うん。これ、サスケくんに」
サクラの掌にのっていたのは、幸せを呼ぶと言われる四つ葉のクローバー。
朝から彼女が探していたものの正体に、サスケは呆れているようだった。「それは、お前が持っていた方がいい」
「・・・・でも」
「お前に持っていて欲しい」
反論しようとしたサクラに、サスケは言い方を変える。
彼は、自分が幸せという言葉から遠い人間であると知っていた。
影のある横顔を見つめたサクラは、悲しげに眉を寄せる。
「復讐を果たせば、サスケくんは幸せになれるの?」
「・・・・」
サクラの疑問に、サスケはただ沈黙のみで答える。
返事をしようにも、分からないのだ。
恨む相手を殺したあとの、自分というものが。四つ葉のクローバーから葉を一枚取ったサクラは、それを再びサスケへと差し出した。
「じゃあ、これをあげる」
一枚だけのクローバーの葉。
怪訝な表情で自分を見るサスケに、サクラは瞳に涙を滲ませたまま微笑してみせる。
「私のクローバーは、サスケくんがいないと四枚になれないのよ」サクラに、彼の決心を変えるだけの力はない。
そして、彼についていくことも出来ない。
クローバーの葉は、サスケに対する手向けの気持ちの表れだ。
自分の幸せを願うならば、この場所へ帰ってきて欲しい。
「他の四つ葉を探した方が早い」
「うん」
「戻ってくるかも分からない」
「うん」
「俺もお前も、きっと変わっていく」
「うん」
サスケの胸に額を寄せたサクラは、彼の掌に葉の片割れを握らせる。
「待ってる。でも、サスケくんが嫌なら、やめる」その手で背中を抱きしめられることも、振り払われることもない。
どこまでも一方通行な感情。
「・・・お前は馬鹿だな」
サスケの悪言にも、声を殺して泣くサクラは頷くのみだ。
本当に別れのときがきたら、きっと引き留めてしまう。
願いが叶わなくても、覚えていて欲しかった。
彼の幸せを願う人間がいることを。
あとがき??
こんな別れ方もあったかもしれない。パラレルか。
四つ葉=幸せ、です。
ちなみに「死なない」じゃなくて「死ねない」なのですね。
鋼のエドウィンで書きたいなぁと思った話をサスサク変換してみました。これ、一番辛いのは実はサスケ。
好きだけど言わないし、大事だけど触らない。
帰れるはずがないから。