ロングバケーション 2


「じゃんけん、ぽん」
7班の下忍達が一斉に手を出すと、ナルトはチョキ、サスケとサクラはグーだった。
「はい、ナルトが荷物持ちに決定―」
「ちぇー」
むくれるナルトを横目に、サクラはくすりと笑う。
ナルトはじゃんけんをするといつも決まって最初にチョキを出す。
サスケもそれは承知しているようだった。

「じゃあ、食料の買い出しに行ってくるから。大人しく留守番していろよ」
「いってらっしゃい」
レンタカーのキーを持って出ていくカカシに、サクラは笑顔で手を振る。
ナルトやサスケがよく食べるせいか、ここに来る際に買い込んだ食材はあっという間に底を突いた。
一番近いスーパーマーケットは、車で片道15分程の距離にある。
「すぐ帰ってくるけど、泳ぐんだったらちゃんと準備運動をすること。それと、急に深くなっているところがあるそうだから、気を付けてな」
「はーい」
心配性なカカシの言葉にサクラは何度も頷いて応える。
好天に恵まれ、青い海は今日も穏やかだった。

 

 

 

「今日は耳栓、しないの」
桃色の浮き輪をつけたサクラはぷかぷかと波に漂っている。
サスケはいつもの定位置、コテージを出てすぐ手前の桟橋の上だ。
「慣れた・・・・」
「どこにいても、波の音がしているものね」
相変わらずしかめ面で座禅を組むサスケを見て、サクラはくすくすと笑った。

「ごめんね、泳げないのに、こんなところに連れてきて」
「・・・」
「見てれば、分かるよ」
面白くなさそうに視線を逸らしたサスケに、サクラはさらに笑みを深める。
「でも、楽しかったよね。やっぱり、みんな一緒が楽しくていいわ。海でも、山でも」
答えが返ることを期待せず、サクラは何度も繰り返す。
浜辺での花火にバーベキュー、任務に関わりなくこうして7班のメンバーでくつろいだのは初めてだ。
サクラは満足そうに笑っていたが、場所が南の島でなかったら、サスケも頷いたかもしれなかった。

 

 

座禅で瞑想する合間、うとうととしかけたサスケはハッと顔を上げる。

「・・・サクラ?」
いつからか、サクラの声は聞こえなくなっていた。
目を凝らしても、サクラが使っていた浮き輪が水辺にあるだけだ。
コテージに戻るならば、サスケの後ろの道を通るはずだった。
眉をひそめたサスケの脳裏に、ふいにカカシの去り際の言葉がよぎる。

 

『急に深くなっているところがあるそうだから、気を付けてな』

 

「・・・・冗談だろ」
青ざめたサスケは身を乗り出して海を見たが、透明度の高い水面にサクラの姿はない。
もし足がつって沈んだのなら、一刻の猶予もなかった。
「だ、誰か」
振り向いてもカカシとナルトは買い物中で、隣りのコテージまではだいぶ距離がある。
人の気配が全くない、海辺の世界。
この地球上に、まるで自分だけが取り残されたような錯覚に陥った。

太陽の強烈な日差しの下、うち寄せる小さな波をサスケは歯を食いしばって見つめる。
何も出来ず、大切な人間を目の前で失うのはもう沢山だった。
意を決したサスケは口を大きく開け、思い切り息を吸いこむ。

 

「サスケくん、見て見てーーvこんなに綺麗な貝殻が海の底に・・・・・」
サクラが波間からひょっこりと顔を出したのは、まさにサスケが海に飛び込む寸前のことだった。

 

 

 

「泳げないくせに、無茶するなよなー」

呆れた声と頭を叩かれたことで、彼の意識は徐々に覚醒していく。
「サクラちゃん、幻滅したんじゃないの?」
「馬鹿ね、逆よ!」
サクラは目を閉じたままのサスケを感動の眼差しで見つめていた。
「私が溺れたと思って飛び込んでくれたんだもの。凄く嬉しかったわ」

あの後、タイミング良く帰ってきたカカシとナルトが海に潜らなければ、サスケは死んでいたかもしれない。
溺れてパニック状態の人間を助けるのは、子供のサクラ一人では難しかった。
何とか飲んだ水を吐かせ、コテージのベッドに寝かせているが、サスケはまだ目覚めない。
いや、目を開けるタイミングを計れずにいた。

 

「えへへー、寝てる間に感謝のキスでも」
「あああーーー!!」
サスケの額に唇を寄せたサクラに、ナルトは悲鳴を上げる。
「ずるい!俺には?」
「俺も、俺も」
「サスケくんだけ、特別なの」
詰め寄ってくるナルトとカカシをサクラは冷たくあしらう。
赤くなる顔を自覚しつつ、よけいに起きることが出来なくなっているサスケだった。


あとがき??
楽しかったです!英さん、有難うございました。


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