放課後


学習塾の帰りで、時刻は夜の11時を過ぎていた。
家路を急ぐサスケは、足早に商店街の大通りを歩いている。
明日は、数学のテストがある日だ。
早めに帰り、今日までの復習をする必要があった。

どんなに懸命に勉学に勤しんでも、彼の成績は学年で2番目。
それは入学した当初から変わらない。
優秀な兄と比較され続けるサスケは、父の関心を得るためにも、何としても主席の座が欲しかった。
だが、彼はにどうしても敵わない相手がいるのだ。
同じクラスにいる、春野サクラ。
彼女は出席日数ギリギリにしか登校しないというのに、常にトップの成績を保っている。
サスケにとって、それは学園7不思議の一つといっても過言ではなかった。

 

当の本人は、ライバル視するサスケなど頓着せず、何かと彼にまとわりついている。
気づくと彼女に目がいってしまうのは、おそらく好成績の理由を知りたいからだ。
無意識に桃色の髪を目で追うようになっていたサスケは、その時も何気なく振り向いていた。
夜の町ですれ違ったサクラは、サスケに気づいていない。
人通りが少なくなった道で、彼女の隣りを歩いていた男はサスケもよく知る人物だった。

 

 

 

『春野サクラは担任のはたけカカシと親しく付き合い、テストの前に解答を教えてもらっている』

その噂が流れ出したのは、丁度サスケが彼らを目撃した翌日のことだ。
誰が言い出したかは定かでないが、それが事実ならば彼女の成績は誰もが納得することだった。

 

「絶対信じられないってのー!なぁ」
「・・・ああ」
向かいの席に座るナルトの言葉に、サスケはむすっとした顔つきで返事をする。
思いの外不機嫌なその声音に、振り向いたナルトは訝しげに眉を寄せた。
「何だよ、何か怒ってるのか」
「別に」
顔を背けたサスケは斜め前の席にいるサクラへと目を向ける。
自分が生徒達の話題の中心にいることを知ってか知らずか、休み時間の間も彼女は数学の教科書を見つめていた。
解答を事前に知っているという噂を打ち消すための演技かもしれないと、みんなが思っている。
だけれど、彼女の必死な様子からそうしたことは感じられない。

「・・・だからさ、俺、先生に直に真相を聞いてくるってば」
長々と話していたナルトの声は、その最後の部分だけがサスケの耳に入った。
ナルトが椅子から立つのと同時に、サスケも立ち上がる。
「俺も行く」
何故こんなにも気になるか分からないが、このままでは午後からのテストに集中出来ないことだけは確かだった。

 

 

 

「えー、そんな噂が流れてるんだー。照れちゃうなぁ」
ハハハッと笑うカカシに、ナルトとサスケは額に青筋を立てる。
「本当なの?」
「嘘に決まってるじゃん。テストの解答は金庫に厳重に保管されてるし、あの成績はサクラの努力のたまものだよ」
カカシは食べかけの弁当を口の中にかっ込む。
昼休み、校舎の中庭は生徒達が多く出入りをしていて、わざわざ彼らの会話に耳を傾けている人間はいない。

「まぁ、サクラは可愛いし、恋人にするなら彼女が卒業してからかなぁ」
「でも、昨日の夜、一緒に歩いていただろ」
「よく知ってるね」
カカシはにこやかに笑って答える。
「心配だったから、バイト帰りのサクラを捕まえたんだよ。お父さんの容態がよくないらしいから」
「・・・お父さん?」
「サクラ、あんまり学校に来ていないだろ。お父さんが病気で入院しているから、生活費のために働いてるんだ。お母さんもパートに出ているみたいだけれど、足りないみたい」

 

初めて聞く思いも寄らない事実に、ナルトとサスケは目と口を大きく開けている。
いつでも明るい笑顔を浮かべているサクラが、そうした深刻な問題を抱えているようには全く見えない。
また、彼女が誰かに愚痴をこぼしたこともなかった。

「そうだったんだ・・・・」
「無理しないで、学校辞めればいいんじゃないのか」
ナルトは冷たい発言をするサスケを睨んだが、カカシは笑顔のまま彼を見つめている。
「誰かさんとね、一緒にいたいから、辞めたくないんだって」

 

 

 

朝の新聞配達から始まり、日中はレストランの皿洗いと掃除、夕方決められた地域の家々にタウン誌を配り終えて仕事は終了だ。
入院中の父の様子を見て帰宅すれば、休んだ分の授業の勉強をしなければならない。
タウン誌の束を抱えたサクラは、それを自転車の籠に詰め込む。
そして、出発しようと向きを変えたとたん、サクラは自分を阻むように立つ少年に気づいた。

「・・・・・サスケくん?」
確かめるように声をかけると、サスケはすたすたと彼女に歩み寄る。
「何してるの、こんなところで」
「手伝う」
「え?」
籠の中の冊子を半分手に持ったサスケに、サクラは目を丸くして彼を制止した。
「い、いいわよ!帰るの遅くなるから!!」
「構わない。どの辺りで配ればいいんだ」
慌てるサクラを気にせず、サスケは淡々と問い掛ける。
困惑するサクラは、突然のサスケの行動を理解出来ずに彼を見つめ続けた。

「・・・昨日のテストの問題で、分からないところがあった。バイトが終わったら、教えて欲しいんだ」
ぼそぼそと話し出したサスケに、サクラはぽかんとした表情になる。
俯いていて、彼の顔は見えない。
だけれど、ぶっきらぼうな口調が照れ隠しだということは、何となく分かっていた。
「父のこと、聞いたの?カカシ先生から」
「・・・・」
無言の返事をするサスケに、サクラはにっこりと微笑を浮かべた。
「有難う。気を遣ってくれて」

 

 

サクラのことが気になるのは、彼女の成績が優秀だから。
カカシとサクラの噂話に苛ついたのは、腹が減っていたから。
サクラを訪ねたのは、分からない問題の答えを知りたかったから。
サクラの笑顔を見て嬉しくなったのは・・・。
・・・・・・。
どうしてだろう?

わざわざ理由を付けて行動するサスケにも、最後の疑問は永遠の謎だった。


あとがき??
に、二ヶ月もお待たせして申し訳ございませんでした。
学園ものでサスサク・・・・・。精一杯でございます。
以後、サスケはちょくちょくサクラの様子を見にバイト先を訪れたようですよ。
思えば、「『彼氏彼女の事情』に出てくるサスケとサクラみたいな感じの話」という抽象的なリクだったため、勝手に学園ものと思ってしまったんですが、違っていたらすみません。

210000HIT、未央様、有難うございました。


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