掃除屋さん


サクラが初めてサスケの家を訪れた日、まさか自分が毎週彼の家に通うことになるとは思っていなかった。

 

律儀、几帳面、綺麗好き。
サスケに対するサクラの印象がそれだ。
昔、7班として活動していたときの彼は遅刻をすることもなく、弁当は自分で作ったものを持参し、服は皺や汚れは一つもなかった。
家のことを母親に任せきりだったサクラは、一人暮らしの彼を尊敬の眼差しで見ていたものだ。
だからこそ驚いた。

「泥棒!!?」
散らかり放題の彼の部屋を見た瞬間に、サクラは迷わず叫んでいた。
だが、傍らにいるサスケは首を振って応える。
「出掛けに捜し物をしていたんだ」
「・・・そ、そう」
サクラは額に汗を流しながら頷いたが、それにしてもひどい有様だった。
スリッパを用意されたが、足の踏み場がない。
ごみ箱は横倒しになり、脱ぎ散らかした服がそこかしこに有り、本棚の本は全て床に散らばっている。
サスケの家でなかったら、サクラが上がり込むことは絶対になかった。

 

 

 

「何だかショック、凄くショックだったのよ!」
「それは意外よねー」
電話で話を聞いたいのは、サクラの話に相槌を打つ。
サクラと同じように、いのもサスケの部屋は塵一つ落ちていないと思っていた。
顔が美形だからというだけでなく、その性格も考慮してのことだ。

「それで、あんたそれからどうしたの?」
「掃除、したわよ。あんなところじゃお茶飲む気にもならないし。おかげで半日掃除と洗濯で終わっちゃったわよ」
「ふーん。ご苦労様」
「それが、まだ終わりじゃないのよ」
サクラは興奮気味に話を続ける。

「2週間あけて、またサスケくんの家に行ったら、また凄いことになっていたの」
「・・・・凄いって」
「部屋よ!あれだけ片づけたのに、また同じ状態に戻っていたの。私、気が遠くなりそうだったわ」
見えるはずはないが、受話器を持つサクラは額に手を当てて眩暈を表現する動作をする。
「何だか気になって、毎週サスケくんの家に掃除に行くのが習慣になっちゃた。私がいなかったら、本当、あの部屋どうなっちゃうのか心配だわ。変な虫とか発生しそう・・・・」

 

サクラがいのに電話した用件は、その話に関連することだった。
サクラは来月から任務で里を離れる。
その間、いのに自分の代わりにサスケの家に掃除に行って欲しかったのだ。
「別にいいわよ。サスケくんの家って興味あるし」
二つ返事で引き受けたいのに、サクラはホッと胸をなで下ろす。
滅多に他人を家に入れないサスケだが、同期のいのなら安心だった。

 

 

 

「・・・・話が違うんですけど」

サクラからいののことを聞いていたのか、サスケは日曜日にやってきた彼女をあっさりと家の中へ招き入れた。
そこは、まさしくいのが最初に想像したとおりのサスケの部屋だ。
見事なまでに、きちんと整理整頓されている。
物が殆ど置いていない、モデルルームのような印象だ。
とはいえ、サクラがわざわざ嘘を言うとも思えない。

「サスケくんて、もしかして片づけ魔?」
「ああ」
いのが食器棚に丁寧に仕舞われた皿を眺めながら訊ねると、サスケは素直に認めた。
初めは本当に捜し物をしていたのかもしれないが、サクラが来るたびに物を無くすのは不自然だ。
そうなると、サスケがわざと部屋を汚していた理由は一つしかない。
サスケ同様、几帳面な性格のサクラは汚れた部屋を見ればおのずと片づけたくなる。
そうして、部屋が散らかっていれば散らかっているほど、長い時間この場所に拘束されるはずだ。

 

「こんな回りくどいことしないで、「そばにいて欲しい」って言えばいいのに・・・・・」
いのが呆れ気味に振り返ると、サスケは不機嫌そうに下を向いている。
その姿がすねた子供のように見えて、いのは思わず破顔してしまった。
「無理か」


あとがき??
7班が解散して2年くらい経っています。
元ネタはそのまんま『死化粧師』「自由な孤独」です。
これ見た瞬間、サスサクで置き換えたくなったのです。
ナルトやカカシ先生は、素直にサクラに「好き好き」言って甘えられるんだけどね。
関係ないですが、うちの7班の面々はいのちゃんに対して非常に素直です。何でだろう・・。


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