ロングバケーション 1


日曜日の午後、木ノ葉商店街で買い物をしたサスケはくじ引きの引換券をもらった。
毎年夏になると商店街の各店舗で販売促進のためにこの券を配っている。
景品は旅行からポケットティッシュまで、様々なものが用意されていた。
くじ引きにはあまり興味がなかったサスケだが、“豪華景品!”の文字に引かれて会場へと向かう。

がらがらと音が鳴るくじ引き機の周りには、沢山の人だかりが出来ていた。
そして、会場の中心に設置されたテーブル上の“豪華景品!”の中で、サスケの目を引いたのは一等の新型パソコンだ。
親の残した遺産で細々と暮らす身、贅沢はできない。
分かってはいるがこの場から離れがたく、新型パソコンを眺めていたサスケは誰かに肩を叩かれて振り返る。
にこにこ笑顔で立っていたのは、同じ班の仲間のサクラだった。

 

「サスケくん、これ欲しいの?」
「・・・ああ」
「ちょっと待ってて、今、くじ引いてくるから」
「え」
意気揚々とくじ引き機に向かうサクラを、サスケは唖然と見送る。
欲しいと願ったところで、そう簡単に当たりくじが出るはずがない。
まさかと思いつつパソコンに視線を戻したサスケの耳に、受付の人間が鳴らす鐘の音が届いた。
それは高額の景品が当たったときにしか鳴らないものだ。

「サスケくん、当たったわよーー!!」
嬉しそうに手を振って駆けてくるサクラを、サスケは目を丸くして見つめる。
「本当か!!」
「うん、だから一緒に行こうね!」
「・・・・・一緒に、行く?」
「そうよ、あれが当たったの」
サクラが笑顔で指差したのは、特等の7泊8日南の島ツアーのパネルだ。
本来ならば喜ぶべきところだが、サスケは何故か顔を引きつらせてサクラを見る。
「パソコンは?」
「私、くじを引いてくるって言っただけだし。狙いはもともと特賞よ」

 

 

 

照りつける太陽、白い砂浜、青い海。
待ち望んでいた光景を目にしたサクラは、窓に張り付いて歓声をあげる。
「素敵―v見て見て、海の上のコテージよ。いつでも泳げるわね」
「・・・・・」
「うんうん。みんなサクラのおかげだよ」
青い顔で俯いているサスケの代わりに、カカシがサクラの言葉に相槌を打つ。
飛行機を乗り継ぎ、今、彼らはツアーの案内人が運転するワゴン車の中にいた。

「おい、ナルト、起きろ。ついたぞ」
「んーーー・・・」
ワゴン車に乗り込んでずっと眠っていたナルトは、カカシに肩を揺すられうなり声をあげる。
サクラの当てた特賞はもともとファミリー用のツアーで、4名までの招待と決まっていた。
サスケと二人で行くつもりだったサクラだが、さすがに子供だけの旅行は親が許さない。
そうした理由で保護者としてカカシが同行すれば、残るナルトが黙っているはずがなく、結局いつものように7班で行動することになったというわけだった。

 

「でもさー、よくサスケが承知したね」
各自、荷物をコテージへと運びながら、カカシはサクラに話しかける。
「え、何が?」
「「南の島なんか絶対に行かない」って息巻いていたじゃないの」
「ああ。サスケくんが駄目なら、私とカカシ先生の二人だけで行くって言ったのよ」
「・・・・・なるほど」

 

 

 

TVや写真では数え切れないほど見たが、サスケは実際に海に行ったことがない。
海、というより水全般が苦手だった。
風呂程度ならばまだ我慢出来る。
だけれど、池や湖を見ると、足の震えをこらえるので精一杯だ。
足の着かない場所に連れて行かれれば、おそらく気絶する。
幼い頃、家族で行った水族館で色とりどりの巨大な魚が泳ぐ水槽に落ちて溺れたのが水恐怖症の原因だった。
途方もなく広い海にもぐるなど、考えただけで寒気がする。

 

「サスケくーん、一緒に遊びましょうよv」
「俺に話しかけるな!!」
ビーチボールを持つサクラの誘いに、サスケは額に青筋を立てながら言い返す。
目を瞑っても聞こえる波の音、そして肌にまとわりつくような塩の香りと、サスケは必死に戦っていた。
ここは、山。
蝉の声がうるさく響く、森の中の禅寺だ。
正面に仏像が並ぶ本堂で、今、自分は修行のために座禅をしている。
瞑想にふけるサスケは、頭の中から海のイメージを消し去ることにかろうじて成功していた。
そうなると、耳障りだった波の音やサクラ達のはしゃぐ声が、僧の口からもれる読経に聞こえてくるから不思議だ。

「お前、朝から晩までそこで目を瞑って座っていて、楽しいのかー?」
不思議そうに顔を傾けるナルトは、ほんの悪戯気分で桟橋にいるサスケに水鉄砲を発射する。
顔を濡らす海水に、サスケの想像上の禅寺があっという間に消え去ったのは、言うまでもない。
「お前は・・・・・」
怒りに燃えるサスケは近くにあったヤシの実をナルトへと投げつけ、それは油断していた彼の頭に的確に命中した。
「な、何しやがる!」
「上等だ!ここまであがってこい!!」

 

取っ組み合いの喧嘩をするナルトとサスケを、ゴムボートの上でカカシとサクラはぼんやりと眺めている。
「・・・・毎日毎日、よくやるよね」
「あれって、楽しいのかしら」
南の島の静かなリゾート地、場所は変わってもやっていることは普段のままの7班だった。


あとがき??
前半は思い切りある
CMが元ネタです。
サクラが当てたのに、パソコンをもらえると思っているさっちゃんが何とも傲慢な・・・・。(笑)
海での修行僧のようなさっちゃんはのだめの千秋先輩がモデル。
サクラはくじ運が良いという設定です。くじ引きをすると必ず当たるっていう人、いるんですよ。
このまま終わってもいい作品なのですが、一応、続きを。


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